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結局先生にバレたと話すと、通信魔法の向こう側で隊長が大笑いした。
『中等科学園を侮るからそうなるんだ。教師には元上級戦闘職員だっているはずだ』
『そうなんですか?』
『怪我や歳で引退した後の人気職だ』
そうだったのか、と呟くアンリは現在、中等科学園の校舎の屋根の上に立っている。学園の防犯機構の効果と範囲を調べるには、全体を見渡せる場所が最適だからだ。もちろん、今回は最高レベルの隠蔽魔法を使い、しっかりと姿を隠している。
『それで、どうなんですか? 俺が標的になってる件は』
『う……それは』
言い淀む気配に、アンリは答えを察した。おそらくアンリに護衛をつけることを上に提案し、却下されたのだろう。
アンリのような上級戦闘職員にはよくあることだ。仕事柄、命を狙われることも少なくないが、それなら護衛をつけようと言っても、上級なら自分で対処できるだろうと捨て置かれてしまう。
そのうえ、実際に自分で対処できる場合がほとんどなので、文句の言いようがない。
『いいですよ、別に。今に始まったことじゃないし』
『すまない』
『それにしても、中等科学園の警備って意外と甘いんですね』
アンリは周囲を見回しながら話題を変えた。学園の周りは、よく見れば透明で薄い膜のようなものに覆われている。この学園の防犯機構の一部だろう。
通常こうした膜は結界と呼ばれ、目的に応じて様々な魔法を遮断する。例えば防衛局本部の周りには強い結界が展開されており、外から強力な攻撃魔法が放たれても、敷地の中にそれが届くことはない。副作用として中から外へも攻撃魔法は使えず、結界内外の出入りに魔法が使えないという難点もあるが、少なくとも外部からの脅威に対する安全は確保できる。
それに比べると、この学園の結界は極めて薄く、極めて弱い。登録した通信具による通信魔法を遮断することはできそうだが、攻撃魔法を受ければ瞬時に破れてしまうだろう。
『当たり前だろう。学園っていうのは、攻撃を受けることを前提とはしていないんだ』
『でもこんなの、生徒でも壊せますよ』
『生徒がお前みたいなのばかりなら、そうだろうな』
隊長は笑って言うが、アンリに冗談のつもりはない。この程度の結界なら、先日のアイラの魔法でも十分に壊すことができる。
『そういえばどうなんだ、学園生活は。うまくやっているのか?』
世話焼きな親じみた口調で隊長が問うた。二人の関係は仕事上の上司と部下にすぎないが、隊長は若いアンリの生活をいつも気にしてくれている。しかし中等科学園入学後はお互い忙しく、こうしてゆっくりと話す機会がなかなか取れていなかった。
気にかけてもらえたことが嬉しくて、アンリはやや口元を緩めた。
『楽しくやってますよ。明日は学年一位の女子生徒と、魔法で決闘する予定です』
『……それは、うまくやれているのか?』
『大丈夫ですって。さすがに俺だって、手加減はします』
そういう問題ではないんじゃないかと呟く隊長ともう二言三言言葉を交わし、アンリは通信を切った。
さて、と再び周囲を見渡して、アンリは学園周りの結界に意識を集中させた。結界の一歩外側に、アンリの魔力によって新たな結界を組み上げる。
攻撃を防ぐものではない。敵意を持った外部の人間の侵入をアンリに知らせるものだ。同じ結界を、寮の周りにも展開する。敵に感知されないように、そして先生に見つかって怒られないように、結界には強い隠蔽魔法をかけた。
これで不意打ちを受けることはないだろう。
できれば短期間でけりをつけたいものだと、アンリはため息をついた。




