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 通信魔法を受けた気配に、アンリは嫌な予感を覚えた。授業中のことだ。普段の連絡は夜と決めている。たとえ急いでいても、せめて授業が終わったタイミング以降。それがこんな昼間に届くのは、明らかに緊急事態だろう。


『アンリ、伝達だけだ。返事は後でいいから聞くだけ聞いてくれ』


 一方的に繋げられた通信魔法により、頭の中に隊長の声が響いた。よほど急ぎらしいと、アンリは意識をその声に傾ける。


『先日アンリがくれた情報を元に、イーダの東にある森を調べたら、確かに不自然な空間が見つかった。前にイーダの街の地下に見つけたような空間だ。しかし、もう活動拠点としては捨てられた後らしい。人は誰もいなかった』


 やっぱりな、とアンリは思った。先日東の森を訪れたとき、急に現れた男たちは大型の動物がいるから離れろとアンリたちを脅かした。


 しかしアンリが魔法により探索しても、あの森にそんな動物はいなかったのだ。そのうえ防衛局に通報したと言いながら一般人が見回りを行っているのも不自然だった。大型動物発生の通報を受けた防衛局が、その区域に一般人を立ち入らせることはない。


 何かある、と思って隊長に連絡しておいたら、案の定だ。


『だがあちらも、慌てて逃げたらしい。いくつか物が残っていたんだ。その中に、アンリの魔力の波長を記録したものがあった』


「は?」


 思わず声を発してしまったことで、教壇に立つトウリが振り返ってアンリを睨んだ。アンリは慌てて通信魔法を切り、背筋を伸ばす。


「どうした、アンリ。変な夢でも見たか?」


「い、いえ……すみません」


 周りでくすくすと笑い声があがった。トウリやクラスメイトたちは、アンリが居眠りをしていたものと勘違いしたらしい。通信魔法にまでは気付かれていないようだ。


 気を付けろとだけ言い置いて、トウリは元の説明に戻った。最近はアンリが居眠りすること自体はもはや日常になってしまって、あまりうるさく注意されることはない。それが成績にどう反映されるのか、恐ろしいところではあるが。


 トウリの注意が外れたことを確認したアンリは、今度は自分から通信魔法を繋いだ。


『アンリっ? どうかしたか!?』


 突然通信魔法を切ったから、驚かせてしまったのだろう。隊長が焦った声で応じた。アンリは実際に声を出さないよう気を付けて、頭の中で通信魔法のやり取りをする。


『いえ、先生にばれそうだったので』


『……驚かすなよ。なにがあったかと思うだろう』


『すみません。それで、どういうことですか?』


 魔力の波長は偽装したり、やや変化させたりすることはできるものの、基本的にはひとりひとり固有のものだ。その波長を記録する道具がある。魔力の波長を、身元照会や人捜しなどに役立てるためのものだ。


 便利な道具だが、悪用されることはある。戦争時には敵国の有力な戦闘員の波長を記録することで暗殺対象として手配したり、その波長の魔力を封じる道具を作ったりする。


 だからアンリは、特に任務中は偽装や隠蔽を駆使し、自らの魔力の波長が記録されないよう普段から気を付けている。いったい、いつ記録されてしまったのだろうか。


『おそらくイーダの街の地下を攻めたときだ。罠の発動を無理やり押さえ込んだときがあっただろう? あの罠に、記録のための遠隔魔法が繋がっていたんだろう』


 なるほど確かに、爆発しそうになった罠を急いで風魔法と水魔法とで止めたことがあった。急なことで、波長を誤魔化す余裕はなかった。


『向こうはおそらく、アンリをただの防衛局職員としか思っていない。まさか中等科学園生だなんて気付くことはないだろうから、そこにいる間は、それほど危険はないだろうが』


 記録をうまく使えば、すれ違っただけでも相手をそれと知ることができる。しかし逆に、それと知るには相手を目の前にするか、その魔法を感知する必要がある。魔力の波長から居場所を特定するような機能はないのだ。


『一応身辺には気をつけておいてくれ。あと、あまり街を出歩くな』


『ああ、はい、気をつけます。……でもたぶん、もう遅いと思うんですよね。俺がこの学園にいることは、ばれてますよ』


『え?』


 アンリが思い出しているのは、見回りと称して森の奥に人が近づかないよう見張っていた男たちのことだった。親切そうな様子だったが、あの場で現れたということは、敵の一味と思った方が良いだろう。


 あのときアンリたちは、学園の記章の入った鞄を持っていた。あの男たちには、イーダの魔法士科中等科学園に在籍していることが、知られてしまっている。


 アンリがそのことを告げると、隊長は難しそうに唸った。


『……わかった。対応を考えてまた連絡する。悪かったな、授業中に』


『いえ、ありがとうございました』


 通信を絶つと、ちょうど授業が終わったところだった。教科書の内容をわかりやすく噛みくだいて説明していたトウリが、話をやめて手元の資料をまとめ、教壇を降りた。


「今日はここまで。宿題を忘れるなよ。それからアンリ、お前は後で教員室に来い」


 なんで、と問い返す間もなくトウリは教室を去ってしまった。教室中でくすくすと忍び笑いが漏れる。


 授業中に注意されたことは度々あるが、公開呼び出しを受けたのは初めてだった。

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