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 耳に装着した器具から聞こえてくる合図に従い、アンリは前方の的に向かって魔法を発動した。七つの魔法を絡めた重魔法は、真っ直ぐ飛んで的を射る。


『着弾っ! さっすがアンリ君! お見事!』


『そういうのいいんで、結果見てくださいよ』


 すぐに実験室の扉が開き、検査室から白衣の女性が現れた。背中まで伸ばした亜麻色のロングヘアを颯爽とたなびかせ、ハイヒールをカツカツと鳴らして的へ近付く。赤く鮮やかなマニキュアを塗った爪で、的に張ってあった布をぺらりと剥がした。


「うん、いい感じ。布の下は全然傷ついてないね。これ、上級戦闘職員の七重魔法にも耐えられるって宣伝文句付けたら売れるかなあ?」


「売り出す前に本来の用途に加工してくださいよ。俺らの制服用ですよね」


「あら。アンリ君は休職中でしょう。これは現役戦闘職員の方々の制服になるのよ」


 連絡もせずに部隊からいなくなったことを揶揄され、アンリはため息を吐いた。いくら急に決まった話であったとはいえ、この人に連絡をしなかったのはアンリの落ち度だった。


「……俺も緊急招集では出るんで、制服は着ますよ」


「そうだったの? それなら、私の実験にも付き合えるよね?」


「なんでそうなるんですか。今回限りです、忙しいんです」


 むうっと頬をふくらます表情は可愛らしいが、見た目がやや童顔なだけで、年齢は四十に近い。アンリを誘惑するには若さが足りない。しかし誘惑云々は置いておいて、今回はアンリからこの人に頼みがあって連絡を取ったのだ。機嫌を損ねたままにしておくわけにはいかなかった。


「まあ、たまになら付き合います。どうしても必要なら連絡ください」


「ほんと? 火力あるし制御も上手いから、重宝するの! 助かるう!」


 明らかに道具と同じ扱いだが、これはいつものことだ。この人にとって、アンリは便利な道具でしかない。しかし、便利な道具を蔑ろにする人でもないので、アンリは特に気にしたことはなかった。


「それで、俺が頼んだ方は、お願いできます?」


「うーん、まだ一般流通はさせてないんだけど。ま、開発者の頼みじゃ断れないわね」


 代わりに実験の協力よろしく、と笑顔で言われ、アンリは仕方なく了承した。何も考えていないような顔をして、意外とスケジュール管理は完璧なので、アンリの都合の悪い日程で実験を組むようなことはしないだろう。


 帰り際の廊下で、アンリは掲示板の貼り紙におやっと目を留めた。中等科学園からの体験生を受け入れるため、指定の期間中、機密度や危険性の高い実験は本部でなくイーダ支部で実施することとある。


「中等科の体験カリキュラムって、ミルナさんのところでやってるんですか?」


「うん。知らなかった? 数年前から毎年、本部の研究棟でイーダの二年生を受け入れてるんだけど。今年は一年生が優秀だっていうから、ためしに枠を広げてみたの」


「……イーダの魔法士科中等科学園って、俺のいるところですね」


 そうだったの? と聞く彼女の声に含まれるのは、純粋な驚きだけだった。狙ったわけではないらしい。しかし部下への無茶ぶりと頭の回転の早いこととに定評のある彼女は、すぐに表情を輝かせた。


 アンリはただ、口を滑らせたことを後悔するしかない。

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