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翌日、元々訓練室で予定されていた魔法研究部の活動は、急遽、中庭の一角で行われることとなった。理由は前日の魔法実演によって訓練室の天井の一部が破壊されたことだ。
中庭に集まったメンバー六人を前にして、トウリは愉快そうに笑う。
「防護壁だけならまだしも、天井まで壊れたからなあ。修理に四、五日かかる」
「まったくアイラったら、何考えてるのかしら! 学校の設備なのに!」
「まあ滅多に見られないもんを拝めたんだ。得をしたと思え」
確かに、前日にアイラがやってみせた実演は、かなり高度な戦闘魔法だった。二種類以上の魔法をあれほどの強さで行使する実演を中等科学園で見られるとは、貴重な経験だろう。
「それにしても、昨日の実演の終わりは唐突でしたね。あれは演出ですか」
「いや。あれは、まあ。予定外というか……実は、よくわかっていないんだ」
イルマークの問いに、トウリは苦笑して頭を掻いた。
前日の実演でアイラが発生させた炎の竜巻は、天井を突いて訓練室内に轟音と振動をもたらした。が、ごくわずかの間だった。というのも、直後に天井から大量の水が降り注ぎ、竜巻や炎が消失したからだ。同時に実演者から見学の生徒まで、全員が水浸しとなった。音も振動も、全てが無に戻った。
「誰がやったかはわからないが、あのまま実演を続けていたら、訓練室はもっと壊れていただろうな。怪我人も出たかもしれない。それに気付いて、誰かが止めたんだろう。あれだけの量を一気に降らせる水魔法は、アイラの実演と同じくらい難しいぞ」
「しかし、水魔法は生活魔法ですよね?」
「一般的にはな。だが、規模によっては戦闘魔法と分類されることもある。……そのあたりは、アンリが詳しいだろう。解説してやれ」
トウリに振られて、アンリは苦い顔をした。以前、授業で話を聞いていなかったことを今さらになって蒸し返されるとは。意外と根に持つタイプなのかも知れない。
当時話した内容、つまり魔法に使用される魔力量によって生活魔法と戦闘魔法とを区分する場合があることをそのままイルマークに伝えると、彼は感心して頷いた。
「アンリはやはり、魔法知識に詳しいですね」
「いや、この程度は……エリックだって知ってるし」
「僕、アンリ君ほど詳しい自信はないなあ」
無意味な褒めあいが始まろうとしたところをトウリが遮って、今日の訓練を始めることになった。前回、魔力を流すところまで至らなかったマリアとイルマークは前回と同じ訓練。その他の四人は、水を使った魔法の使用訓練となる。
「訓練室の外で訓練していいんですか」
「やむを得ないからな。まあ、水魔法で庭を破壊できるような化け物はいないだろう」
化け物扱いされないように出力には十分気を付けようとアンリは心に決めて、訓練を開始した。中庭の池の水を使い、簡単に水を操るだけの魔法だ。
アンリにとっては児戯に等しいが、ほかの三人にとってはそれなりに充実した訓練となったらしい。なかでも先日魔力の流し方を覚えたばかりのハーツは、トウリに教わりながら初めての魔法使用となったため、なかなか有意義な時間を過ごせたようだ。
その日の訓練でイルマークは魔力の流し方を掴み、ハーツは魔法使用の実感を掴んだ。そしてまた何も進展のなかったマリアが喚き、トウリを困らせた。




