(25)
防衛局での体験カリキュラムの話は、翌日、トウリからクラス全体へ正式に発表された。
「参加条件は一種類でも生活魔法が使えること。希望者が多い場合は、来月審査になる」
審査は、魔法がどの程度使用できるかの実技試験と、魔法知識を確認する筆記試験となるらしい。組み合わせの試験ではあるが、配点上は実技が重視されるようだ。
あわせて、一年生の参加希望者向けに、魔法の訓練日が設けられることが発表された。週に一回、授業後に学年合同で訓練室を使って行われる。参加は希望制で、希望者には先生の指導がつく。
これを聞いて、マリアが昼休みに口を尖らせた。
「なによ。魔法研究部だけが特別だと思っていたのに。トウリ先生ったら、意地悪!」
「まあまあ。部活動は週に三回も時間を取ってくれているんだから。練習する機会が四回に増えると思えばお得だよ、マリアちゃん」
「うーん、確かに。でも魔法を使える人が増えると、ライバルが増えちゃう……」
「そんな細かいこと言わずに、俺らは俺らでがんばろーぜ」
ハーツの心の広いひと言に、マリアはむむむと唸りながらも、最終的には同意した。どのみちいくら不満を言おうと、決まりを覆すことはできない。
不満はあるが、利用できるものは利用しようという心らしい。その日の授業後、さっそく始まった訓練には、マリアを含め四人で揃って参加した。
もちろんアンリは、訓練を望んでいたわけではない。ほかの三人への付き合いと、中等科生徒の魔法レベルへの興味によるところが大きい。
訓練室には数十人の生徒が集まっており、中にはアイラの姿も見られた。
「あら三組の皆さん、ご機嫌よう」
「アイラ! なんでこんなところにいるのよ。自分の家に訓練室があるでしょう!?」
挨拶をされただけで、マリアのこの怒りよう。優雅に微笑んでいたアイラだったが、やや口をへの字に歪めた。
「失礼ね。私が訓練で学校の訓練室を使うなんて思っているの? 今日ここへ来たのは、先生から実演を頼まれたからよ。魔法の初歩も使えない皆さんに、同じ学年でこれだけ魔法を使える人がいることを、わからせてやってほしいってね」
訓練室の奥から、一組の担任と思われる教師がアイラを呼んだ。アイラはアンリたち三組の面々を蔑むように微笑んでから、たむろする生徒たちを追い抜いて部屋の奥へ進む。
訓練室の奥には、アイラを含めて三人の生徒が並んだ。
「はーい、注目! まずは訓練の前に、皆さんに目指してもらうレベルを、わかりやすく皆さんと同じ学年の子たちに実演してもらいます。実演は、一組の三人です」
教師の声をきっかけに、向かって右側の生徒が左手を挙げ、人差し指で天井を指した。数秒待つと、その指からにょろにょろと、植物の蔦が真っ直ぐ上に生えていく。天井につくほど蔦が伸びきると、今度はその根本から発火し、細い火柱となった。おお、周囲で歓声が起こる。火はすぐに収まり、燃え残った炭だけがはらはらと散った。
「はい、次」
次に真ん中の生徒が一歩前に出て、右手を宙に掲げた。その右手に、先ほど散った炭が吸いつくように集まっていく。人の頭ほどの大きさの球体になったそれは、空中でぐねぐねと練られるように動くと、真っ黒な炭色から、徐々に土の色へと変わっていく。
そうして再び球体に戻ると、ざらざらっと土の表面が崩れた。中から黄金の光沢が覗く。
隣にいたアイラが、土の塊に向けて手をかざした。すると土の塊に上から水が降り注ぎ、瞬く間に、表面の崩れかけた土を洗っていく。中から、輝く金塊が現れた。
教師が出てきて、宙に浮いた金塊を手に取る。手に取った瞬間に、金塊は土にもどってぱらぱらと床に散った。
「はい、ありがとう。さて、今の実演の内容なら、皆さん卒業の頃にはひと通り自分でできるようになるでしょうが、それを一部でも一年生のうちにものにしようというのが、今回の訓練の目標です。それから、目標を高く持ってもらいたいので、もう少し実演をお願いしましょうか。アイラさん」
教師が目配せすると、アイラはもったいぶった調子で、右手を頭上高くに掲げた。




