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エリックによると、どうやらマリアは、残り二枠を魔法研究部でもらうとアイラに宣言したそうだ。それに対してアイラがせいぜい頑張りなさい、などと煽るようなことを言ったものだから、余計に強情になってしまったらしい。
とんだ従姉妹喧嘩に巻き込まれたものだとため息をつきながら、アンリは手元のメモに目を落として説明を続けた。
「魔法を使用するときには体内の魔力を外部に出力して、外部の要素と結合させる。例えば水魔法なら水、風魔法なら空気、火魔法なら火との結合が必要だ」
授業の終わった三組の教室で、魔法研究部のメンバーが集まっている。今日はトウリが来られないとのことで、魔法知識についての自主研究だ。トウリの指示で、アンリが皆に魔法知識の講義をすることになった。
テーマはなんでもよかったのだが、マリアの持って来た話に皆興味を抱き、早く魔法を使えるようになりたいと気が急いていた。魔法の使い方に繋がる話なら興味を持つだろうと思って話すことをメモにまとめてきたが、思った以上に効果があったらしい。皆、真剣に話を聞いてくれている。
「慣れないうちは結合させる要素そのものに触れて魔法を使うとやりやすい。でも慣れれば、空気中に含まれる成分から魔法行使ができるようになる。たとえば水魔法は空気中の水蒸気から、火魔法は空気の温度を魔力で上昇させることで使える……らしいよ」
自分の経験上の話ではあるが、それがばれるのはよろしくない。
話をいったん区切ると、それまで真剣にノートをとっていたハーツが「せんせーい」とおどけた様子で手を挙げた。
「移動魔法とか、空間魔法とかは何と結合すんの?」
「空間そのもの、かな。火とか水とかに比べて形が見えない分、最初は難しいけど。移動魔法は空間に結合して移動距離を短縮する方法と、時間に結合して移動時間を短縮する方法があるよ。後者はどのみち自分の足で移動しなければならない分、体力を使うから、空間との結合のほうがおすすめ……って、本に書いてあった」
「アンリ君の読んだ本って、一度読んでみたいなあ」
エリックの言葉にアンリはひやりと肝を冷やす。もちろん本で読んだ知識ではなく、自分の実感を元にしている。どこかの本に同じことが書いてあればいいのだけれどと思いながら「ずいぶん前に読んだ本だから忘れた」と誤魔化しておく。
次に口を開いたのは、これまで発言なく物静かにしていたイルマークだった。
「結合って、具体的には何をどうするのですか?」
トウリの指導によって魔力の流し方がわかりつつあるイルマークにとって、魔法の使用は次のステップにあたる。次に何をすべきか気になるところだろう。
「魔力を体から放出して、その物質と繋げるイメージかな。最初は一番わかりやすい水とかで、先生が実演してくれると思う。見て、やってみるとわかりやすい」
最初の魔法実演は、魔法を指導する者の役割だ。大半の魔法士は自分の感覚で瞬時に魔法を使用してしまうため、わかりやすく実演してみせるということができない。しかし魔法を指導する者は、魔力の流れや結合の仕方がわかるように、ゆっくりと魔法を起動する。
「どのみち次の訓練日を待たないとできないということですかね」
「まあ、そうだな。初めて魔法を使うときには魔力が暴発しやすいから、指導者である先生に見てもらいながらやった方がいい」
誰に対しても常に丁寧語で話すイルマークは大人しいと思われがちだが、自分で勝手に魔法を使ってみたいという発想に至るほどには、積極的で過激だ。その意欲が続けば魔法の上達も早いだろうが、焦りによる危険とも隣り合わせだ。
「あー、もう! でも結局、魔力を流せるようになってからの話でしょ!」
皆からのあれやこれやの質問にアンリが答えているうちに、マリアがたまりかねたように大声を出した。自分だけが魔力の流し方の糸口さえ掴めていない状況に、相当の焦りを覚えているらしい。
何とかしてやらないと毎日煩いだろうな……と、アンリはまた、ため息を吐いた。




