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 結論だけいうと、作戦は成功したが、期待していた成果は得られなかった。


 マグネシオン家の庭から地中に向けて催眠魔法を発動し、その後、探知魔法で罠を慎重に排除しながら、通路を使って敵の拠点へ向かった。途中、一度だけ罠が作動して爆発が起こりそうになったが、アンリの風魔法と水魔法で抑え込んで、ことなきを得た。


 乗り込んだ拠点には、十三人の男たちが催眠魔法の効果で倒れていた。それぞれ捕縛し支部に引きずって帰ったので、今後尋問となるだろう。これ以降は、アンリの関与するところではない。


 しかし問題は、捕縛されたなかに、この組織の長と目されている男がいなかったことだ。


 トップを捕らえなければ、組織は再生する。幹部と思われる男を含め十三人捕縛したことは、一定の成果ではあったが、一番に期待した結果に比べれば見劣りすることとなった。


 せっかく広範囲で長時間にわたり強力な魔法を使ったというのに、その甲斐がない。


 徒労感と徹夜仕事の疲れに、朝の教室で、アンリは机に突っ伏していた。


「アンリ君、おっはよー……う? おやすみ?」


「んん、おはよう……」


「それはおやすみの顔だよ!」


 教室に入ってきたマリアの明るい声にようやく顔を上げたアンリだったが、眠気で目はなかなか開かない。目を閉じたまま、顔だけマリアのほうへ向ける。


「あんまり寝ていなくて、眠いんだ」


「昨日は外だったんだよねえ? 遊び過ぎたんでしょ」


「遊んでなんか、いないよ……」


 仕事だった、と思わず言いそうになったところで、なんとか気付いて口を閉じた。遊んでいたということにしておいた方が無難だったのに、なぜ否定してしまったのだろう。眠いと頭がろくに働かない。


「遊んでないなら何していたの?」


「秘密……そういうマリアは昨日どうだったの。従姉妹が家に来てたんだろ?」


 言ってしまってからハッとした。やはり、頭が働いていない。マリアの前でアイラの話など厳禁のはずなのに。


 しかし恐る恐る目を開けたアンリの前で、マリアは誇らしげに微笑んでいた。


「ふっふっふっ……よくぞ聞いてくれました!」


 不機嫌にされるよりももっと不吉なものを感じ、アンリは周囲を見回した。いつもマリアと一緒にいるエリックが、こういうときに限って見当たらない。アンリの不安をよそに、マリアは嬉々として語りはじめる。


「私ももう子供じゃないからね。昨日はもう諦めて、ちゃんとアイラと食事もしたし、お話もしたの。そうしたらアイラがいいことを教えてくれたのよ!」


「いいこと?」


「毎年、二年生の十数人が防衛局に行って、一か月間泊まり込みで職業体験をするっていうカリキュラムがあるんだけれど。それに、今年は一年生が三人参加できるんだって!」


 そんなカリキュラムがあること自体、アンリは知らなかった。防衛局のどの部署での話だろうか。もちろん生徒の参加だから、直接戦場などの危険地帯にも行くアンリの部署に関わるはずはないのだろうが。


「来月、希望者の審査があるんだって。悔しいけど、成績一位のアイラはもう決まったようなものでしょ。でも、残りの二枠は、私たちでも狙えると思うの!」


「ええっと。それ、狙って意味があるの?」


 いまいち士気の上がらないアンリの返しに、マリアは驚いたように目を見開いてから、アンリの目の前でパチリと強く手を叩いた。


「何寝ぼけたこと言ってるの! 防衛局と言えば皆の憧れでしょ! なんのために部活動を始めたの!? ここで頑張らないで、どこで頑張るのよ!」


 部活動を始めたのはアイラ・マグネシオンに対抗するためであって、決して防衛局に行くためではなかったはずだが。


 流石に目の覚めてきたアンリは、もちろんそんな余計なことを口にはしなかった。

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