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 午前中の授業を終えると、アンリは仲間に断って食堂とは逆の方へ向かった。一組の教室へ行くためだったが、もちろんそれをマリアのいるところで口にするほど馬鹿ではない。


 今日の外泊をウィルに伝え忘れていたため、話しに行くだけだ。


 しかし間の悪いことに、アンリが教室の扉を開けようとしたちょうどそのとき、同じ扉から出てきたアイラ・マグネシオンと鉢合わせした。取り巻きはおらず、ひとりだ。


「あら。三組の平民が一組の教室に、いったいなんの用かしら?」


「あー、えっと……ウィルに会いに来たんだ。ウィリアム・トーリヤード。いるかな?」


「相変わらず、一組に対する口の利き方を知らないのね」


 そう言いながらもアイラは出てきた教室を振り返ってきょろきょろと見渡し、前の方の席にいるウィルを見つけて呼ばわった。


「ウィリアム、お客さんよ!」


 わざわざ呼んでくれるなんて、意外に素直で優しいところがあるようだ。アンリが感心していると、アイラは勝ち誇ったように微笑んだ。


「ありがたく思いなさいよ。今日の私は機嫌がよいの」


 そのまま教室を去っていったが、たしかに足取りが軽い様子だ。態度に出るほど嬉しいことでもあったのだろうか。アンリには関係のないことだが、それで助かったのは事実だ。


 入口まで出てきたウィルに今晩外泊することを告げると、意外にもウィルは渋い顔をした。寮母のサラサに許可を取れば外泊できると以前教えてくれたのはウィルだったし、ウィル自身も、これまでに数回外泊している。嫌がられるものではないと思っていたが。


 しかし、ウィルが変な顔をしたのは、どうやら外泊そのものについてではないようだった。人目を避けるように廊下の隅に移動してから、ウィルは小さな声で言った。


「いいんだけどさ……まさか、マリアの家に行くわけじゃないよな?」


「うん? 違うけど」


 どちらかと言えばアイラの家だ。もちろん行先や用件を正直に説明するつもりはない。イーダに住んでいる知り合いから夕食に誘われたが門限に間に合わないので泊まってくるという、あらかじめ用意してあった話を伝える。


 アンリの答えに、ウィルは安堵した様子で息を吐いた。


「ならいいんだ。今日はマグネシオンが上機嫌でね。……どうも今晩、マリアの家に行くことになっているらしくて。水をさしたらタダじゃ済まないだろうから」


 なるほど、アイラ・マグネシオンは従姉妹であるマリアをよほど慕っているらしい。一晩ともに過ごせることを喜んで、三組の生徒にも優しくできるほどに上機嫌になるとは。つんと尖っているかと思いきや、なかなか可愛らしい性格のようだ。


「そんな面白そうな顔をするなよ。あの子と同じクラスって、大変なんだよ」


「うん、まあそうだろうな。同情する」


「アンリが魔法で懲らしめてくれたらって、昨日から十回は思っているよ」


「無茶言うなって」


 ともあれ、懸念さえ払拭されればアンリの外出に対して文句を言う様子はなかった。ただ別れ際、やや不安げな目をアンリに向けた。


「最近、貴族の屋敷に私兵が多いだろう。こういうときは、何か事件が起こっているときだから夜は出歩くなって、昔、父に言われたことがある。アンリも気を付けろよ」


「うん、ありがとう。また明日」


 なかなか鋭いウィルとウィルの父親の忠告とに笑顔で応じ、手を振って別れた。


 その事件を解決するために出かけるなどとは、もちろん言わない。

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