(21)
翌朝、顔を合わせたときからマリアはすこぶる不機嫌だった。
「なんでアンリ君、魔法が使えること黙ってたのよう」
「ええと、昨日も言ったけど。ほら、色々面倒だって言うだろ?」
ひと通りの文句は昨日聞き終えたと思っていたが、それはアンリの思い違いだったらしい。周囲に聞かれないよう気を遣ってはいるが、小声で細々と、いつまでも文句が絶えない。
「そんなの理由にならないよ。入学して一ヶ月も経つのに、ひと言も教えてくれないなんて。だいたいなんで常識知らずのアンリ君が、そんなところだけ常識人なの。エリックなんか、もっとひどいよ。何年幼なじみやってると思っているの。……どうせみんな、陰で私が魔法を使えないこと笑ってるんでしょ。みんなして、魔法が使えることを私に内緒でいるなんて。ずっと一緒にいたのに」
「僕は、その……魔法が使えるようになったのは、最近だったから」
「最近だろうとなんだろうと、使えるようになったらすぐに教えてくれるのが幼馴染みってものでしょお? なによ、なによ。どうせ私だけが魔法を使えないんでしょう。きっと、一生使えないんだから」
延々と同じ話の繰り返しだった。困ったアンリとエリックは互いに顔を見合わせたが、結局お互い肩をすくめるだけで、対処法はない。怒り出したときと同じく、これも放っておくしかないようだ。
ただ、不機嫌の原因はエリックが知っていた。
「実は今日、マリアちゃんの家にアイラちゃん一家が遊びに来ることになったみたいで」
「そうなの! 会いたくないって言ったのに。お父様もお母様も、我儘言うなって言うのよ! ひどいと思わない!?」
マリアは急に大きな声で、嘆くように言った。
なるほど、とアンリは昨日の作戦を思い出す。マグネシオン家での作戦中、一家は外へ避難しているということなのだろう。これは仕事が楽になる。アイラ・マグネシオンと鉢合わせする心配もなくなった。
「アイラはよろしくね、なんて笑ってくるし! あの子、絶対私のこと馬鹿にしてる!」
「落ち着いてよ、マリアちゃん。それ、アイラちゃんはただ挨拶しただけだと思うよ」
「エリックうるさい! だいたいエリックは魔法のこと隠してなんていないで、アイラにあっと言わせてやればよかったのに……」
そんなに使えるわけじゃないよと、エリックが小さな声で反論した。
感情がたかぶっても魔法の話になると声を落としているあたり、マリアも全く小さな子供のように喚いているわけではないらしい。ただ、不満のはけ口がほかに無いのだろう。
やがてやってきたハーツが話に加わると、今度は魔法が使えるようになった彼を妬む言葉が始まり、授業まで続くことになった。ハーツもうんざりした顔になったのは、言うまでもない。
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