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 その後、同じようなイベントが数日行われて、新人勧誘期間は幕を閉じた。





 最終的に、イルマークは魔法工芸部に入ることに決めたようだ。


 決め手は? と聞くと「いろいろな文化の勉強ができそうだから」とのこと。イルマークは常から、卒業後は世界を旅したいと言っている。その夢につながる部活動だと考えたらしい。


 それから、とイルマークは付け加えた。


「アンリがいるから、というのも大きいですね。アンリを見ていれば、きっと飽きずに面白いものが見られますから」


 アンリとしては、この言葉に喜んで良いのか悩むところだ。


 友人が自分を理由に魔法工芸部を選んでくれたのだから、当然嬉しく思う。しかし、アンリを見ていれば飽きない、だって? いったいどういう意味で言っているのか。


 しかも、魔法工芸部には入らないはずのエリックやマリアまで「それはわかる」と言わんばかりに頷いているのはどういうことなのか。


 しかし理解できないのはアンリだけのようで、誰もそんな疑問を口に出すことはなかった。





 ほかの友人たちは皆、元々聞いていた予定の通りにおさまったようだ。アイラは魔法戦闘部と魔法器具研究部の兼部。マリアとエリックは魔法器具研究部。ハーツは魔法系の部活動には入らずに、園芸部と山岳部。そしてウィルは魔法戦闘部と魔法工芸部の兼部。


 ウィルが魔法工芸部の活動にどの程度参加するのかは、今のところ未定だ。誘ったときには素材の採取だけでも、という話だったが「さすがに入部するなら、少しはやってみようかな」と通常の活動にも興味を示しつつある。

 アンリとしても、日常の部活動をウィルと楽しめるなら何よりだ。





 魔法工芸部では、アンリやウィルを含めて八人の新人が集まった。

 異例なのは、八人のうちの三人が一年生であること。もちろんコルヴォ、サンディ、ウィリアムの三人のことだ。


「ウィリアム君が二人いるからややこしいな」


 とぼやいたのは、部長を引退し、一部員に戻った四年生のロイ。部長の役を退いたとはいえ、部活動にはよく顔を出す。後輩の指導もすることを考えると、後輩たちの呼び方は彼にとっても重大な問題なのだろう。


 実は口に出さないだけで、アンリもそれは感じていた。周りの表情を見ると、キャロルを含めた先輩たちも、どうやら似たようなことを考えていたようだ。

 しかし、問題は一年生のウィリアムの言葉によって簡単に解消された。


「大丈夫です。僕、友人にはウィリーと呼ばれているので。そう呼んでください」


 二年生のウィリアムはウィル、一年生のウィリアムはウィリー。


 ああ良かった、とロイがほっと息をついた。





 二年生の部員は、アンリとウィル、イルマークのほかに、二年一組のセリーナ・エスキルスと、二年三組のセイア・ディケイド。


 二人は初等科時代からの友人とのことで、中等科に入ってクラスが分かれたものの、昼食を共にしたり休日に一緒に出かけたりと、疎遠にならずに一年間やってきたらしい。


「同じ部活動に入れば、また一緒に行動できるかなーって思って」

「それで、どこに入ろうって話をしていたときに、セリーナが突然、魔法工芸部がいいんじゃないかって」


 新人勧誘期間の部活動イベントを仲良く二人で巡っていたときに、セリーナの方が、魔法工芸部の展示に興味を持ったのだという。


「最初は魔法器具製作部がいいかなって話してたの。卒業後の進路にも繋がりやすいしね。でも、魔法工芸部の展示の入口のところでセリーナが急に、ここに入ろうって言うから」

「入口にブレスレットを飾ってあったでしょ。あれを見て、感激しちゃって。魔法工芸を使えば、あんな風にお洒落な魔法器具がつくれるんだと思って」

「私は最初、どうかなって思っていたんだけど……展示会場の中に入ったら、素敵なものばかりで。特に、魔力石が綺麗に輝くランプ。あれ見て、感動しちゃった」


 セリーナはアンリの腕輪に、セイアはキャロルのランプに心惹かれたということらしい。二人で意見が揃い、めでたく同じ部活動への入部に至ったそうだ。


 アンリにとって、セリーナは今のクラスメイト。セイアは一年のときのクラスメイト。どちらも縁のある相手ながら、これまでそれほど話す機会もなかった。これを機に友人として付き合えればと、期待も膨らむ。


「それにしてもあのブレスレット、アンリ君がつくったんだって? 最初の魔法の授業のときにも思ったけど……アンリ君って、天才なの?」


 アンリは曖昧に笑って誤魔化す。


 魔法研究部のときには、最初の頃に偶然、アンリの力と立場とが部員全員にばれてしまった。結果的にはそれが、毎日を楽しく過ごすにあたって良い方に働いたと言える。


 魔法工芸部でも、自分の職を明かしてしまった方が楽になるのではないかと考えることはある。しかしながら、それによって普通の学園生活を送る機会を逃してしまうとしたら、それはそれで、もったいないとアンリは思うのだ。


(話すのは、いつでもできる。だからしばらくは、話さずにどこまでできるか試してみよう)


 まずは授業で使う魔法に気をつけよう。

 それから、部活動でつくる作品も。

 そうして「普通の学園生活」とやらを満喫しようと、アンリは改めて決意する。





 こうして八人の新入部員を迎えたことで、魔法工芸部の新部長となったキャロルは、嬉しそうに顔をほころばせた。


「さすがに魔法器具製作部よりも多く、なんてことにはならなかったけれど。それでも、去年より素材採取場は広く確保できそうね」


 魔法器具製作部との部員の比率は、五対二になった。西の森の素材採取場は、同じ比率で分けることになるだろう。これまでの倍とはいかないが、だいぶ面積は増えるようだ。


「なんなら先日のアンリさんの活躍をダシにして、少しくらい優遇してもらおうかしら」

「……好きにしてください」


 基本的には部員数で面積の比率を決めるが、どの場所をどちらの部活動の領域とするかなど、細かな調整は部長同士の話し合いだ。その話し合いでキャロルは、魔法器具製作部の展示会で起こりかけた事故をアンリが防いだ、あの一件を持ち出そうとしているらしい。


 恩を着せるほどのことでは、というのがアンリの率直な意見だが、やる気になっているキャロルを敢えて止めるほど、アンリも愚かではない。





 二年生に進級し、学園生活では何が変わるのだろうと、アンリはずっとそわそわしていた。魔法研究部を解散したことが、どう影響するのか。一組に動いたことで、何が変わるのか。


 友人たちは、それぞれ自分の考えで所属する部活動を選んだ。アンリは部活動で、新たな友人をつくることができそうだ。先輩との交流ができ、後輩との交流も生まれた。


 授業ではようやく魔法の実践が始まった。担任教師が変わり、これまでとは違った緊張感が求められる。


 二年生になっての変化を、アンリは日々、多々感じている。

 この変化が良いものなのかどうか。あるいは、良いものにできるのかどうか。

 まだ変化が始まったばかりである今、アンリには、こうした問いに答えを出すことができない。

 むしろ、学園生活を送る限りは、ずっと変化の連続なのかもしれない。だとすれば、答えを知るのはずっと後になるだろう。


(院長先生と隊長に言われて、仕方なく通い始めただけだったけど……)


 アンリはこれまでの一年間、そしてこの変化に富んだ一か月間を振り返る。


(ずっと、こんなふうに楽しくて飽きない生活を送れるなら。悪くはないな)


 これから卒業までの三年弱の期間に期待を持って、アンリはそう考えた。






第5章完結です。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


次から第6章です。

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