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 通信魔法で受けた指示に従って、アンリは街の西側にある防衛局の支部に向かった。いつもの街中より、やや物々しい気がした。支部の戦闘職員の制服とよくすれ違うし、貴族屋敷の門に常駐する私兵も多い。


 警備の人数の多さが気のせいでないことは、支部に着いてわかった。


「ああアンリ。直接会うのは久しぶりだな、呼び出して悪かった」


「いえ、隊長。何かあったんですか」


「うん、先日アンリが捕まえてくれた奴らからの情報なんだけどな。実はこのイーダに、組織の拠点があるとわかったんだよ。今、拠点を叩く準備中だ」


 それで警備が多かったのかと、アンリは納得した。貴族の私兵まで多いとなると、情報は既にイーダの街全域に周知されているのだろう。ということは。


「拠点の位置はもう押さえてある。逃がさないように退路となる道路には検問を設置。今日明日には乗り込む予定だ。で、アンリにも作戦に参加してほしいと思って」


 つまり、街中に警戒態勢を敷いていることを敵に知られても問題のないところまで、作戦は進んでいるということだ。ここまで進んでいるにもかかわらず自分が呼ばれる意味が、アンリにはわからなかった。


「そこまで追い詰めてるなら、俺の手なんていらないでしょう」


「うーん、そう言いたいところなんだが。実は見つけた拠点がかなり地中深くに設けられていてね。今のうちのメンバーだと、そこまで直接魔法を届けられないんだ」


「出入りする通路があるでしょう? そこから普通に攻めればいいじゃないですか」


「通路に罠が多くてな。爆発でも起きたら街に被害が出かねないから、ゆっくり進まざるをえない。その間に犯人に自爆でもされたら、それも困る。それで、真上から土魔法で掘り返すっていう案が出たんだけれど、真上はどえらい貴族様のお屋敷だったんだ。なんとか庭の使用許可はもらったんだけれど、掘った分ちゃんと戻せとか、屋敷に被害が出たらどうとか、色々うるさいんだよ……」


 まあ貴族でなくても、いくら犯罪捜査への協力とはいえ、自分の家が壊されるのは嫌だろう。庭の使用許可を出してくれただけでも有難いと思わなければいけないところだ。


 ここまでの話で、アンリには自分が呼ばれた理由がわかってきた。


 今のメンバーだと直接魔法を届けられない深さ。しかしきっとアンリの魔法なら届く深さなのだろう。できるだけ庭を掘り返さずに片を付けたいのだ。


「アンリには、拠点にいる人間をぱぱっと戦闘不能にしてもらいたい。その後、我々で罠を解除しながら通路をゆっくり進んで犯人を確保する。これが作戦だけど、どうかな?」


「俺がやるのは、犯人をぱぱっと戦闘不能にするところまでですか」


「そう。短時間で済む内容にしておいた方がいいかと思って」


 作戦に参加するには、寮を抜け出さなければならない。今日のように散歩と偽ることもできるが、長時間の外出は怪しまれるだろう。隊長は作戦を立てるにあたって、それを考慮してくれたようだった。


 しかし、チームの中で自分だけ楽をするのも、申し訳なく思えてしまう。


「……俺の都合のいい時間で作戦を実施してもらえるなら、全部参加しますよ」


「えっ、ほんと、いいの!?」


 隊長の声には、明らかに喜びが混ざっていた。一応アンリに気を遣った作戦を組んだものの、本心ではこうしてアンリが全作戦に参加することを期待していたのだろう。


「明日の授業が終わってから、明後日の朝、登校する時間まで。その間ならいいですよ」


 知り合いの家に招かれたとでも言って、外泊許可を取ればよいだろう。夜になってからウィルの目を気にして外へ出るよりは、多くの時間をとることができる。


 助かる助かると何度も同じ言葉を繰り返して有り難がる隊長と作戦の詳細を詰め、アンリは支部をあとにした。


 作戦の中でアンリが不安に思ったのは、ただ一点。


 集合場所に指定された、拠点の真上にある貴族の屋敷。その屋敷が「マグネシオン家」のものであるということだけだ。

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