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魔法実践授業の二回目は、クラスの皆が期待したとおり、訓練室で行われることになった。
訓練室に集合したのはレイナを含む教師五人と、一組の生徒全員。どうやらレポートで脱落したクラスメイトはいなかったようだ。
(レポートって、ああいうので良かったのか)
何を書けば良いのかわからないと唸りつつ、アンリはレイナの話を要約し、感想を付してレポートとして提出した。評価の良し悪しはわからないが、こうして実践の授業に参加できるのだから、少なくとも不合格の烙印は押されなかったわけだ。
大丈夫だと思うよ、と曖昧ながらも助言をくれたウィルに感謝すべきだろう。
「これまでに魔法を使ったことがない者は右手へ。すでに一種類でも魔法を使うことのできる者は左手側に集まりなさい」
レイナの指示に従って、クラスは二手に分かれる。さすがに一組ともなると、魔法を使ったことがない者は少ない。右手側へと集まったのは、三十人のうち五人だけだった。残る二十五人は、授業で習うまでもなく、一度は魔法を使ったことがあるということだ。
その人数比に感情を動かすこともなく、レイナはただ淡々と事務的に続ける。
「よろしい。では魔法を使ったことのない者は、補助の先生たちのもとで個別に訓練を始めなさい」
三人の教員が、魔法を使えない五人の指導についた。レイナともう一人との二人で、魔法を使える二十五人の訓練にあたるということらしい。
「さて、今日は初回だからね。魔法を使える諸君には、どの程度の魔法が使えるのか実力を見せてもらおう」
そう言って、レイナは生徒を並ばせて、順に基本五系統の魔法を試させる。
生活魔法の中でも基本と言われる木・火・土・金・水の五系統。一人一人実演すると、「魔法が使える」といっても程度は様々であることがよくわかる。
五系統のうち一種類しか使えない者もいれば、数種類だけ使える者、五種類全て使えるが威力が安定しない者もいた。
(一組は魔力貯蔵量が多くて才能のある生徒が集まったクラスのはずだけど……。優秀でも、中等科学園生ならこんなもんか)
同級生たちの魔法の水準を興味深く眺めながら、アンリも抑えた威力で安定した五系統魔法を披露した。すでに戦闘魔法まで使えることを昨年末の検査で申告しているから、生活魔法の中でも基本となる五系統魔法程度であれば、あからさまに下手に見せる必要もない。
無難に終わらせたアンリの後に、このクラスで最も魔法を得意としていると見られているアイラの実演。アイラらしく、安定しつつも力強い魔法を披露する。後に続いたマリアも魔力放出補助装置を使いこなして、アイラほどではないものの安定した魔法を見せた。
(水魔法の噴水で訓練室を水浸しにしたのが懐かしいな)
そのほか元魔法研究部の面々の魔法も、堅実に、安定していた。特にウィルやエリックの魔法は、昨年末に部活動で見たときよりも精度が上がっている。
アンリやトウリによる指導の成果というよりも、本人たちの自主的な訓練の賜物だろう。
「次に、各自の魔法の最大出力を確認する」
基本五系統の実演が終わると、休む間もなくレイナが次の課題を提示する。
「呼ばれた者からそこの印の上に立って、奥の的に向けて、自身の最も得意とする魔法を最大の威力で放ちなさい」
つまり的当てだ。
レイナは次々と生徒を指名して、生徒に魔法を実演させる。これも人によって、実力に随分と差が見られる。的に魔法を届けられない者。なんとか届けられても、撫でる程度で終わってしまう者。的にうまく当てられず、魔法が逸れてしまう者もいる。
「次、マリア・アングルーズ」
十数人目にマリアが呼ばれて印の上に立つ。マリアは一番得意な水魔法を放ち、的を見事に破壊した。
ここまで的に魔法を当てた者はいても、的を壊した者はいない。初めての偉業に、見学していたクラスメイトたちから控えめに拍手が起こる。マリアもやや誇らしげに、嬉しそうに微笑んだ。
「次、ハーツ・タカナシ」
一方でレイナはたいした反応も示さずに、淡々と次を呼ぶ。的はもう一人の教員が、何も言わずに粛々と魔法で作り直していた。
この辺りになって、自分の順を待つ、あるいは自分の出番がすでに終わった面々の中でひそひそと、囁き声で不安げな言葉が交わされ始めた。
「これ、なんの順で呼ばれてるんだ?」
「わからないけど、だんだん魔法の威力が強くなってない?」
「魔法のできない順にやらされてるのか?」
「でも、去年の一組ならともかく。新しい人の魔法なんて、レイナ先生どうして知ってるのさ。魔法力検査じゃそこまでわからないでしょ?」
彼らの言葉はもっともだ。最初の基本五系統魔法の実践では、その場で並んだ順に魔法を行使した。
ところが今回は、レイナの指名順。無作為な順かと思いきや、後になるにつれて魔法の練度が確実に上がっていて、マリアの後には的を壊す生徒も多い。
昨年末の魔法力検査は簡易検査で、使える魔法の種類を申告する仕組みだった。それだけでは、魔法の強さまでは測れない。魔力貯蔵量順で並べたとしても、魔法を習いたての初心者段階では、魔力貯蔵量と魔法の威力とは比例しないため、こういう結果にはならないはずなのだ。
(これは……さっきの五系統魔法で、何かを見られたかな)
アンリも不思議に思いながら、同級生たちの魔法実践を見守る。もう二十人の実戦が終わったが、アンリはまだ呼ばれていない。
(五系統魔法の威力順……じゃないか。だいぶ抑えたから、それならもう呼ばれているはず)
「次、エリック・ロイドレイン」
エリックが呼ばれ、残るはアンリとアイラ、ウィル、そしてイルマークの四人。
アンリからすれば確実に的を破壊できる四人であることは明らかだが、問題は、なぜレイナにそれが分かるのかだ。
その理由がわからないと、魔法の威力をどれだけ抑えて良いのかもわからない。
(最大の威力でって指示を守っているように見せないと、きっとあの先生怒るよな……。とはいえ、本気で最大の威力なんて、使えるわけがないし)
こんなところで実力を明かすつもりはないし、そもそもそんなことをしたら、防護壁を三枚しか張っていない訓練室など、簡単に壊れてしまう。訓練室どころか、この学園の建物自体が怪しい。
しかし、どんな基準で呼ばれているかがわからないことには、どの程度の魔法であればレイナを誤魔化すことができるのかがわからないということだ。
(でも、残りは全員知っている面子だから。前の人より強い魔法で、後の人よりは弱い魔法……うん、それなら大丈夫なはず)
あれやこれやと考えを巡らせているうちにイルマークとウィルの実演が終わり、残るはアイラとアンリだけとなった。
「次、アイラ・マグネシオン」
このレイナの指名には、訓練室内全体がざわついた。何を元に判断しているのかはわからないものの、ほぼ魔法の威力順に呼ばれているのは明らかなのだ。そして、一組の中でもっとも魔法の威力が強いのはアイラだと、誰もが思っていた。
それなのに、アイラのあとに、もう一人生徒が残っているとは。
(嘘だろ……俺、アイラより強い魔法を撃たなきゃいけないのか?)
同級生たちから奇異なものを見る目を向けられたアンリは、いかにしてこの同級生たちの目を誤魔化すか、そして、どうしたらレイナの目を誤魔化すことができるのか……そのことに、頭を悩ませる羽目になった。




