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足りないメンバーは、アンリとハーツがそれぞれ寮のルームメイトを勧誘することになった。アンリが声をかけたウィルは、幸いにも部活動への参加を快諾してくれた。
「一年間、魔法が使えることを隠し通すのは大変だと思っていたんだ。部活動で覚えたって言えば、話がスムーズだろう」
なるほどそういう考え方があったかと、アンリも視野が開けた思いになった。
ハーツのルームメイトはイルマーク・トレンドラという二組の生徒だった。長い銀髪に群青色の瞳を持った、異国風の男子だ。といっても祖父が異国出身のクォーターであるというだけで、本人は生まれも育ちもイーダ近くの街だという。二組に割り振られるほど魔法力検査の結果はよいのだが、魔法は使えない。二組ともなると周囲に魔法の使えるクラスメイトも多く、悔しい思いをしているという。
六人そろったことで改めてトウリに指導を依頼して、晴れて魔法研究部がスタートすることになった。
記念すべき初回の活動は、ある日の授業後、生徒が帰った後の三組の教室で行われた。教壇にトウリが立ち、六人が生徒として席に座るため、通常の授業に近い。
「前に話したとおり、活動は週に三回。俺が来られない日は、アンリを中心に魔法知識の研究に充てること。魔法知識と魔法使用は別物だが、知識があったほうが魔法使用もスムーズになる。それに部活動の名前も魔法研究部だ。知識の研究も怠るなよ」
それから注意事項に移る。魔法を覚えても、むやみに自慢をしないこと。もちろん喧嘩などの諍いにおける使用は厳禁で、確認され次第部活動は廃止。状況によっては自宅謹慎など、学則による処分が下る場合もあるとの脅しが入った。
「それから、魔法の使用には事故もつきものだ。特に魔法制御を誤ると事故に繋がりやすい。自分の力を過信せず、油断せず、集中して行うこと。わかったな」
全員からの返事を待って、トウリは話を次に移した。
「さて、じゃあさっそく魔法の指導だが……その前に、この中で既に魔法を使えるやつは挙手をしろ。今まで友人に隠していた、という奴も含めて」
このタイミングで手を挙げたのは、ウィルとエリック、そしてアンリの三人だった。おおむねアンリの予想どおりだ。トウリもそれほど疑問を持たず、やっぱりなという顔で頷いた。しかし、教室内はざわつく。特にマリアの反応は正直だった。
「ええっ! アンリ君、それにエリック! 魔法は使えないって言っていたでしょ!」
「ごめんマリアちゃん……実は入学検査のあとから、使えるようになったんだ」
「うん、俺も嘘ついてた。ごめん」
あまり食いつかれても面倒なので、エリックにかぶせるように謝っておく。
最初に魔法を使えるようになるための指導は独特だ。体内で魔力を流して放出する感覚を掴むため、指導員が教え子と魔力回路を繋げ、魔力を流す。これをやると、指導員にはこれまでその教え子が魔力を流した経験があるかどうか、つまり魔法を使用したことがあるかどうかがわかる。だからここで隠しても、トウリには結局わかってしまうのだ。それを知っているから、アンリのほかの二人も、特に隠さなかったのだろう。
入学検査と同様に誤魔化す手段もないことはないが、手間を考えれば嘘をばらした方がはるかに楽だ。そのうえ今この場なら、嘘をついていたことがばれたと言っても、謝ればすむ仲間内だ。
「やっぱり隠している奴がいたな。まあ、隠す気持ちもわかる。ここのメンバーでの秘密にしておいてやれ。じゃあ、訓練室に移動するぞ」
学園の訓練室は、防衛局にある魔法用の訓練場の簡易版だった。普段使っている教室八つ分くらいの広さがあり、天井が高い。さらに通常の壁の内側に、魔法用の防護壁が一枚張られている。防衛局の訓練場だと、最低でも五枚は防護壁が張られるが、生徒が使う程度の魔法であれば一枚で十分ということだろう。
その日は魔法使用の経験がない三人がトウリと手を合わせて魔力を流す訓練を行った。三人のうち、初回で魔法使用の感覚がつかめたのは、ハーツひとりだ。
ハーツのルームメイトであるイルマークも何となくわかったような気がすると言っていたため、あと数回同じことをすれば感覚がつかめるだろう。
そして、まったくどうにもならなかったのは、案の定マリアだった。
「先生ぃ……やっぱり私、適性なかったのかなぁ…………」
マリアにしては弱気な発言だった。入学検査で適性は認められているはずなのだ。初回で成功する方が稀なのだからとトウリが慰めると、マリアは口を尖らせた。
「うち家庭教師雇ってたんだからぁ。初めてじゃないって、先生も知ってるでしょぉ」
「うーん……まあ、とにかく数回試してみよう」
誤魔化すように笑うトウリに、マリアは大きなため息で応えた。




