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教員室を出てからのマリアの足取りは軽かった。
魔法を使えるようになるにはちょっとしたコツがいる。独学でどうにかなるものではないため、誰かに教えを請わなければならない。マリアはその役を担任のトウリに求め、教員室に頼み込みに行ったのだった。
マリアの思いつきに、男三人は渋々付き合ってともに教員室に入ったが、なかば安心もしていた。二年生の学習内容を勝手に先取りするなど、許可が出るとは思えなかった。それで先生に断られれば、彼女も諦めるかと思ったからだ。
しかし、男三人の思うように事は進まなかった。
「魔法使用の指導? んー、まあ、条件はあるがやってもいいぞ」
三人が思う以上に、トウリが軽く許可を出したのだ。
条件も実現困難なほどには厳しくない。
「部活動の制度を使えばいい。初等科にも少しはあっただろう、学園の授業以外に趣味で何かをやるグループだ。最低人数は六人で、顧問教員が必要になる。メンバーを集めて魔法研究部を立ち上げるなら、俺が顧問になって指導してやる」
との言葉を受けて、マリアは目を輝かせた。マリア、エリック、アンリ、ハーツの四人を確定メンバーとすれば、あと二人集めればよい。マリアは喜び勇んで教員室を出た。
「部活動なんて、先生も考えたよね! 普通はスポーツとか、芸能とか……授業と関係ないことをする部活動が多いけど、まさか魔法研究部なんて! さすが先生!」
あと二人誰を誘おうか、などとマリアは興奮している。
困ったことになったものだと、アンリはやや苦く思っていた。部活動とは、授業後の時間を使って集まり、活動するものらしい。授業以外の時間であればいつでも緊急招集に応えられると、先日隊長に伝えたばかりだ。それを変更すべきか、それとも何か理由をつけて部活動の参加を断るべきか。
ところでマリアはもちろんやる気だが、ほかの二人はどうだろう。そう思ってアンリがハーツとエリックの表情をうかがうと、意外にも二人とも期待を隠しきれない様子で笑みを浮かべていた。どうやら喜んでいるのは、マリアだけではないらしい。
先刻までは全員で、マリアを諦めさせようとしていたはずなのに。
「魔法を使うって、昔からの憧れだからなあ。田舎者だから教えてくれる人もいなかったし。二年になればとは思ってたけど、こんなに早くできるなんて、夢みたいだ」
「僕も、これで使えるようになるなら嬉しいな。……アンリ君のおかげだよ、ありがとう」
「え、なんで俺の?」
魔法が使えることへの憧れと喜びはともかくとして、エリックに礼を言われる覚えがアンリにはなかった。これまでの流れにアンリが貢献したことなどひとつもない。
「だって、たぶん先生はアンリ君の魔法知識を見込んで部活動の立ち上げを許可してくれたんだよ。授業の受け答えでも、誰も知らないようなことを知っているし。アンリ君が二年生まで魔法を使えないのはもったいないから、部活動を提案してくれたんじゃないかな」
「まさか。買いかぶりすぎだろ」
「魔法を教えてほしいなんて、ほかの生徒からも希望があったと思うよ。でも、僕たちにだけ部活動の話をくれたというなら……やっぱり違いは、アンリ君がいるかどうかだよ」
エリックはどうやら本心でそう考えているようだった。言われてみると、このひと月の間にトウリから知識を褒められたり、本当に魔法が使えないのかと疑われたりしたことが数回あったなとアンリも思い出す。
(……ってことは、俺が抜けたらこの部活動の話、なくなっちゃうのか)
結局アンリは、理由を付けて部活動への参加を断るという選択肢を諦めることにした。




