(16)
午後の授業が終わって教室を出ると、マリアはきいきいと小動物のように騒いだ。本当に小動物だったら、毛が逆立っていただろう。
「ああっもう! アイラったら! 悔しい! いっつもああなんだから!」
聞けばマリアの母親は、アイラの父親の妹であるという。つまりアイラとマリアは従姉妹同士にあたるのだ。もちろん怒り狂うマリアからこんな情報を聞き出せるはずもなく、これは事情を知らないアンリとハーツに、エリックが説明してくれたことだ。
確かに、怒りに燃えてらんらんと輝いている彼女の瞳は、アイラとまったく同じ青い色をしていた。髪色も同じ。親戚といわれれば納得できる。
「両親が忙しいからって、アイラちゃんはよくマリアちゃんの家に預けられていたんだ。だから二人は姉妹みたいに育ったんだよ。それで、ときどきさっきみたいに、その……喧嘩を」
「喧嘩っていうか、さっきのはマリアがアイラに一方的につっかかってたよな」
エリックが当たり障りのない言葉に収めたところを、ハーツは躊躇なく突っ込んだ。ハーツの言葉にアンリも頷く。アイラはアンリに対し冷たく高飛車にあたっていたが、マリアに冷たい言葉を浴びせたわけではなかった。
そんな事実を突いたハーツの言葉に、マリアはさらに不満を増幅させる。
「そんなわけないでしょ! 私の友達を馬鹿にしたんだから、私を馬鹿にしたも一緒!」
「ええっと、マリア。それは俺が気にしていないから、そんなに気にしなくても」
「アンリ君は気にしないとダメ! アンリ君がそんなだから私が代わりに怒ってるんでしょ! だいたい何よ、アイラったら、魔法が使えるからって調子に乗って!」
その後マリアの怒りがある程度落ち着くまでに、一時間ほどかかっただろうか。
ちなみに興奮したマリアを抑えるには、宥めたり諭したりせず、刺激になることを言わず静かにしていることが一番の近道らしい。そういう情報を先にほしかった、と後ほどアンリとハーツでエリックを責めた。
ともかく時間をおいて、やや口をへの字に曲げながらも落ち着いたマリアと男三人は、男子寮の裏にある広場のベンチでくつろぐことにした。学園帰りにこの辺りで時間をつぶしてから帰るのが、最近の四人の習慣になっている。
今日のお喋りは、マリア曰く作戦会議だ。
「アイラがアンリ君の上にトレイをひっくり返そうとしたでしょ。仕返ししないと!」
「あ、あれそういうことだったのか。魔法操作を失敗したんだと思ってた」
「もうっ! アンリ君がそんな風に優しいとアイラがつけあがるからだめ!」
優しいわけではなくて勘違いをしていただけなのだが、その理屈はマリアには通用しないらしい。しかし下手に反論をして彼女をあおってはいけないと、先刻のエリックからの忠告を早速活かして、アンリは黙っていることにした。
「どうにかして、アイラにあっと言わせてやらないと……」
ほかの男子二人も黙ってマリアを見守ることにしたようだ。誰も口を挟まないなかでマリアは、ああだこうだとしばらくぶつぶつ呟き続けた。
やがて、マリアの中で結論が出たらしい。決意を込めた目でしっかりと顔を上げた。
「決めた。私たち、魔法を使えるようになろう。二年生になって魔法の授業が始まる前に」




