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 生徒たちの話し声で騒がしかった食堂の一角が、アイラ・マグネシオンの登場ですっと静まった。


「そこの貴方。このテーブルは一組のものだと、昨日言ったでしょう」


 アイラの青い瞳が、まっすぐにアンリを向いていた。そういえばここは、昨日同じ時間帯に彼女に会ったテーブルだったとアンリは思い出す。四人で座れる空いたテーブルがここしかなかったため、何も考えずに使ってしまった。


 一組のものだなんていうルールはない。ウィルに教わった事実をつきつけてもよかったが、騒ぎ立てて目を付けられるのも厄介だった。ここは穏便に済ませるに限る。そう判断したアンリは、すまなそうに肩をすくめてみせた。


「ごめん、忘れてたよ。俺たちもう食事は済んでいるから、このテーブルは……」


 言葉の途中で、テーブルの上に浮かんでいた五つのトレイのうち一つが、アンリに向かってひっくり返った。大きく一歩避けたアンリの元いた場所に、食器と食事が大きな音を立てて落ちる。


「……ええっと、うまく魔法制御ができないなら、無茶な使い方はしないほうが」


「うるさいわね! 三組の平民は、口の利き方も知らないの?」


 おお、これが昨日ウィルの言っていた『身分や能力を笠に着る』というやつか……などとアンリが感心している間に、アンリとアイラとの間に、マリアがずいっと割って入った。


「ちょっとアイラ! なんなの、その態度は?」


「あら、マリア。覚えの悪い同期生に、常識を教えてあげているだけじゃない」


「アンリ君は私の友達なの! 変なことしないで!」


「お友達は選んだ方がいいわよ。同じクラスとはいえ、貴方にはふさわしくないでしょ」


「だから、変なこと言わないでって言っているでしょ! 怒るよ!」


 明らかに既に怒っているマリアだが、誰もそのことを指摘しないので、アンリもそれに倣う。どうやらマリアとアイラとは、旧知の間柄のようだ。さてこの場合、マリアに加勢すべきか、宥めて穏便に済ませるべきか。どう動くのが最適だろうとアンリが悩んでいるうちに、食堂の入口が一段と騒がしくなった。誰かが教師を呼んだらしい。


 アイラははっとした様子で、テーブルの上で浮かせていたトレイをそれぞれ取り巻きの四人の手に戻した。


 学園内での魔法による喧嘩は厳禁だ。実際に魔法を使った喧嘩をしているわけではないが、この言い合いの状況下で魔法を使っていれば、疑われるだろう。この場で魔法を使っていたのはアイラだけだが、喧嘩両成敗なんてことになっても困る。


 その場にいる全員で思いが一致したのだろう。ハーツとエリックの持って来た雑巾で、男三人が床に散らばったアイラの昼食を片付けた。やってきた教師には、アイラ自ら魔法を失敗したことを説明する。決して喧嘩していたわけではないということを強調していた。


 マリアはずっと不満げだったが、エリックに宥められて、なんとか口を挟まずに大人しくしていたようだ。


 苦い顔をした教師は結局「気を付けるように」とのひと言だけを置いて去って行った。

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