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 ウィルが笑いながら告げた解決策に対する魔法研究部の反応は、ふたつに分かれていた。


 なるほどその手があったかと納得して頷いたのが、アイラとイルマーク、そしてアンリ。何が簡単なのかと呆れた様子を見せたのが、ハーツ、マリア、エリック。


 それぞれの魔法力を反映したわかりやすい反応に、ウィルは改めてにっこりと微笑む。


「検査まであとひと月近くある。それまでに、アンリに鍛えてもらえばいいだろう?」


「え、俺?」


 当たり前だほかに誰がいると、今度はアンリ以外の全員が、そろって呆れた反応を見せた。





 魔法力検査は、体内に貯められる魔力量である魔力貯蔵量の測定と、使える魔法の種類や強さを確認する魔法技術力の試験とで成り立っている。


 中等科学園ではこの魔法力検査の結果によって一組から十組までのクラス分けがなされるが、そもそも入学検査時点では魔法を使える生徒が少ないため、一年生のクラスは主に魔力貯蔵量の測定結果で分けられていると考えて差し支えない。


 ただし、ひとつだけ例外がある。それが、戦闘魔法を使えるか否か。


 戦闘魔法が使える生徒には、戦闘魔法を使う際の心構えや戦闘魔法を正しく扱うための技術を教える必要がある。そうした考えのもと、魔法技術力の試験において「戦闘魔法が使える」と判定された生徒は、魔力貯蔵量の測定結果にかかわらず一組に割り振られる。


 これは、二年生のクラス分けでも同じだと言われている。


「というわけで、戦闘魔法を使えるようになれば、全員一組になれるんじゃないかな」


「なるほどー! さすがウィル君、頭良いねっ」


 今さら当たり前の仕組みをウィルが丁寧に説明したのは、常識を知らないアンリのためだろう。しかしウィルのことを強く褒め称えたのは、アンリではなくマリアだった。どうやらこの場の常識知らずは、アンリだけではないらしい。


 マリアが明るくはしゃいだ声をあげた一方で、イルマークはやや難しい顔をして不安を口にする。


「確かにウィルの言う通りではありますが、今年は体験カリキュラムのことがあって、全体的に魔法技術の水準が上がっていると聞きます。戦闘魔法が使えるというだけで、一組になれるでしょうか……」


 これにはウィルもやや表情を曇らせた。たしかに学年の中で十分の一以上の生徒が戦闘魔法を使える水準に達していれば、戦闘魔法の使える生徒が集まるクラスは、一組と二組の二つに分かれることになるだろう。


「全員で重魔法の練習をするのはどうかしら。重魔法までできればきっと一組になれるわよ」


「アイラちゃん、さすがに無茶だよ。僕たちのレベルを考えて……」


「そもそも俺、まだ生活魔法もあやしいんだけど。いきなり戦闘魔法なんてできるか?」


 無謀なことを言い出したアイラをエリックが止めている間に、ハーツが不安げにアンリに問うた。アンリは腕を組んで、しばし考えを巡らせる。


 現在、皆が部活動の時間に練習しているのは、水魔法だ。基本五系統と呼ばれる木・火・土・金・水の魔法のうち、最も扱いがたやすいうえに、用途が広く便利な魔法。ほかの四系統の魔法も最低限使えるように訓練はしたものの、細かい操作や複雑な魔法を組めるほどには習熟していない。


 水魔法で魔力の操作方法をある程度習得してから、ほかの生活魔法でも同じだけの複雑で繊細な操作を習得し、そのうえで戦闘魔法に至る。それが普通の流れだ。


 一方で先日まで交流大会を目標として水魔法を集中的に訓練していたマリアは、すでに水魔法の扱いを十分に習得している。しかし別系統の生活魔法の訓練に移るとほかの皆と訓練内容が大きく違ってしまうことになるので、あえて似たような訓練で習得できる氷魔法に挑戦しているところだ。


 氷魔法は水魔法の発展ではあるものの、分類としては戦闘魔法に入る。つまり、普通の流れを踏襲せず、先に戦闘魔法を習得する方法も、ないわけではないのだ。


「……ひと月あれば、戦闘魔法は使えるようになると思う。訓練内容を変えることになるから、トウリ先生には相談が必要だけど」


 アンリの言葉に、六人の表情が華やいだ。更にアンリは少し考えてから、安心材料を追加する。


「イルマークの不安も、大丈夫じゃないかな。クラス分けは戦闘魔法が使えるかどうかと、魔力貯蔵量の測定で決まるんだろ? 俺たち一応、魔力貯蔵量を増やすための訓練とかもしているし。ほかの一年生よりは、いい結果がでるんじゃないかな」


 アンリが追加した情報に、誰からともなく「おおっ」と喜びの声が漏れた。





 全員で直談判すると、トウリはやや渋りながらも訓練内容の変更に同意した。戦闘魔法を積極的には教えないという方針に変わりはないようだが、部員全員が自分の意思で学びたいと言っていることを尊重してくれたらしい。


「訓練メニューはアンリを中心に組み立てろ。危険そうなら俺も口は出すが、基本的にはお前らがやりたいようにやっていい。それから、全員で一組になりたいというなら、一つだけ先にアドバイスをしておいてやる」


 有益な情報を聞き逃すまいと、アンリたちはじっとトウリを見つめる。


「今年の一年は優秀だからな。次の魔法力検査では戦闘魔法が使えるかどうかだけでなく、どの程度使えるかも試験することになった。一つ訓練するくらいじゃ甘い。三つくらい使えるようになっておくといい」


 そう言って、トウリはにやりと笑った。


 その目を見てアンリは悟る。


 口では戦闘魔法を学ぶのはどうとか危険がどうとか言っているが、本心ではトウリも、生徒たちがどこまでやれるのか面白がっているのだ。


 そこまで気付けない魔法研究部の面々は、トウリの言葉の内容に顔を青くした。





 数日後の部活動。訓練室の片隅で、アンリは皆に一枚ずつ、訓練方法の説明書を配った。


「なあ、俺、本当に戦闘魔法なんて使えるようになる?」


「できるよ。使いやすい魔法を選んだから」


 アンリの立てた訓練メニューはあっさりトウリのチェックを通過し、そのまま今後ひと月の魔法研究部の活動メニューとなった。


 覚える戦闘魔法は、氷魔法、火炎魔法、風魔法の三種類。どれも生活魔法に近く覚えやすいと評判の魔法だ。ハーツやエリックは不安がっているものの、作成したメニューに従って訓練に取り組めば、まず間違いなく全員が成功するとアンリは思っていた。


 あわせて、この試みが成功した暁には魔法研究部を解散するという方針を、全員で決めた。


 二年生になって授業で魔法の訓練をすることができるようになれば。そして全員が一組になって一緒にいられるようになれば。魔法研究部という繋がりを、敢えて継続する理由はない。喚いて反対していたマリアも、この理屈がわからないほど子供ではなかった。


 しかしもうひとつ、魔法研究部を解散するためには儀式が必要だった。こちらはアイラを納得させるためのものだ。


「もちろん私の訓練メニューも考えてくれたのよね、アンリ?」


「……なんでまたそんなことをしなきゃいけなかったのかわからないけど。ちゃんと先生にも許可はとったよ」


 そう言ってアンリがアイラに渡したのは、ほかのメンバーとは異なるメニューだった。彼女の高い魔法戦闘能力を、さらに向上させるためのメニュー。目指すのは、アンリとの条件付き模擬戦闘における勝利だ。


 アンリとアイラの模擬戦闘。これが、魔法研究部の最後のイベントとなる。


 アイラは先日の交流大会の際と同様に、自身の魔法力を強化するための魔法器具を使用する。対するアンリは、アイラの訓練に協力することと、アイラの魔法器具に魔力を提供すること、そして模擬戦闘中に上級戦闘魔法以上の威力を持った魔法を使用しないことを条件とする。アンリの使用魔法を生活魔法に限るルールにしようかという話もあったが、それではさすがに万に一つも勝てないと、アンリが白旗を揚げた格好だ。


 アンリとアイラの模擬戦闘は、学年末の魔法力検査の直後に実施することとなった。


 魔法力検査と模擬戦闘まで、残すところひと月弱。


 悔いを残さず魔法研究部を解散するための活動が始まった。

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