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 表彰式を終え、魔法研究部の面々は会場の片付けを手伝うことにした。


「アンリ君、アイラさん! どうもありがとうねっ!」


 大勢の観客が集まり、満足げに帰っていった。その成果にサニアが嬉しそうな笑顔でアイラに抱きついた。アイラは戸惑いながらも拒まず受け入れて、皆で協力した成果です、などと殊勝なことを言っている。


 観客の落としたゴミを拾い、会場に設置した結界用の魔法器具を回収し、控室のテントを片付ける。仲間たちがそうした作業をしている間に、アンリは三日間の戦闘により広場内にできてしまったたくさんの凹凸を、土魔法で整復して回った。ときどきスタッフの学園生たちが作業を覗きに来ては「そんなこともできるのか」と感心した様子で眺めていたが、アンリは始終「魔法器具がすごいんです」と言って誤魔化し続けた。


 ただ、誤魔化さずに応じた相手もいる。


「あれだけの魔法を使って、まだ魔力が足りるのか」


 会場の隅の方で炎魔法によって焼き物のように固まってしまったと土を丁寧にほぐしていたところに、エイクスの声がかかった。まだ帰っていなかったのか。


 アンリは顔をあげ、近くにほかに人がいないことを確認して応じる。


「あのくらい、大した魔力消費でもありませんから」


「……重魔法まで使った魔法戦闘を『あのくらい』とはね。しかし、良い試合を見せてもらった。君の魔法技術はもちろんだが、相手の彼女も……彼女は磨けば光る原石だろう」


 おや、あれだけ魔法器具を批難していたのに、両腕にしっかりと器具を着けていたアイラのことを褒めるとは。意外に思って眉を上げたアンリに対し、エイクスはきまりが悪そうに頬をかいた。


「魔法器具の補助など使わないほうが良いという考えは変わらない……しかし、君たちの力は本物だ。彼女も精進すれば、きっと素晴らしい魔法の使い手になる」


「まあ、それは。同感です」


 今でこそまだ「原石」のアイラだが、あと数年も訓練すれば、上級魔法戦闘職員にも引けをとらない魔法力を身につけるだろう。あの鋭い感覚といい、中等科学園生としては十分すぎる魔法技術といい、末恐ろしい存在だ。


「それにしても、君の方はまったく……いったい誰から魔法を教わったんだ」


「内緒です」


 生まれつきの魔力を上手に使えるよう訓練してくれたのは、これまでに関わった防衛局の戦闘職員仲間たちだ。特段秘密にしているわけではないが、今それを告げては、アンリの身分を明かすことになる。


 残念そうにため息をついたエイクスは、しかしすぐに気を取り直して微笑んだ。


「君を育てた師にはぜひお目にかかってみたいと思ったが……仕方あるまい。今日は、君のような存在を知ることができただけで良しとしよう。貴重な体験ができた」


「俺も、今日は楽しかったです。特に、あの三位決定戦……あの人が剣術で負けるところは初めて見たので、爽快でした」


 差し出された右手を握り返しながらアンリが言うと、エイクスは握手したまま首を傾げた。


「おや? 君は、ロブ君の知り合いだったのか?」


「えっ……あ、まあ、少し」


「……実は、彼は私が傭兵だった頃の友人の息子さんでね。彼が幼い頃、剣術を教えたのは私なんだよ」


 アンリは目を見開いた。以前エイクスの名前を出したときに隊長が言っていたのは、エイクスと防衛局との繋がりのことだけだった。まさかそんな個人的な関わりのある人だったとは。


「今日は私としても、昔の弟子の成長が見られて満足している。しかしまだまだ甘い剣だったな。まあ、彼は魔法士として今の仕事をしているのだから、剣術はそこそこでも良いのかもしれないが」


 あの剣術で「そこそこ」程度なら、強いと呼べる人はこの世のどこにも存在しないのではないか。呑気にそんなことを考えたアンリに対し、エイクスはにやりと笑った。


「ちょうどこれから、久々に彼と食事に行く約束をしていてね。つまり彼に聞けば、君のことがわかるということだね」


「うぇっ……!?」


 思わず素っ頓狂な声を出したアンリは、とっさに頭を回転させる。今身分を明かしてしまうのと、隊長から明かされるのと、黙っておいてやったぞと隊長から恩を売られるのと……どれが最も平和的か。


 そうしてアンリは結局その場で身分証を提示して、エイクスに自分の立場のことを明かしたのだった。


 エイクスは驚き呆れると同時に「魔法技術はすごいものだが、嘘は下手だな」とアンリを評す。まったくもって、とアンリは情けなく頷いた。




 片付けをしている間に話しかけてきたのは、エイクスだけではなかった。


「派手にやったもんだな」


「トウリ先生」


 交流大会が始まって三日目となるが、トウリに会うのは初めてだった。教員であるトウリは明日から始まる公式行事の準備に忙しいのだろうと思っていたが、どうやらそうではないらしい。


「俺は一年の担任だからな。三、四年がメインになる公式行事には関わっていない。むしろ、ここみたいな有志団体のイベントの監督が仕事だ」


 言いながら、トウリもアンリの横で地面の凹凸を直し始める。会場が広く、小さな凸凹まで数えればきりが無いほどに多かったので、アンリにとっては有難い手助けだった。


「最後の三試合だけ見ていたが……あの仮面男は、いったい何がしたかったんだ」


 会場の修復を進めながら世間話のように投げかけられた話題に、アンリは苦笑する。やはり元々の知り合いであれば、仮面の下の正体を見破ることなどわけはないようだ。


「俺も理由はまだ聞いていませんが……そういえばあのエイクスさんって人、隊長の剣術の師範らしいですよ」


「……ああ、道理で。あいつの剣術は化け物じみているから、正直、あいつが負けるところを見て驚いた」


 昔の上司にさえそう言わせるのかと、アンリは改めて隊長の剣の腕に感心した。四十代半ばほどに見える隊長だが、いったい何歳のときからあの化け物じみた腕を持っていたのか。


「ちなみに俺は現役時代でも、剣だけの試合であいつに勝てたことはない」


「奇遇ですね、俺も勝てたことはありません」


 アンリは唐突に理解した。おそらく隊長は、エイクスと剣で戦いたかったのだ。隊長と剣で良い勝負になる人など防衛局内には存在しない。そんななかでエイクスが交流大会の模擬戦闘に参加すると聞き、自分も参加すればエイクスと戦えると思ったに違いない。あえてわかりやすい変装をして剣技のみで勝ち抜いたのは、エイクスに自分がいることを伝えるため。エイクスとの勝負の途中で敢えて木剣を作り出したのは、剣での勝負がしたいのだという意思表示。


 大の大人が、それも重々しい立場があるはずの大人が、中等科学園の行事を利用していったい何をしているのか。


「俺、アイラの魔法器具壊しちゃって大人げなかったと思っていたんですけど……そんなの、大した問題じゃなかったのかも」


「そもそもお前は子供だからな。お前はもう少しあいつを見習って、やんちゃにしてもいいんじゃないか」


 アンリから見て、普段の隊長はそれほどやんちゃではない。交流大会に行くと言い出したことや、仮面を被って現れたことが異常に思えたほどだ。やんちゃというのはきっと以前の話だろう。


 若い頃の隊長の話を聞いてみたいと思ったアンリが話を向けると、トウリは気まずそうに目を逸らす。のらりくらりと話題をかわし、最後には「やっぱり見習わなくていい」と前言を撤回して何も教えてはくれなかった。


 なにやら相当ひどいことをしたのだろうという雰囲気だけは理解ができた。




 そうこうしているうちに会場の修復も終わり、アンリは片付けを終えた友人たちが集まっている方へと足を向けた。トウリはこれからまた別の有志団体の様子を見に行くという。別れ際、彼は渋い顔をしてアンリに言った。


「そういえば一応言っておくが、お前、その魔法器具が壊れているのは俺でもわかるぞ」


「……トウリ先生って、けっこう目がいいですよね」


「確かに俺はそういうのを見破るのは得意だが、そういうことじゃない。学園の教師レベルなら簡単にバレるってことだ」


 見た目は完全に元の腕輪に戻しているはずだが、やはり魔法器具が機能しているかどうかは、器具回りの魔力の動きをよく見ればわかってしまう。それもうまく偽装したいとは思っていたが、さすがに戦闘中にそこまで気を回すのは難しかった。そこまで見破る観客もいないだろうと、周囲を侮っていたというのもある。


「あの観客の中にいた教師なんて俺くらいだろうし、学園生や一般人じゃあまず気付かないだろうがな。気を付けろ」


「……はーい」


 素直に自分の非を認めるのも癪で、アンリは口を尖らせた。


 言葉での嘘が下手なのに加えて魔法の誤魔化しも出来ないなんて。上級魔法戦闘職員という身分を隠して学園に通っているというのに、致命的ではないか。


 アイラにも、エイクスにも勝った。賞品としてココアも貰った。にもかかわらず今日は落ち込むことばかりだと、アンリは大きなため息をついた。

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