(13)
退屈な授業を受けながら、アンリは欠伸をかみ殺す。
昨晩は久々の緊急招集だった。指名手配中の犯罪組織の首領が大都市近辺で目撃されたとのことで、ちょうど近くにいたアンリに捕縛任務が下りてきたのだ。とはいえ、アンリが動いたときには既に首領はどこにもいなかった。捕らえられたのは下っ端だけだ。
下っ端を捕まえるだけの簡単な仕事はたいした苦労もなく終わったが、夜中に動いたせいで寝不足だった。
「こら、アンリ! ぼんやりするな。ちゃんと聞いているのか」
「え、あ、はい」
眠気をこらえていることが教壇に立つ担任教師のトウリにばれた。床より一段高くなった教壇からは、生徒の姿がよく見えるのだろう。
「聞いていたなら、生活魔法と戦闘魔法の違いを説明してみろ」
「え、ああ……」
指摘どおりぼんやりしていたアンリは、授業なんてほとんど聞いていなかった。けれどそのくらいなら、話を聞いていなくても説明できるだろう。
「一般的には言葉のとおり、通常生活において使用する魔法が生活魔法で、戦闘において使用する魔法が戦闘魔法です」
アンリは一度言葉を切って、トウリや周りの様子をうかがった。にやにやと笑っている顔が多い。どうやらこれでは不正解のようだ。
「しかし学術上では、基本五系統魔法、光魔法、空間魔法、重力魔法、移動魔法、構造魔法の十種類が生活魔法に分類され、その他の魔法が戦闘魔法に分類されます」
再び周りの様子をうかがうと、教壇の上で、トウリは口をへの字に歪めていた。クラスメイトたちはやや首を傾げるような、怪訝な表情をしている。これも正解ではないのかもしれないと思い、アンリはさらに説明を重ねた。
「一方で魔法による戦闘を職務とする団体、つまり国家防衛局や国際軍事委員会などは、独自の定義を持っています。たとえば国家防衛局では魔法を消費魔力量により十三の段階に分け、上から八段階目までを戦闘魔法に区分します。なお、複数の魔法を重ねて発現させる重魔法は、魔力量にかかわらず全て戦闘魔法に区分されます。国際軍事委員会では……」
「もうそこまででいい、アンリ。この質問をお前に振った俺が馬鹿だった」
改めて顔を上げると、トウリは苦虫を噛み潰したような顔で、頭を抱えていた。先程までアンリが指されたことにくすくすと笑い声を立てていたクラスメイトたちも、しんと静まりかえっている。
アンリを睨みつけたトウリは、ため息混じりに口を開いた。
「安心しろ。お前はなにも間違っちゃいない。ただ、授業を聞いていたわけでもないことはよくわかった。今は教科書の三十頁の説明中だ。ちゃんと聞いとけ」
口調を切り替えて、トウリは講義の続きを始めた。アンリは手元で閉じたままにしてあった教科書を開き、示された頁に目を通す。
そこには生活魔法と戦闘魔法との区別がごく簡単に説明されていた。生活魔法とは生活に使われる魔法であり、戦闘魔法とは戦闘に使われる魔法だが、魔法の性質や必要魔力の量によって区分することもある、とのことだ。
どうやらアンリは説明しすぎたらしい。




