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(12)

 昼食を終えた一行は、来たときとは反対側へ丘を下る道に進んだ。


 木に囲まれて景色が途絶えると途端に話題が減って、話は周囲のことよりも最近の関心事へと移る。


「アイラ、交流大会は結局どうするの?」


 そんなふうに話を切り出したのはマリアだ。横を歩くアイラは軽く首を傾げてみせる。


「どうもこうも。まだ皆で何をするか決めていないじゃないの。それが決まらないうちに私のことだけ決めるわけにもいかないわ」


「そういえば、どうしましょうか。私たちの活動は」


 それまでほとんど単独行動と言わんばかりに独りで景色を楽しんでいたイルマークが、すぐに会話に入る。その食いつきの良さに、ハーツが笑った。


「イルマーク、お前すげえ交流大会楽しみにしてるよな。何かやりたいことでもあんの?」


「いや、何かというわけではありませんが。せっかくだから楽しみたいと……」


「わかる! 私も、なにか楽しいことやりたいなって思ってたんだよねっ!」


 はしゃぐマリアに対しては、お前は勝手に自分の楽しみを見つけただろうと、皆から白けた視線が集まった。うっと言葉に詰まったマリアが、アンリに助けを求めて目を向ける。けれどアンリにしても同罪なのだ。助けられるわけがないので、早々に両手を挙げて降参の意を表明した。


「俺たちはもう先輩のところに出ることを決めてあるから、ほかに何をやるのかは皆に任せるよ。手伝えそうだったら手伝うし」


「当然よ。周りも見ないで、自分だけさっさと決めてしまったのだから」


「……悪かったよ」


 アイラに謝るのは癪に感じるアンリだったが、正々堂々と自分の意見を主張できるほどの正当性がないことは自覚していた。なにせココアで釣られたのだから。没収された魔法器具の奪還を図ったマリアの方が、まだ反論のしようがある。しかしマリアもアンリという強い味方を失って、積極的な反論はできないようだった。


 そんな中で脳天気に口を開いたのはハーツだ。


「でもさ。結局なにするのか決められないんだったら、さっさと選んだアンリたちの方が頭良いよなあ」


 ハーツの言葉に、アイラやイルマークの表情は固まった。その反応に、発言したハーツまで驚いて表情を引きつらせる。


「え、俺、変なこと言った?」


「いや、ハーツの言うこと、僕はもっともだと思うよ」


 賛同したのはウィル。こちらはアイラに睨まれても肩をすくませるだけで、怯む様子は見せなかった。


「だってそうだろう? 何かやりたいけど、誰も具体的にやりたいことはないんだ。話し合ったって、決まるわけないよ。それなら何でもいいから、とにかくやることを決めてしまった方が有意義だ。早く決めればそれだけ準備にも時間をかけて打ち込めるしね」


「じゃあ何よ。どうしようって言うのよ」


「先輩のお誘いに乗って、先輩の団体に加えてもらうのがいいんじゃないかと僕は思うけど……」


 そう言い差したウィルは、ふとエリックに目を遣った。アイラとイルマーク、ハーツとウィル。ちょうど二人ずつ意見が分かれているなかで、エリックはただ一人、この件についてまだ発言していない。


 皆の視線が集まって、エリックは一瞬体を震わせた。それから躊躇うように俯いて、ややあってから、意を決した様子で顔を上げる。


「実は僕、このあいだから、やってみたいと思っていたことがあるんだ……聞いてくれる?」


 珍しく自分の主張を表明しようとするエリックの言葉に、六人はもちろんすぐに頷いた。




 エリックの提案は、魔法研究部の面々にとって単純かつ魅力的で、興味のそそられるものだった。ただ一人アンリだけが、なんとも言えない苦い顔で話を聞き終える。


「ど、どうかな……」


「いいな、それ! 面白そうじゃん!」


「悪くないと思います。もちろん、サニア先輩にも確認は必要ですが」


 おどおどと皆の顔色を窺うエリックに、ハーツとイルマークは楽しそうに同意した。アイラとウィルも、先ほどまでの対立はどこへ行ったのか、仲良く笑顔で頷いている。


 そしてマリアでさえ、期待に瞳をきらきらと輝かせていた。


「すっごく楽しそう! 私も協力するね!」


 そういうわけで、なかなか賛同するとは言いにくいアンリだけが、苦い顔で黙り込むことになったのだ。わいわいと賑やかに話し合う彼らの中で、もはや交流大会で何をするのかは決定事項になったらしい。それほどまでにエリックの出した案は皆を惹きつけた。


(まあ、いいけどさ。任せると言った以上、決まったことに口は出せないし……)


「あら、アンリ。何をつまらなそうな顔をしているのよ?」


 皆の会話を聞き流しながら黙々と歩いていたアンリを、アイラの声が呼び止めた。アンリは嫌な予感に従って、つまらなそうどころか、むしろ機嫌悪く眉を寄せて答える。


「何をってそりゃ、俺が話に加わるわけにいかないだろ?」


「どうして?」


 さも疑問に思うことが当然であるかのように首を傾げるアイラ。いやいや、よく考えてくれ。エリックの案でいくならば、自分は関わらない方が当然だ……そうアンリが言い募ろうとしたのを遮って、アイラはにっこりと笑った。


「貴方、言ったわよね。手伝えそうだったら手伝うって」


 呆れて言葉も出ないアンリが周囲を見回すと、アイラ以外の五人でさえ、当たり前だという顔をしてアンリを見ていた。


「……嘘だろ? なんで俺が、アイラが俺を負かすための手伝いをしなきゃならないんだ?」


 アンリの困り果てた呟きに恐縮そうに首を縮めたのは発案者のエリックだけで、他の面々は面白そうに笑うだけだった。




 エリックの案は言ってみれば簡単だ。サニアの主催する模擬戦闘大会にアイラを参加させて、皆で彼女を優勝させよう。これだけ。有志団体として届け出るほどの活動にはならないが、皆で交流大会を楽しむという目的は十分に果たすことができるだろう。


 ちなみに参加先は中等科学園生の部ではなく年齢無制限の部。ここで優勝するということは、すでに参加を決めているアンリを負かさなければならないということだ。


 普通に考えれば不可能。だからこそアイラもアンリと同じ部門への参加は、はなから考えていなかったのだが。


「マリアちゃんの出場を許可するってことは、魔法を補助するための魔法器具の使用が認められるってことだと思うんだ。だったら魔法を強化するための魔法器具だって、使っていいと思わない? 僕らで魔法器具を用意して、アイラちゃんにはしっかり訓練してもらって。……アンリ君は生活魔法しか使わないって言っていたし、なんとか勝てる道もあるんじゃないかと思うんだ」


 こうして弱気ながらも期待を持って放たれたエリックの言葉に、アンリ以外の全員が賛同したというわけだ。


 どんな魔法器具を使えば魔法の強化ができるか、そもそもどこまでの器具なら大会で認めてもらえるか。考えるべきこと試すべきことは多々あるが、だからこそやり甲斐があるというものである。


 それはアンリにもわかる。


 が、しかし。なぜ自分を負かすための作戦に、自分が参加しなければならないのか。


「別にわざと負けろと言っているわけではないわ。私が強くなるために協力してと言っているの。訓練もそうだけれど、貴方、魔法器具も作れるでしょう? ……ちなみに、手を抜いたら承知しないわよ」


 そんな無茶なとは思ったが、たしかに手伝うと言ったのはアンリ自身だ。


 致し方がない。周囲の六人からの期待という圧力を受け、アンリは諦めて大人しく頷いた。

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