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「どうして、僕が貴族だなんて、思うんだ」


「あれ、違うの? だってウィル、生活魔法を使いこなしているじゃないか」


 空間魔法でクローゼットや本棚の容量を増やし、重力魔法で荷物の重さを軽減し、光魔法で消灯後にベッドの中で本を読む。アンリの見る限りウィルは日常生活の中で、なかなか有効な生活魔法を駆使していた。


 たまに食堂で、見せびらかすように食器類を浮かせて運ぶ生徒がいる。しかし手が空いているなら手で運べばよいだけのことで、有効な使い方とは言えない。


 ウィルの魔法はそれとはまったく違っていた。見た目には地味だが、きわめて有効に魔法を使っているのだ。


 しかしそのことをアンリに指摘されたウィルは、困った様子で腕を組んだ。


「うーん。一応、ばれないようにやっているつもりだったんだけど」


「そうだったのか。でも、隠蔽魔法も使っていないから」


「いや、そんな高度な魔法、使えないし。ぱっと見でごまかせる範囲ってことだよ」


 苦い顔をして頭を掻くウィルを前に、アンリは改めてウィルの魔法を思い返した。たしかにクローゼットや本棚の容量は奥に広げており、手前から見る限り、空間魔法の使用は目立たない。重力魔法も目に見えるものではないし、光魔法は布団の中に明かりが籠もるように気を付けているようだった。


 しかし、魔法の使用は目で見るだけでなく、肌で感知できるものだ。アンリなら目を瞑っていても、この寮内で使われている生活魔法程度は感知することができる。感知魔法を使えば、イーダの街全体の魔法を感知することも簡単だ。


 これを感知させないようにするのが隠蔽魔法だが、ウィルの様子からすると、比較的高度な魔法ということらしい。


「……まあ、ばれちゃったものは仕方ないか。あんまり言いふらさないでほしい」


「いいけど、ばれたらまずいのか?」


「変な目で見られたくないんだ。貴族でもないのに入学前から生活魔法が使えるなんて」


 ウィルの説明によると、中等科入学前に生活魔法が使えるのは、家庭教師をつけた一部の貴族だけといっても過言ではないらしい。それが一種のステータスにもなっており、平民で入学前から魔法が使えるというと、あからさまな虐めにつながることもあるという。


「どんな目で見られようと気にするつもりはないけど、面倒事は避けたいだろ」


「ああ、それはわかる」


 アンリ自身、同じ理由で入学検査を誤魔化したのだ。ウィルの気持ちはよくわかる。


 ウィルが生活魔法を使えるのは、魔法士の親から手ほどきを受けたためらしい。


 生活魔法を日常で使う者は多いが、使い方を初歩から人に教えるのは難しいとされている。だからこそ家庭教師や中等科学園の魔法教師の仕事が成り立つのだ。それができるということは、ウィルの親はなかなか腕の良い魔法士なのだろう。


「それにしても、よく感知できたね。一組でもばれたことがないのに」


「ああ、うん。……まあ、同じ部屋で暮らしているから」


 アンリは慌てて誤魔化した。アンリにとっては簡単なことだったが、もしかすると、魔法の感知も一般的には難しい技術かもしれない。魔法が使えないと偽るならば、目に見えない魔法には気付かないフリをすべきだった。


 使われている魔法に対して、見て見ぬフリをすること。


 アンリはまたひとつ、平和に学園生活を送るためのコツを学んだ。

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