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(7)

 魔法研究部のメンバーは、有志団体として交流大会へ参加することに意欲的だった。


 せっかく魔法研究部という団体を作っているのだから、このメンバーで何かしら目立つ活動をしてみたい。その思いは共通しているようだ。


 しかし、大きな問題がひとつある。


「それにしても、いったい何をしましょう」


「「「「「「…………」」」」」」


 イルマークの問いかけに答える声はない。


 つまり交流大会で何かをやりたいという気持ちはあれど、具体的な構想を持っているメンバーはいないのだ。話がそこへ至ると誰もが良い案を出せずに黙ってしまう。


 問いかけたイルマーク自身も一緒に黙り込んでため息をつく。せっかく部活動の時間を割いて話し合っているというのに、これではまったく時間の無駄だ。


 そんな生徒たちの様子を見かねたのだろう。話し合いの成り行きを見守っていたトウリが、呆れた様子で口を開いた。


「お前ら本当に考え無しにやりたいって言ったんだな。……イメージが掴めないなら、一度、今ある団体の話を聞いてみたらどうだ」


 こうして魔法研究部の活動のないとある日の放課後、アンリたち部活動のメンバー七人は、全員で一つの教室に集まった。二年生のサニア・パルトリに指定された空き教室だ。


 ここで彼女が、彼女の主宰する団体の活動を説明してくれることになっている。




「まあ、嬉しい! こんなにたくさんお友達連れて来てくれて。ありがとう、アンリ君」


「いや、まだ参加するって決めたわけじゃないですから」


 やって来たサニアは、七人もの一年生が集まっているのを見て満足げに頬を緩ませた。このままではずるずると彼女の団体への参加を決められてしまうのではないか。そんな危惧から念を押したアンリに、サニアはにっこりと微笑む。


「大丈夫。べつに私たちの活動への参加を強制するつもりはないから。むしろ色んな団体があった方が、交流大会も盛り上がって楽しくなるだろうし」


 そのためなら協力は惜しまない、と彼女は言った。思ったよりも良心的だとアンリが考えを改めた矢先、ああでも、とサニアが言い直す。


「うちの団体に入るかどうかはともかくとして、アンリ君にはちょっと協力してほしいことがあるのよね」


 嫌な予感しかしない。アンリは考えを再び改め直し、警戒の目でサニアを睨む。どこ吹く風と視線を無視したサニアは、今度は教室にいる一年生全員に向けて、にっこりと優雅に微笑んだ。


「私たちはね、一般参加のできる模擬戦闘大会を開催しようと思っているの。というか、去年もやったのよね。知っている人、いるんじゃない?」


 サニアの視線がアイラを捉えていた。なるほど、アイラはその実力を入学前に交流大会で示したのだと言っていた。その場を提供したのが、サニアの属する有志団体なのだろう。


 詳しく聞けば、初等科学園生の部と、中等科学園生の部、それに年齢無制限の三種類を設け、それぞれ参加者を募集し、くじで対戦を決め、優勝者への景品を用意するのだという。


 公式行事である三、四年生による模擬戦闘と同じかそれ以上に盛り上げるのが目標だとか。


「やるのは企画と運営。でも、腕に覚えがあるなら戦闘への参加でもいいわ。とにかく盛り上げられるなら、なんでもよし、よ!」


 気合いの入った言葉で説明を終えたサニアは、ぐるりと周囲を見渡して一年生の反応を窺った。対するアンリたちは、予想以上に短く終わった説明に言うべき言葉も見つからない。


 あれ、と首を傾げるサニアを前に、ウィルが冷静に手を挙げた。


「具体的にどういうことをやるのか、あまり想像が付かないんですが」


「ああ、そうね。もちろん場所を確保したり景品を用意したりっていうのは雑務としてあるんだけれど。ほかにどんなことをすれば盛り上がるかを考えるのが企画。それから、当日盛り上げるために実況したり、混乱が起きないように客席の整理をしたりするのが運営の仕事ね」


 悪くはないなとアンリは思う。周囲の仲間の様子を窺ってみても、概ね好意的に受け取っているようだった。模擬戦闘大会、面白そうではないか。自分が参加しなくても、参加者たちがどう戦うのかを見られるだけでも十分面白い。


 アンリが気持ちを前向きにしていると、慎重派のエリックが口を開く。


「ええっと。もし仮に僕らが参加したとして、最低限やらなければならないことって、なんでしょうか」


「そうねえ……少なくとも、当日の運営の手伝いはお願いするわ。人手が必要になるから。あと、できればアイラさんとアンリ君には、戦闘に参加してもらいたいの。盛り上がりそうだからね」


 強制はしないけれど、と言いつつ期待のこもった目でアイラとアンリとを見るサニア。その視線に、アンリは眉を顰めた。


「先輩、俺、自分の力を大勢の前でひけらかすつもりは……」


「ココア一年分」


 アンリの言葉を遮ってサニアが言う。は? と呆気にとられて言葉を止めたアンリに向けて、サニアは得意げに微笑んだ。


「年齢無制限の部の優勝景品、今年は私の実家で販売しているココアにしようかなと思っているのよねえ」


「出ます」


 あっさり承諾したアンリに、魔法研究部の面々は信じられないという顔を向けた。全員の視線が集まって、アンリはやや気まずく思いながら頭を掻いて笑う。


「いや、えっと。だって、パルトリチョコレートのココア、うまいだろ?」


「……いくら美味しいからって、それですぐ意見を変えるほどのものかしら」


 アイラの冷静な問いに、アンリは口を歪めた。わかっている。自分にとって価値あるものが他人にとって大したことが無いこともある。それを価値あるものだと相手にわからせるのは難しい。


 とにかくアンリにとって、ココアは大好物なのだ。


「別にいいだろ。大丈夫、目立たないように生活魔法だけでやるよ。アイラと模擬戦闘やったときみたいに」


 同級生六人からの視線に対し、アンリは口を尖らせて言った。その言葉に一番大きな反応を見せたのは、同級生ではなくサニアだ。


「うっそ。アンリ君ってアイラさん相手に生活魔法だけで戦ったの? さすがは……」


 と、そこまで言ってサニアは口を噤む。うっかり言いかけた言葉を慌てて飲み込むサニアを前に、アンリは肩を竦めて言葉を引き継いだ。


「さすがは上級戦闘職員って? 大丈夫ですよ。ここにいる人は、皆知っていますから」


 あら、そうだったのと驚きつつも安心した様子のサニアは、それなら模擬戦闘大会に出るのも問題ないわねと、機嫌良く笑った。

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