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交流大会の公式行事は、学園の三年生と四年生によって担われる。
騎士科と研究科による武具の製作展示。研究科と魔法士科による魔法器具の実演や研究発表。そして魔法士科と騎士科による模擬戦闘など。
こうした行事は観客を楽しませるだけでなく、卒業を間近に控えた三、四年生にとって就職先や進学先に自分の力を顕示するための絶好の機会となる。それを学園が正式に後押しするのが「公式行事」ということらしい。
「だから一、二年生のうちは、交流大会を気軽に遊んで回れるんだよ」
「でもでも! それじゃ今までと同じだからつまんないでしょっ。ねっ!」
エリックの説明にかぶせて、マリアが身を乗り出し、輝かんばかりの笑顔で言った。話の流れを誘導しようという意図が丸見えの合いの手に、アンリは顔を引きつらせる。今までもなにも、アンリは交流大会の存在自体を知らないと言ったはずなのだが。
淡々と説明していたエリックも、さすがに苦笑する。
「マリアちゃん。まだちゃんと説明していないんだから、ちょっと待ってて。……まあ、つまり、二年生までは普通に楽しめばいいだけなんだけど、マリアちゃんみたいに、それだけだと物足りないって言う人がいるんだよ。それで、ただ遊ぶんじゃなくて自分たちで何かしようっていうのが、有志団体」
「へえ、面白そうだな」
ハーツの発言に、アンリは思わず目をむいた。今この場で、マリアの意に乗るような発言をしてどうする。案の定、マリアは目を輝かせた。何を望んでいるのかが、手に取るようにわかる。
しかし彼女の思惑にすぐ賛同できるほど、アンリはまだ有志団体のことを知らない。
「それで、具体的には何をするの?」
「色々だよ。団体も一つじゃないからね。自分の得意分野で何かやるっていう人が多いみたいだけど。去年は魔法知識のクイズ大会っていうのがあって、あれは面白かったなあ」
「一般枠で参加したエリックが三位になって、商品をもらったんだよ!」
有志団体でクイズ大会を主催し、中等科学園生に限らず一般参加者を広く募集したらしい。そこに参加したエリックが中等科学園生どころかその卒業生まで破って三位まで上り詰めたというのだから、さすがのものだ。
「ほかにも、アイラちゃんが初等科向けの模擬戦闘で大乱闘を繰り広げたりね……」
「アイラったらずるいの。初等科の子しかいない中で、平気で戦闘魔法使うんだから」
なるほど上級生にまで希代の新入生としてアイラの名が知られているのは、交流大会での活躍が原因らしい。アンリは納得して頷き、それからふと首を傾げた。
「結局はそういうイベントの運営みたいなものなの? 自分で何かやったりは?」
「アンリ君って意外と積極的なタイプだよね」
アンリの問いに、エリックがやや苦笑した。しまったそう聞こえたかとアンリは冷や汗をかいたが、もう遅い。マリアは嬉しそうににこにこと笑っている。
エリックが苦笑したまま、説明を続けた。
「有志団体っていうのは本当に有志で、自分の好きなことをするんだ。イベントの運営だけじゃなくて、自分の技術を披露することもあるよ。去年なら演奏会とか、大道芸大会とかがあったかな。サニア・パルトリさんたちが何をするつもりなのかはわからないけど」
掲示板のポスターには、交流大会を盛り上げようという誘い文句だけが大きく書かれていた。あれでは何をする団体なのかまったくわからない。興味があれば二年生の教室へ来いということなのだろう。
「ねえねえ。アンリ君は、どういうことしたい?」
勢い余ってマリアが言う。もはや何かをすること自体は、マリアの中で確定しているらしい。アンリにとっては初めての交流大会。自ら動くよりは、大会の雰囲気を楽しみたいと言うのが本音だが。
「……そう言うマリアは、何がしたい?」
「ええっとね。私は皆で何かするなら、なんでもいいよ!」
マリアの言う「皆」とは、おそらく今集まっている四人のことだけでなく、魔法研究部のメンバー全員のことを言っているのだろう。
たしかに皆で参加するなら、交流大会が初めてであることなど気にせずに楽しめるかもしれない。アンリは少しだけ気を楽にして、有志団体とやらへの参加を考えてみることにした。これだけやる気のあるマリアを押し留める方が大変そうだという、諦めの気持ちも大きい。
「じゃあ今日の部活動の時間に皆で考えようぜ」
ハーツの言葉に全員で賛成したところで、ちょうど予鈴が鳴った。担任のトウリが教室に入ってくる。教室のそこかしこで会話に花を咲かせていたグループが解散し、各々自席に戻って行った。
アンリはいつも通りに授業を聞き流しながら、交流大会のことを考える。最近は防衛局から手伝いに呼ばれることも少ない。一応、隊長に断っておこうとは思うが、そのくらい楽しんでもバチは当たらないだろう。
(俺は何をしたいのか、か……)
トウリの話をおざなりにノートにメモしながら、アンリはぼんやりと考えを巡らせた。交流大会という行事に覚えはないが、要はお祭り騒ぎということだろう。そんな中で、自分は何をしたいのか。
積極的に参加内容を考えている自分に気付き、アンリは思わず苦笑した。マリアの熱気に当てられたのかもしれない。
そうして授業が終わり、部活動の時間。ほかのクラスの面々からも大きな反対は出ず、魔法研究部のメンバーで交流大会に有志団体として参加することは、あっさりと決まったのだった。




