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 授業が始まってひと月もすると、アンリにも学園の仕組みがわかってきた。


 つまらない授業であっても、眠れば先生に怒られること。


 簡単な講義でも、初めて聞くように感心した風を装わないと訝しがられること。


 そして、最初のガイダンスに反し、成績や身分による差別が横行しているということ。


「あら、三組の方? ここは一組のテーブルよ。退いてくださる?」


 最後の一件について学んだのは、アンリが一人食堂で食事をしていたときのことだった。いつもなら仲間とともに食べるのだが、その日は日誌当番の日で、日誌をつけたり先生に報告したりしているうちに、一人になってしまったのだ。


 遅い昼食をとっていたところ、気付くと長い金髪をポニーテールにまとめた背の高い碧眼の女子生徒が、見下すようにアンリの前に立っていた。


「え? 食堂のテーブルは皆のもので……」


「一組が優先だと言っているの。早くお退きなさいよ!」


 ちなみに、これがあってすぐに理解したわけではない。このときアンリは、一組優先のテーブルがあるなら三組優先のもあるのかな……などと考えながら単純に席を譲り、別の席へと移動しただけだった。


 アンリの思い違いを正したのは、同室のウィルだ。夕食後、部屋で就寝の仕度をしながら昼間の出来事を語るアンリに、ウィルは溜息を吐いた。


「いや、アンリ。そもそも一組優先のテーブルなんてないから」


 ベッドのシーツを整える手を止めて向き直ったウィルは、アンリに向かって頭を下げる。


「僕のクラスメイトが迷惑をかけて悪かったね。たぶんその言動は、アイラ・マグネシオンだと思う……本人に注意すべきなんだろうけれど、僕の言うことなんて聞かないと思うから、あとで先生に言っておくよ」


 ウィル曰く、彼女は入学検査で二位に大差をつけて一位を記録した、恐るべき新入生らしい。そのうえ自宅からの徒歩通学生、つまり貴族だという。それも先代のときに王家から分家したばかりの、力を持った有力な貴族だ。


「彼女のように能力や身分の高さを笠に着る生徒もたまにいるんだ。普通なら先輩や同級生が注意して終わるんだけれど。彼女の場合、身分だけでなく能力の高さも半端じゃないから、先生くらいに力を持った人からの言葉でないとなかなか聞かないんだ」


「へえ。能力の高さって、どのくらいの」


「魔法力の検査で一位になるくらい。貴族だけあって生活魔法も使えるし、噂だと戦闘魔法もかなり使えるらしいよ」


 それはすごい、とアンリは率直に驚いた。サリー院長によれば、新入生で魔法が使える生徒は全体の一割程度だということだった。戦闘魔法は卒業まで頑張っても、全体の三割程度しか使えない。それを入学時点から戦闘魔法をかなり使えるというのは、たしかにすごいことなのだろう。


 しかし、ウィルの言葉にはわからない点もある。


「貴族だと生活魔法が使えるの?」


「ん? ああ。魔法適性があるかどうかは子供の頃に調べるだろ。適性があるとわかると、貴族では家庭教師をつけることが多いんだ。生活魔法は早いうちに覚えた方が便利だから」


 なるほど、家庭教師をつけられるほど余裕のある家の出身だと、入学前から生活魔法が使えるということか。その家庭教師の技量や本人の資質によって、戦闘魔法も使えるようになる場合があるということだろう。アンリは納得して、大きく頷いた。


 それから、ふと思い付いた疑問をさらりと口にした。


「じゃあ、ウィルも貴族だったのか?」


 アンリのひと言に、それまで落ち着いて話していたウィルの表情が固まった。

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