約束は遠い場所へ
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嘘をつく──
これに関しては、フィーラの隣に立つグリプスも同じ事を言える。彼は器用に声を踊らせ、しかし、目ではリラーラに蔑視を向けて口を開いた。
「彼の働きは見事ですよ。今は人間との交流も試みています。フィーラ様、貴女が思い描いた未来はもう間近と言っても過言ではありますまい」
グリプスが発した言葉の意を理解したフィーラは、小さい手のひらを合わせ明るく優しい声音を発した。
「それは、本当なの?リラーラ!」
膝をついたままリラーラは、地面を見る形に頷いた。
「ええ、その通りです」
「通りで、最近、顔を見せる回数が減ったのね!それならそうと言ってくれれば良かったのに!」
「迷惑はかけれないと至りまして」
「迷惑だなんて!!ぁあ、でもこれで……世界中の皆が明るく楽しい未来を見据える事が出来るのね!」
なんて純粋で清い声なのだろうか。リラーラは、騙している自分を責め、そして心には針で刺されたような痛みが伴った。だが、人間や獣人とリラーラが悲しみ苦しみ。あるいは、死すら選ぶ可能性を天秤にかけたとき──一秒も経たずに、リラーラはフィーラの幸せを選んだ。
数多の命より、たった一人の女性を選んだのだ。それがグリプス達、賢人が提示した案だとしても、結果、フィーラが悲しまないのならなんでもよかった。人間が、奴隷となろうが滅びようが、彼女には彼らを見ることが出来ないのだから。
──最低だ。
分かっている。分かっては居るが、リラーラに振り返る事や後退する事はもはや赦されない。多くの犠牲を出しすぎた。多くの気持ちを騙し裏切ってきた。
それは、今も変わりがないし変わる気もない。これが最善であり妙手なのだから。
「はい。その通りです、フィーラ様。貴女の夢が──叶う時が来たのです。どんな形であれ」
「ん?リラーラ、最後はなんと言いましたか?」
「いいえ」と、首を横に振り、顔を持ち上げ口を開いた。
「なんでもございません」
「話は変わるが、リラーラよ。何か用事があるから来たのだろ?何用だ」
「はい。今行っている事業が、佳境を迎えている為──暫くの間、帰ってくる事が難しいと、言う事。それともう一つ」
「なんだ?」
開きかけた口を閉ざし、めを伏せた。
「いえ。なんでもありません」
「待ってください。事業って、交友の話ですか?」
「ええ。そうですよ、フィーラ様。リラーラに与えた任です」
「そんな忙しいんですか?ご飯は?それに嫌がらせとか、されたりしてませんか?」
憂いた声音が胸を締め付ける。リラーラは、口の端を噛み締め──
「大丈夫です。皆、よく働いてくれていますよ」
リラーラの言葉にそっと肩をなでおろし、フィーラは胸に手のひらを添えた。そして気持ちを落ち着かせるように、数回深く息を吸い吐いてから、穏やかな口調で、慌ただしさも一切くリラーラに問いかける。
「でも、すぐには行かないのですよ、ね?」
「はい。一週間ぐらいは、この地に居るつもりです」
「そうですか!なら、今日は一緒にご飯を久々に頂きましょう!!いいわよね、グリプス!」
「え、ああ。構いませんよ」
「じゃあ決まりね!募った話だってあるし!」
フィーラの案に頷いたリラーラは、心の中で謝り続けた。
それがとうとう、声として漏れたのは約束の時間を過ぎた頃──
「ごめんよ、フィーラ。俺には、やらなきゃいけない事があるんだ」




