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期待

熱が続き、ダウンしてました。。コロナではなかったのでとりあえずは安心ですが

リガルと会ってから二日が過ぎた頃、ヤナク達は依然として東の領地に腰を据えていた(エルフの進軍は無いが、アヴァロンへの救援依頼が長引いている為)。日も登りきらない早朝、小さい宿屋に走るのは、緊張感と威圧感。

ヤナクは、それでもシーカーの目を見つめたままもう一度口を開く。


「お願いします。行かせてください」


「……お前、何を言ってるのか分かってんのか?」と、シーカーは、目を細め険のある声音を発する。


これ以上は言うな。口に出さずも雰囲気でヤナクの開いた口を縫い付ける。当然のように訪れた沈黙は、心地良さからは程遠いものだった。


嵐の前の静けさだとか、そんなものではなく。蛇に睨まれた子うさぎのような感覚だろうか。ヤナクは、シーカーの逆鱗の一端に触れたのだと今更ながら気がついた。


──だが。


「はい。それでも僕は、行きたいのです。赤き竜が眠る──大陸ロンへ」


ヤナクはリガルと別れた後にタナスと会話をしていた。


「ありゃりゃ。友達、いっちゃいやしたね~」


おちゃらけた声が健やかな風と共に耳を掠め、なんの疑いも警戒もなく振り返れば、円柱に寄りかかるタナスが居た。


「なぜ君がここに?」


心に苦しみを伴いながらも、タナスには私情なんか関係がないと解に至り、素朴な疑問をもちかける。


「何故って、そりゃ貴方に助言を授けにきたんすよねぇ~」


「助言?」


「ええ。友達を止めたい。そーなんすよねえ?」


訝しい笑みを浮かべた仮面をはめた男性がヤナクを指さす。的を的確にえた自信に満ちた煽り口調をするタナスを見てヤナクは頷く。


「そうだとも。彼は今、後戻りの出来ない道を進んでる。止めるならもう、力しか」


リガルの瞳にやどった決意を感じたからこそ。覚悟を感じたからこそ、ヤナクは自分が一番したくない手段を選ぶしかなかった。


穏やかな声音は悲しみと罪悪感で震え。握った拳は、自分を咎める力強さをもって血が滲む。思い返せば、たった数日だったかもしれない。だがその数日は、ヤナクの数年に値するほど充実であり楽しいものだった。


今いる友よりも更に上の関係──親友とさえ思っている。


「けれど、今の貴方には抑止するだけの力はない」


ヤナクを中心に円を描くようにタナスは歩く。


「力、確かに僕には……ワールドトリガーに匹敵するほどの力なんかない」


故に、腕や義眼には、より力を増幅させるために魔石を埋め込み、体内に取り込んだ魔石の循環を底上げしている。だが、人体に改造を施したとしても、足元にすら及ばない欠陥品だ。


分かっているからこそ、ヤナクは口の端を噛み締める。下を向き、無力な自分を呪っている中、喧しくタナスの足音だけが草を踏みつけなり続けた。


「それなら、大陸ロンに行けばいいと思いますぜ」


「何故そのような場所に?」


「彼なら……赤き竜ならば必ず力を貸してくれる筈でしてねぇ」


声に笑いを含めた声にヤナクは、小首を傾げる。


「何を言っているの?赤き竜は世界の調和を守る為に」


「だからでっせ。身を犠牲にする偽善者──おっと。正義感に人一倍溢れた貴方なら、力を貸してくれる筈なんですよ。似たもの同士としてね」


「でもそんな事、出来るかどうか」


「出来るかどうかどうか?それは、やって見なきゃ分からないことぐらい、貴方が一番分かってるんじゃないでしょーかね?市民から騎士に成り上がったヤナクさん」


赤き竜は目覚める事のない、眠った竜と話を聞いたことがヤナクはあった。直接聞いたとかではなく、シーカー達の談話を盗み聞きしたぐらいだが。


ヤナクはこの時、もし自分に目覚めさせることの出来る可能性があるなら。と、僅かな期待を胸に秘めていた。


「やるだけの価値は」


残る不安を払うかのように、アクロの丘には少し強い風が吹き付けた。

背を押され髪を力強く撫でられ。目を閉じれば広がる理想の世界。嘘も偽りもなく、貧富の差もなく。みなが平等な、そんな優しい世界。


「──あるよね。分かった、僕は準備が出来次第、大陸ロンに一人で向かうよ」



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