侵略
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「なるほど。やっぱり、皆凄いな」
ジャンヌの説明を聞き、リガルは深く頷いた。まず初めに、ジャンヌが話していた移住の話から事は始まる。
人は石垣であり、人は城だとジャンヌは言った。そして、それにそぐわぬ考えを見出していたのだ。
・まず初めに、森に居る昆虫種を討伐。限界突破は使わずも、ビーストテイマーの能力を持って転生させる。彼等に不可視化魔法を付与し、材木や兵糧と言った物をグローリーに運ばせるのだ。
この際に、ヒュンズを筆頭に建築の知識を持っている者と、護衛や手伝いとして騎士を派遣する。木造等の建物は間に合わずも、野営用のテントがあれば民は過ごせる筈との事だ。
確かに野宿となればストレスは免れない。しかし、中央領地が戦場になる可能性も大いに有り得る。と、なれば、背に腹はかえられないのだ。戦うすべを持たぬ民を人質にでも、取られればそれこそ将来的な覇権。つまりは、民達から得る信頼や信用、信憑に支障をきたす。
・もう一つは、兵糧の確保だ。これは、昆虫種を利用し西の領地から奪取する力技となる。だが、ワルターがリガルの能力を把握出来ていない今、効率がいいのは、この作戦が一番だとミネルバ達も言っていた。
何せ、自然豊かな西の領地は、山に囲まれている。それ故に、守るに容易い要塞なのだ。ジャンヌはこれを、逆手に取る戦略を立てていた。
昆虫種を使い、災害と思わせればいいのだ。虫や獣が稲作を食い荒らす──と言った話は良く聞くし、よく見舞われているらしい。
故に、備蓄庫を狙い兵糧を奪い、グローリーへと運搬する。これが成功すれば、餓死の恐れは無いに等しい。
リガルは現実味のある作戦を素直に感動し、目を見開いていた。
「次はいよいよ……戦略の──いや、侵略の話をするわね」
「侵略?」と、リガルはジャンヌを見て問いかけた。
「ええ。私は閃いたのだけれど、そうね。選ばれた人達は過酷な生活を強いる事になるけれど……」
「気にする事はない。それが最善であり最短ならば、皆までいうまい」と、平坦な声音を発したミネルバは、真顔でジャンヌを見つめる。
「その心意気、感謝するわ。じゃあ、まずはコレを見てちょうだい」
ジャンヌは、机中央に地図を広げて指をとある場所に示す。
「ここは、儂らが嘗てお主等が居ると見込み探りを入れた森──じゃな?」
「ええ、そうよ」
「そうよ。って……カハーッ! 何でもお見通しじゃったって事か。本当、底知れぬ奴じゃわ。──それで、森で何をする気じゃ?」
「良いかしら。ワルターも、自分の置かれている立場がどんだけ重大なモノか心得ているはずよ」
「でも、なら何で騎士団を構えないんだ?」
リガルの問いにジャンヌは、穏やかに応える。
「言ったでしょ? あの土地は守るに容易い──とされているのよ。入り組んだ山脈に、巨山。自然の要塞を目の前に、人とは余りにもか弱い。だけれど──」
ジャンヌは、西の領地を囲う山の一箇所を指さした。そこに答えがあるのだろうが、リガルには解を導き出す事が出来ない。堪らず眉を顰め、呻き声にも似た声が短く漏れた。
「まず、偵察がこの街には居るわね」
「ああ。何人か、冒険者が戻ってきているな」
「この領地から一度、冒険者が姿をくらましてくれたのが功を奏したわね。まあ、そうでなくとも、見抜けたけれど」
「なるほど。彼等に偽の情報を掴ませるわけだね?」
イザクの回答に指を一本立てて頷く。
「ええ。一つは正解ね。きっと彼等は東の領地と私達が戦った後──消耗した所を叩きにくる。もしくは隙をついてくるはずよ。そこで私達は四班に隊を分ける事にするわ」
「分かった。わざと隙をつくるんだ?」
リガルの言葉にジャンヌは頷いた。
ジャンヌは、トの形をした駒を幾つも地図の上に並べ説明を始める。
・冒険者には、大半の軍を使い東の領地を攻めるという噂を教え込む。
・西の領地付近の森に身を潜め、攻めてきた騎士達の横腹をつく。
・東の領地には、牛歩を用いて進軍。
・東の領地に進軍している一部の部隊を森へ転回させ、西の領地へ山を登り侵入。最初、食料奪取をさせるために昆虫種の足跡を使い道を軽く舗装する。彼等はそこから一気に攻め込むというものだ。
忍耐を要とした、侵略戦の説明を終えた後にジャンヌは最後に告げた。
「リガちゃん。この作戦に於いてもっとも重要な立ち位置は貴方よ?」
「お、れ? それはその、皇帝──としてか?」
「それもあるけれど、白魔道士として、よ」
「白魔道士?」
「そう。貴方は、天候を操る魔法を使えるのよね」
「確かに俺は【天候魔法】を扱える」
「西の領地に大雨を降らせてちょうだい。あそこには、大雨に乗じて攻め込むのよ」
「なるほど。雨天では視界も悪く、また足跡も聞こえにくくなる。おまけに、体も冷え、士気もさがるな」
ミネルバがジャンヌの策に同調し、一同もまた頷いた。
「だからこそ、今のうちからあの領地には天候魔法・サンシャインを使用しといて欲しいのよ。彼等の先入観に、雨は降らないと自然的に植え付けたいの」
「なるほど。そりゃ、妙案じゃな。して、期間はどれぐらいじゃ?」
「期間はそんな待てないわね。二週間といった所かしら。ワールドトリガーが攻めてこないともいいきれないし。まあ、彼等、単体で攻めてはこないでしょうが」
「一ヶ月って、そりゃまた……」
ガラックが額を摩り言葉を濁すが、流石のリガルも無茶があると理解ができた。
あれだけの大軍を二週間で動かすのには流石に無理がある。
だが──
「一ヶ月だな?」
意外にも、騎士団団長であるミネルバの声には迷いも困惑もなかった。その自信に満ちた声は、皆を置き去りにするほどハッキリとし、力強いものだ。
「出来るのね?」
「当たり前だ。陣を組むのならいざ知らず、我々の力を見くびらないでいただきたいな」
「助かるわ。昆虫種を狩るのは私達に任せてちょうだい。あなた達は、まずグローリーの事だけを考えて」
「分かった。そうしよう」




