暗中
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「ワールドトリガーが、何を今更」
リガル達が再び椅子に座った後、ミネルバが言葉を漏らす。
「そう。正にそこなのよ? ミネちゃん。確かに中央領地・ダースに宣戦布告した我々は小規模だった。──けれど、これはアナタ達からすれば、結果論にすぎないの。言っていることは、分かるわよね?」
「ふむ。つまり、戦力の把握が出来ない以上は、国を守る為なら慎重をきするべきだ……と言いたいのかの?」
「ええ。ワールドトリガーの内、一人だけでも中央領地に滞在させておく。王に仕える一人が加われば士気にだって繋がるし。アナタ達が貰った」
「なるほど。イグムットも下手な真似は出来なかった、と?」
「そうよ。何故彼らは、事が窮地に陥って居る時に今更、全員で動いているのかしら」
けして空気はヒリつかず。逆に神妙な雰囲気が漂っている。
「こうなる事を考え、国の権力を磐石にする為──だとか?」
「あるいは、領主達を邪魔に思っていた王の陰謀?」
「有り得るの。あヤツらは王族でありながら、互いに互いの弱みを探っておった」
皆が皆の顔色を伺う素振りも見せず、目を瞑り黙考しているようだ。きっと、ジャンヌもその例に漏れてはいないだろう。
リガルもリガルで、答えの分からない何かを探すが、想像がまるっきりできない。みなを真似して目を瞑ろうが、天井を見上げようが、閃もしないのだ。
「これない理由があったんじゃないか」
そんなつまらない事しか思いつかず、口から零れた瞬間に後悔をした。
「あ、いや、ごめん」
「何故謝るのかしら? リガちゃん」
ジャンヌの眼窩がリガルを向いて、目線を感じ鼻頭をかきながら口を開いた。
「いや、だってそんな事、誰でも気がつくだろ?」
「いいえ。そうね。そうなのよ。普通は、そう考えるわよね」
「じゃな。灯台もと暗しとはよく言ったものじゃわい」
「そうだな。奴らには奴らなりの、来れない理由があった」
リガルの言葉が引き金に、ジャンヌ達の声音に士気が再び宿る。
「そこに、中央領地を無視した秘密があるかもしれないわね。とまあ、彼等の模索は未だ暗中。今は、東の領地をどうするか──ね」
「そうじゃな。このままでは、東の領地に戦力が集中しかねん。西を攻める前に、東から攻めて来たりすれば、兵糧も間に合わん」
「あの、一つ良いかな」
「何かしら、リガちゃん」
手をひっそりと上げたリガルは、一度深呼吸をしてから口を開いた。
「申し訳ないんだけれど、軍事に俺は詳しくない。噛み砕いて話してくれないかな? 全く、状況が見えないんだ」
これは恥じたろう。皆の唖然とした表情もとい空気が物語っている。だが、足でまといになりたくもない。知った振りをしたくもない。
結果的にそれは、仲間への侮辱であり裏切りだろう。リガルはこの時、いやこうなる前から決意をし覚悟をしていた。
──皇帝となり、世界を変えることを。
だからこそ、知る必要がある。理解する必要がある。置いてかれるのは、ゴメンだし。他者に流され続ける事はあってはならない。リガルはいつぞやの決心を思い出していた。
それは、白魔道士になると決めた理由。
──皆を支え、勝利へ導きたい。
なんら変わっちゃいなかった。リガルは今も昔も。その為に必要なのは、無知は無知なりに知識を深める事だ。
リガルの瞳には濁りがなく、透き通った赤い瞳は炎のように熱を帯びている。
ジャンヌは数秒、リガルと視線を交わしゆっくりと頷いた。
「そうね。それがいいわ。まず、優先すべき事から述べて行きましょう。リガちゃん、ありがとう」
「俺はなにもしていない。ただ、足でまといになりたくなくて」
「貴方は足でまといなんかじゃないわ。一度死んだ私達に、新たな可能性を育んでくれた。ただ、悪として滅せられる運命ではなく──正義としてこの地に足をつける権利を与えてくれた。それだけで、貴方は私の──いいえ、私達にとっての救世主なのよ」
「ジャンヌの言うとうり。我が主よ、自分の事を引けに見てはなりませぬよ。主は、我々の光なのです」
ラウンズやジャンヌの言葉を聞いて歯がゆくなり、頬は赤身を帯びる。火照った両頬を見たミネルバは、“ふっ”と鼻で笑ってから、穏やかな声音を発した。
「慕われて居るのだな、リガルは」
「当たり前じゃないの。私の旦那様にしたいぐらいだわ」
「いや、それは……」
「この、魔女が! 我が主になんたる無礼を!!」
「ふふふ」
「はははっ」
「全く、二人は相も変わらずって感じだね。とまあ、そんな二人は置いといて、話を進めようか」




