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瀕死の街

読んでいただきありがとうございます

「こんな……なんて惨い……」


 ヤナクの瞳に写るのは、炎の代わりに街を染めあげる真っ赤な血潮だ。潮の香りが血腥さに負ける程の夥しいまでの血液が、大地を家屋かおくを塗りつぶしている。


 四肢が割けはらわたを露にし絶命している者や、内部から爆発したかのように肋骨が飛び出し死んでいる者、様々な屍が至る所に転がっていた。


 歩く度に鳴る、ネチャリネチャリと耳に纏わりつく嫌な音は、血か、はたまた肉片か臓物か。ヤナクは、眉を顰めながらも先へ先へと足を運ぶ。そんな中──


「全く。嫌になっちゃうね~。オイラ達だって連戦続きで」


ミロクの発言に対し、ヤナクは嫌悪を抱かずには居られなかった。これだけの場面に出くわして尚、顔色ところか感情のざわめきすら感じる事が出来ないからだ。冷酷・冷徹・無慈悲・無情。


だが、この話をするならば他のワールドトリガーだってそうだ。彼等は何一つ変わらない。それこそ、夜食の談話と何一つ。


こんな世界があっていいものか。こんな生き物が跋扈していいものか。ヤナクの胸に“何が”チクリと刺した。


「弱音を吐くのは後にしろ、ミロク」


 人の気配すら感じない港街を歩きながら、シーカーは言った。それを聞いたヤナクは、ミロクの言葉に同情を覚える。言葉の意味だけだったならの話ではあるが──


と言うのも、最近はずっと魔族ではなくエルフ(偵察部隊と思われる者達)と戦っていた。休む暇もなく、他に気を配る暇もなく。ひたすらに、海上戦を行っていたのだ。


 ゆえに気が付くのが、ここまで遅れたとヤナクは理解している。


「リガルの宣戦布告に合わせてのコレか。一体、何が起きてるんだろうね」


 ヒースは血にも負けない深紅の鎧を軋ませ、辺りを警戒した様子で。それでも落ち着いた面持ちを保ったまま口にした。


 ──に、しても。一体どれ程の修羅場を掻い潜ってきたのだろうか。考えるだけで恐ろしい。


「ん~分からんねぇ。タナスは、なぁ~にか言っていたの~??」


 両手で後頭部を支え、体を少し反らして歩くミロクをヒースは横目で見て首を左右に振るった。


「いいや。彼は自由気ままな所があるからね。事これに関しちゃ何も触れてこないね」


「わっち等が利用されてる」


「って事はないだろ。タナスの助言があったからこそ、エルフや獣人の企みがわかったんだ。少なからず俺達の味方ではある筈だ」


 シーカーの答えに皆が沈黙を選ぶ中で、一番後ろを歩くヤナクの歩みが止まる。


「皆さん、気をつけてください」


「どうした??」


「何かが、二体ほど前方の家から見ています」


「うひょー。流石は、ヤナクだね~!固有スキル【心眼しんがん】は伊達じゃねぇってかあ?」


 おちゃらけるミロクの横でシーカーは頷く。だが、剣を構えるわけでもなく、臨戦態勢に入る訳でもない。シーカーはただ、凪いだ海のような神妙さをもって口を開いた。


「分かった。──リザ、殺れ。加減する必要はない」


「分かったさね」


 杖を地に刺し、手を翳す。すると、リザを中心に不規則な風が乱れ吹き始めるのと同時に、リザの体は淡い赤色を帯び始めた。この身体がもたらした変化は、体に埋め込んだ幾つもの石が呼応して起こる現象である。


「インフェルノ・アブソリュート」


 リザが唱えた刹那、家屋下の地面は熱を帯び、オレンジ色に変わり一気に火が吹き出した。爆音が鳴り響いて数秒後に訪れた熱波を、シャナクの呪文にて防ぐ合間に見えた、リザの快感に満ちた笑顔。蕩けてしまいそうな、歪んだ笑みを垣間見てヤナクが卒倒している中で二本の剣を振り抜きシーカーは駆けた。


「げぇ! なんだよ! 抜け駆けかよ!!」


「こら、ミロク。戦いは遊びじゃないんだよ」


「え、良いんですか? 敵の実力も分からずに」


「いいのいいの。俺達のパーティで一番の戦闘狂はシーカーだからね」


「だねぇ。ありゃあ、もう狂戦士バーサーカーの類だよ。それに、シーカーが死ぬようなら、オイラ達も勝てないさ~」と、二人して心配する様子一つ見せず、逆に呆れた様子を浮かべてるほどだ。


 海上戦を思い返しても、シーカーはどちらかと言えば一歩下がって戦況の把握に務め、指示を出す方に徹していた。


 故に、ヤナクは動揺していた訳だが。これが本来のワールドトリガーなのだろうか。


「ははっ。言えてるね。──それに俺達だってそろそろ始めなきゃだしね」


「それはどう言う?」


「え? ヤナクは分かってなかったのっ? さっきの魔法は、ただ単に敵を倒す為だけじゃないよ~?」


「だね。これだけ広い街、敵が何処にいるのか。探すのだって大変さ。だから、誘き寄せるために態々、爆音を轟かせたんだよ。被害を広げないためにも、生存者が居ないここなら思う存分ってわけ」


 ヤナクは素直に凄いと思っていた。同時に、考えは変わらないが。それでも、蔑視を向けてしまった自分に恥を感じ心で一つ謝罪を入れる。


──未熟で申し訳ない、と。


 この短時間でそこまでを考えているとは思えなかったからだ。なのに、真面目に状況判断に務めていたヤナク以上に、周りを考え一番被害の少ない方法を編み出していた。


「よしゃ、シャナク! オイラ達にバフを付与してくおくれ! ありったけね!」


「リザは、俺達が敵を足止めしている時に妨害魔法を宜しく頼むよ」


「了解さね」


「じゃあ、戦闘準備だあ!!」




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