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見落としているもの

「叛逆の権を与えられた皇帝……か」


 大衆が挟み見つめる先──


 エーテラの大道路を、騎士やラウンズ達が隊列を組みゆっくりと歩む。その中央を、リガルを乗せる乗り物(漆塗りをした、気品溢れる御輿)が馬に引かれ進んでいた。


「この国を変えてくれよ!!」


「私達を庇って、イグムットの屋敷に連れてかれたお兄ぃの仇を!!」


「ミネルバ様達が居るなら、俺達は着いていくぜ!!」


 轟く歓喜は、空気を震わせリガルを鼓舞する。多分ではあるが、罵声だってあるだろうが。それ以上の歓迎が辺り一帯を包んでいた。すごい熱気と迫力に若干圧倒されながらも、リガルは玉座に座り手を振り続ける。


「まあ、それよりも……民の移動計画は順調か?」


「ええ。調べた所、グローリーには十分、みなが住めるだけの面積があるわ。ただ、人が島に入れるのと住めるのとはまったく話が違ってくるわ」


「やはり、そーだよな」


 一週間余りが過ぎ、皆で名付け決めた新帝国・ルクスは大まかな方針が決まっていた。


 ・金貨に関しては、より明確な価値を見出す為、紙幣と硬貨を生産する事。


 ・産業や商業等々の手続きや決め事は、平等をきする為に民間人を雇用する事(その為には、貴族達が習う物を公表し試験を行う)。


 ・民間でも騎士に立候補し、国の為に戦うことができる。この場合、冒険者や民ではなく“国家公務員”となる(だが今は、戦力を見込めない為、ミネルバ率いるビヨンドが主軸)。リガルは、この事を決めた時、ヤナクの事を思い出す。彼が自分の国に寝返ってくれたのなら、きっと大きな進歩になるだろう、と。


 ・犯罪などの再度検討。


 ・奴隷・貴族制度の廃止、平等化。


 ・人命救助を大優先。


 ・年に一度、民の代表を決め、国に足りない物を公言する場を与える。所謂、選挙というものだ。


 等々──直ぐに実行に移すのは困難を強いられるが、それでも今の王政に比べれば実現した時、必ず民が笑えるものとなる筈だと確信は出来る。


 その一つに、民の避難場所を作るとあり、答えをグローリーととなえた。だが、現実はそう甘くはない。ほぼ、未発展であるグローリーに大衆を移動させても、飢えたりするのが目に見えていた。


「だが。迅速に対応しなきゃならないな」


「ええ、そうね。私の予想が的中していたのだから」


「さながら、先見せんけんめいだな」


「ふふふ。そんな大層なものじゃないわ。勘がいいだけよ」


 ジャンヌは、東の領地を危険視していた。と言うのも、今回、ミネルバ達に服用させたものを作ったのが東の領地での事だと分かって居たからだ。


 ミネルバ達の話を聞けば、領主であるガガト=ヒュースは医学や科学の知恵を持っているが故に、大の実験好きだと聞く。きっと数多くの奴隷が犠牲になった事だろう。


 想像し、リガルは口の端を噛み締めた。


「んで、正直……どうなんだ? 東の領地は」


「最悪ね。正直、長くはもたないんじゃないかしら。いくら知恵があったとしても、それは豊富なだけで万能ではないのよ」


 隣で立つジャンヌの姿は凛としていた。堂々足る立ち居振る舞いは、動揺を微塵と見せず、導く助言者としての威厳を魅せつける。頼もしく、格好よく、そして誇りにさえ思える力強さだ。


「けれど」と、ジャンヌは続けて会話を続ける。


「ん?」


 目線を送ったまま耳を傾けると、ジャンヌは言った。


「これはまだ序章に過ぎないわ。何かしらね──この胸のざわめきは」


「ざわめき? 西が攻めてくるとかか?」


「いいえ。ワルターは、攻めてこないわ。彼はだって、自分の勝利を信じて疑わない野心家ですもの」


「なら……なんだ??」


「普通の人間であれば、あの怪物には勝てないでしょう。ワールドトリガーであっても、一筋縄じゃいかないはず。王都からの救援は免れない状況であり、ガリウス側の戦力を低下させるチャンスでもあるはず──なのだけれど」


 ミネルバは、声に不安を宿さず顎を指で撫で付ける。


「駄目ね。まるで濃霧がかかったように、先が見えないわ。何かしら……何を私は見落としているのかしら。もしくは──私が知らない、なにか?」と、ジャンヌが盤面を見直している数分前──


 東の領地・ナハブにはワールドトリガーが到着していた。

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