水面下
読んでいただきありがとうございます。今回は話が少し短いです
闇に溶け姿をくらましたタナスを、ワルターは見終えると再び窓から外を眺めた。
「全ては、ラグナロクの為に。そして、余が王になる為に」
今回、東の領主と中央の領主が共同で行っていた行為をワルターは知っていた。知らされていた、タナスによって。
赤い霊薬と言われていた物は、迷宮区なの果てに成る木から実る新葉らしい。これには、寿命を止め力を増幅させる作用があると、タナスは言っていた。理由としては、眠る赤き竜の力が多少ではあるが含まれているかららしい。
それに、魔石の力を合わせる事で力をより増幅させたようだが。これには、欠点があった。新葉には、人が抱く負の感情を集める効力があり、魔石には同様に負の感情が蠢いている。
つまり、霊薬と魔石を合わせた事により、被験者の感情は抑制が効かなくなり暴走したとの事らしい。タナス曰くだが。
「次に攻めてくるのは、余の領地だろうが──そうは行かぬよな? ククク」
長期戦を前提とした戦は、兵糧を狙うのが鉄則だ。この場合、王都を最終目的とした際、この地を狙うのが妥当だろう。兵糧を絶てば騎士は疲弊し、民たちの不満も募り王への支持や士気に大きく関わる。
それらを分かっていても尚、ワルターの表情に焦りの色はなかった。寧ろ、慢心し悦に浸る余裕すらある。
──必然的に、中央が次に相手しなくてはならないのが東の領地だと分かっていたからだ。だからこそ、ワルターは騎士や冒険者には無駄な行動はさせず、いつも通りの日常を過ごさせていた。
間違いなく、敵の偵察部隊がこの地に居ることは今回の戦いから予想が出来ている。余裕を見せておけば、敵も心にゆとりが出来て進軍する為の準備も念入りにすることだろう。それに加え、明白な国がない以上、大きな勢力を作る為にも中央領地を一つの国として旗揚げする事も予想が出来た。
その間に、東の事態を把握し相手にする。最終的に、疲弊した中央を叩き、王・ガリウスの信用を根こそぎ奪い取るという算段だ。策も万全である。
何も知らせていない冒険者達に、高額な報酬を渡し東に行かせた。当たり前だが、明白な理由は知らせていない。ただ、ワルターからの命によって訪れたと分かるように、領地のシンボルである天使の羽と麦穂の刺繍が施されたマントを羽織らせている。
彼等が死ぬ事はほぼ確定しているだろう。故に情報が漏洩することもないし、代わりに恩が生まれ支持が得られる。
──完璧だ。
ビジョンを頭で思い浮かべ、堪らず零れる笑みは喜びを凌駕した私利私欲で溢れている。
こうして、ワルター=ヒュースが水面下で動く中で二週間余りが過ぎた頃、中央領地では新たな動きを見せていた。
「まさか、俺が凱旋を体験する事になるとはな?」
「ふふふ。リガちゃん、貴方はこれより、国を総べる者になるの。それはつまり、叛逆の権を与えられた皇帝──」