未来と企み
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リガルがアルルの助言の元で、次の日、皆に提示したのは『俺達だけで決めてはならない』と言うものだった。
色々考えた結果、住民にも住民の中で信頼度が高い人物だって居るはず──と、解に至ったのだ。ならば、自分達だけで法律を決めては、住民になんら寄り添っていない。つまりそれは“独裁”と、何ら変わらないはず。
民に納得してもらうには、民の話も聞く必要があるのだ。故にリガルは言った。『これからは“民主主義”と言う国政を作る必要がある』と。初めは唖然としていた皆だが、リガルの熱弁を間近で聞いて、納得を見せる。
民を政治に組み込むのは前代未聞であり、戸惑いがあったのも事実だが──
「では、自己紹介をお願いします」と、リガルが、皇帝になる男とは思えない程の低姿勢を見せたのは、一週間が過ぎての事だ。
その間、騎士達の協力の元で聞き取りと集計を行っていた。最も票が多かった二人が、この円卓の場に招かれ、拡散力のある住民数名もまた観客として招かれている。
会談の透明化こそ、信頼を得られるはずだとリガルは考えたのだ。
「拙僧は、シンク=カルテラ。エーテラの教会の僧にございます。未熟者ゆえ、御迷惑になる事があると思いますが──何卒宜しくお願い致します」
シンク=カルテラ。
リガル達が以前、向かった場所に務める大僧侶だ。神に仕える彼は、人の悩み等を聞き届ける事も担っており、民にとっても信頼熱き男性。見た目は、ミネルバやガラックに比べれば泊はない。筋肉質とはいえない細身の体で、皺が目立つ老人だろう。だが、泊がない代わりに、シンクの内からは慈しむオーラが滲み出ていた。
シンクをこの場で見たミネルバも、彼なら。と、納得した様子で頷いていたのをリガルは思い出す。
物腰の低いシンクが挨拶を終えると、隣に立っていた女性も口を開いた。
「どうも。私は、リュカ=マクベス。そこまで、自己紹介は要らないわよね? とりあえず、よろしく」
リュカに関しても、誰も文句を言うものはいない。商業に於いても軍事に於いても、彼女を知らないものはほぼ、居ないと言っていいからである。
「じゃあ、新しい紙を配る」と、ビーズが住民代表の彼らも記した紙を配り始めた六日ほど前──西の領地に住む領主・ワルター=ヒュースは、ワルター邸の窓から外を眺めていた。
それは、日が昇り始めたまだ少し肌寒い時間帯──
「ククク。これで、邪魔者が一人消えたッて訳か」と、野心を帯びた野太い声が静かな書斎に響く。
ワルターは、片手に持ったマグカップを口に運び、白い湯気を立たせた暖かい飲み物をゆっくり口に含ませ、舌で転がし味わう様に飲み込んだ。
ふぅ、と一つ深く息を吐き捨て、振り返る(服装は、シルクの赤い寝間着)。
「だが、しかし、お前がワールドトリガーを裏切っているとは……誰も知らないだろうな?」
「おやまぁ。私は将来を見込める御方に、御助力しているだけですぁよ?」
道化の如くおちゃらけた声音だ。まるっきり、信用に値せず、訝しげな瞳で穿ってしまう程にあてにならない。だがそれでも、ワルターは構わなかった。
何故なら、逆に利用してやればいいと言う考えだったからだ。騙すのはこちらも得意である。心理戦で負けるつもりなんかサラサラなかった。
「ククク。よく言うわ。余の事も騙す気か? イグムットやアイツのように」
「騙す!? なあにを言ってやがるんすかぁ、旦那ッ! 私は、可能性の話をしただけじゃあありゃあせんか!」
無駄に大袈裟なリアクションで、ワルターの問に反応を示す。何を考えているのか。あるいは、何も考えていないのか。
目を細め、ワルターは吟味する。
「フン。まあいい。余計な事はしてくれるなよ? 国家大罪を冒したリガルを葬り、手柄を立て英雄になるのは余であるのだからな」
チラリと、壁に飾られてある宝剣を瞳に写した。ワルターは、他の領主と違い、武の心得がある。故に、体は大きくも、ガリウスとは異なり引き締まっているし。手のひらの皮は分厚く丈夫だ。彫りが深い顔で、そこから覗かせる瞳は青く美しくだが、鋭く力強い。髪は特殊なジェルで後ろに固められ艶やかである。
「わあってますたぁ!」
「本当に、分かっているんだろうな? 耳長の」
「その呼び方は止めてっすあ! タナスと呼んでくだせぇ」
そう言って、タナスはフードを被り面を取り付けた。




