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助言

読んでいただきありがとうございます

 ゼロから始まる。イザクの言葉に。当たり前な内容に。リガルの心臓は、尚早まり息苦しさを覚えていた。

 思い返せば、白魔道士は必要が無いと仲間に騙され。黒いなにか(集合思念体)と、出会い。アルルと出会い──


 復讐し、世界の闇を知り、気がつけば目の前に新しい国が出来ようとしている。


 多分ではあるが、このメンバーの中で一番緊張しているのはリガルに違いない。それをバレない為にも、リガルは目の前のグラスに注がれた水を静かに飲んだ。


 冷たい水の筈だが、それすら生温く感じるのは目の前で散る火花か、熱気か──


「一から始まるとしても、我々貴族が民をまとめる必要があると思うんだが?」


「ないですよ」と、イザクな即答する。


「寧ろ、不満があるなら立ち去ればいい。立ち去った所で行く場所はないのでしょうがね?」


「それに、貴族が居るから奴隷も居る部分だってあるんです」


「……ならば、貴族を廃止した所で、何を始めると言うのだ?」


 ガルーダは目を細め、手に取った紙を机に叩きつけて問う。方やイザクは、ガルーダの態度を気にもしていない様子で、口を開いた。


「なに、そんな変わりませんよ。ただ、資格を作り、職を増やす。良いですか? 言い方は悪いかもしれませんが、貴方達の領地はリガルに負けた。つまり、ガルーダさんの土地はないも当然なんですよ」


「ぐぬぬ」


「ですが、追放などをしても意味が無い。だからこそ、一から新しい秩序を作ろうって話なんです。貴族制度を廃止すれば、騎士の皆様だって新しい道に進む事が出来る」


「ならば、我々は路頭に迷うのではないか?」


「だから、稼ぎましょう。貴方達が庶民だと足蹴にし、高い所から見下ろしていた者達と同じ立場に立って」


「しかし、貴族の皆がそれを受諾するとは思えんがな」


「だから言いましたよね? ならば、国を出ればいい。もしくは、努力をすればいい。我々は王国と戦うつもりでいるのですから」


 こうして、一日目の質疑応答はイザクとミューレの提示した案の内容のみで終えた。リガルが古びた宿に帰る中で、自分なりに理解した事がこうだ──


 貴族制度の廃止。


 これは、産まれた時に既に決まっている優劣を無くし、皆が平等に出来るための処置であり。無論、貴族しかなれなかった騎士にも、民がなる事が可能。逆もまた然り。とは言え、これが浸透するのも生半可なものではないのだろう。


 一からではなく、ゼロから全てを始める難しさを言葉のみで体感することとなった。


 ミューレの案は、奴隷制度の廃止。


 これに関しては、ガルーダも大して反感することはなかった。と言うのも、イグムットの悪逆や、非道徳であり非情な貴族達の玩具にされていた事を知っては強く言えなかったのだろう。


 結果的に、今の現状で酷い事をするが、なんとも思わず。愉悦のみで生きる貴族達をのさばらせて行く訳にはいかないと。そんな話なんだと、リガル自身は思っていた。


「そんな簡単な話、じゃあないんだろうな」


 自分の無能さを呪ったような声音が、外に漏れるなり。袖がクイクイと引っ張られた。


「どうした、ですか?」


 心配そうに見上げるアルルを見て、リガルは作り笑いを浮かべた。同時に後悔さへ覚える。いつだってそうだ。一番早く彼女は気が付き、声をかけてくれる。


「いや──」


「嘘、です。リガにぃは、本当に困ってる時、苦しんでる時、はいつも笑う、です」


 思わず立ち止まり、リガルはアルルを眺めた。背丈は変わらずも、彼女の成長を感じたのだ。出会った当初は、あんなに臆病だったのに。今や、護られているのはどちらなのだろう。いつの間にか、逞しく優しい女の子にアルルはなっていた。あの、奇々怪々な形に豹変した人間と戦っている時も、だ。彼女の加勢が会ったからこそ、勝機が見えたのも事実。


 それに比べて、自分自身は何か変わったのだろうか。いや、何も昔から変わっていない。


「はは。ごめんな、アルル。俺は弱いままだ」


 しゃがみ、目線を合わせてリガルが言うと、頭には優しい衝撃が走る。


「リガにぃは、弱くない、です」と、アルルはリガルの頭を撫でた。優しく、ゆっくり。それは撫でらているリガルがわかる程に、感情が篭っているものだった。


「アルを助けてくれた時から、リガにぃは優しくて強くて。いつも、力ない人を守ってくれてる、ですよ?」


 リガルはまさか、自分よりも幼き女の子に慰められるとは思っていなかった。だが、それ以上に、内から込み上げるこの感情はなんなのだろうか。


 ──泣きそうだ。


 悲しいだとか、悔しいだとか、嬉しいだとか。よく分からなかった。けれど、リガルの目頭は熱くなり、唇は震える。


「ありがとう」


 これ以上の言葉は言えなかった。言えば、涙が零れ落ちそうで。


「はい、です。リガにぃ?」


 頭に乗せていた手で、アルルはリガルの手を握る。少し暖かく。とても優しい温もりを感じて、俯いたままリガルは「なんだ?」と応えた。


「いつも、ありがとう、です。変わらなくてもいい、ですよ?リガにぃが思うように、今まで通り動けばいい、です」


「今まで通り、自分がすべき事──か」


 アルルの言葉を聞いて、リガルの感情は凪いでいく。


「そう、だよな」


 立ち上がるなり、鼻を啜る。そして次はアルルの頭にリガルが手を乗せた。


「ありがとうな、アルル。分からないなら、分からないなりに行動すればいいんだ。ただ言葉を聞かされるのを待つのではなく。自ら動いて耳を傾けに行くんだ」


「はい、です! アルも、手伝う、です!」


「それは、頼もしいな。流石だなっ」


 リガルは決めた。自ら民の話を聞き、寄り添い、知識を得る事を。そうすれば、怪談の場でも、遅れをとったとしてもしがみつく事は出来る。


 質疑応答の場は、まだまだ先の長い会議だとジャンヌも言っていた。まだまだ、時間はある。


「任せてください、です!!」


「なら、明日は質疑応答が終わったら一緒に病院に着いてきてくれるか?」


「病院、です?」


「ああ。白魔道士としての役目もあるしな」


 今日は、質疑応答が長引いた為に行けなかったが。リガルは、毎日、病院に通い治癒魔法を施していた。


 今のエーテラには金貨と言う概念は存在しない。故に、人が慈しみ無償の心でご飯を作り、病人を介護し、建物を直している。皆が今、助け合いの中で生活しているのだ。


「やっぱり、リガにぃは優しいです。皆さんの話を聞いて、意見を取り入れるだなんて」


「はは。優しくなんかないさ。でもそうか……民衆の話を聞き入れて取り込む。民主主義……か」


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