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十字架の輝き

これにて、開戦を終わります。読んでいただきありがとうございました。

 リガルが傷だらけのディグを見て抱いた感情は。彼女に対しての怒りでもなく。ディグに対しての哀れみ等でもなく。紛れもなく、それは感謝。故に、リガルの声音は穏やかであり、とても落ち着いていた。


「皆を今まで守ってくれてありがとう。ここまで被害が少なかったのは、ディグがコイツを引き止めていたからだよ」


 死者の魂を送る儀式を行っている最中に何度も訪れたのは、埃が天井から舞う程の地鳴りや轟音だった。戦いの素人でも分かる激戦の匂いを感じ。故に事を終えたリガルは、教会に疲れ果てたアルルを預け、浮遊魔法ヴィチロークで此処に飛んだのだ。


 アルルは、小さい子供を和ませる力があるのか、こじんまり座っているだけにも関わらず、色々と話しかけられていた(アルル自身は、とても辛そうだったが、それでも笑顔は絶やしていなかった)。こうして、皆が頑張っている中で、自分だけ甘えている訳にはいかない。


 自分だけの為ではない。慕ってくれる大切な仲間の為に。そう考えると、体は不思議と軽くなり楽になり、先程まで感じていた手足の痺れは消え去っていた。


「こちらこそ、助けて頂きありがとうございますリガル様。これで私もまだ戦えます」


 ディグは、着地するなり再び剣を手に取り前線へと歩み始める。足にはヒビが入っており、ヨタヨタとしていた。だが、リガルと目を合わせず敵を見据えているのは、闘志を燃やしているのは、意地などでない事はリガルにも理解ができる。


「まて、ディグ。ここからは俺がやる」


 先を行こうとするディグの肩を引き、首を左右に振るった。


「しかし」


「大丈夫だよ。それに、ディグが押される事自体が有り得ない。──付与魔法解除デスペル


 剣先を女性に向け唱えると、白いエフェクトが包み込む。威勢よく吼えていた彼女が、一瞬訪れたであろう急激な脱力感に襲われ、左右を見渡しているのをいい事に会話を続けた。


「後は俺に任せてくれ。魔道部隊が居ないなら……勝てる」


 ディグに向けた熱い眼差し。リガルには秘策があった。確かに剣技においても戦術においても、ディグには一歩も二歩も及ばない。だが、リガルの本職は白魔道士だ。応用ならいくらでもきく。


「だが、それならこのディグがミネルバを」


「それ以上は俺の面目が立たないし、何より誰が稽古してくれたんだよ。少しは俺を信じろ」


「……」


 肩に乗せた手で数回叩いて、軽く笑顔を浮かべた。


「大丈夫だって。だから、さ? ディグは、ジャンヌ達と合流してくれ」


 リガルの声に沈黙を選択したディグに対し、大きく息を吸い、ゆっくり吐いた後に口を開いた。


「──これは命令だ」


「……分かりました。ならば、ご無事で」


「当たり前だっ」


 ディグにも付与魔法解除デスペルを一度唱え、再び加速魔法アクセレレイション等を付与。走り去るディグを目で追った後に、リガルは笑みを浮かべた。


「さて、始めようかね。まずは、暗黙魔法サイレント不可視化魔法レグルド魔力超向上魔法ハイサビトゥリア腕力超向上魔法ハイアウダース


 自身に、アヴァロンで使用した暗黙魔法サイレントを付与し自ら放たれる音を遮断し、不可視化魔法レグルドを使い存在を消す。向上魔法を用いて、限界突破しているディグの能力を更に底上げした。たぎみなぎる力を感じ、自信の宿った深紅の鋭き双眸は、ミネルバを睨み付ける。


「グルゥア?」


 存在そのものが消えたリガルを探す様子を浮かべるミネルバの腕が宙を舞った。鮮血が噴き出し、豪雨のような音を立てる。


「ギュァァア!?」


 何が起こったのか理解が出来ないであろう、ミネルバは傷口を右手で押さえる。


 ──そして。


 触手を使い、周りを激しく攻撃し始めた。当然、不可視化魔法レグルドは、ただ見えなくしているに過ぎない。攻撃が通り抜ける事は万に一つとないが、そんな事は関係がなかった。


 なにせ、リガルは先程の場所から一歩足りとも動いていない。剣も不可視化になっている状況と、魔力を練らずに発動できるのを利用した重ね技だ。


 閃光の一閃(デルタ・レイ)を発動し、同時に不可視化魔法レグルド暗黙魔法サイレントを付与。無音の攻撃が容赦なくミネルバを襲った。白魔道士や黒魔道士が敵に居たのなら、使えはしないものだろうがこの場合は効果覿面だ。


「さて、ミネルバ。お前の断末魔を以て、この戦いを終わらせよう」


 彼女を囲うように光の壁(パリエース)を発動。箱に囚われ、逃げ場をなくしたミネルバは訳も分からず暴れ回っていた。リガルは、そんな哀れな彼女に一切の慈悲を見せず切っ先を天に掲げる。


聖十字の断罪(グランド・クロス)


 闇を裂き、天から穿たれた光のくいは、燦然足る十字架を成し、神々しさを知らしめる。だが、聖十字の断罪(グランド・クロス)に慈悲は無く、ただただ、無慈悲に無情に対象者の身を聖火で焦がす。


「ギュァァア!!」


 焼き爛れる悪臭も、熱波もなく。すべては、無に帰するのだ。

 ミネルバが放つ事の赦された言葉は、ほんの一瞬のみだった。たった数秒の叫びの後、光が天へ戻った頃には身は燃え朽ち、彼女が居た場所には紫色をした魔石のみが残っていた。


「ふう」


 魔石を手に取ったリガルが、自身に付与魔法解除デスペルを唱え、ジャンヌ達の元に戻るなり迎えたのは、歓喜や悲痛の叫びだった。


「流石は、リガル様。たった数十分で勝敗を喫するとは」


「正にあの輝きは、天の煌めきだった……」


「ミネルバ、団長……」


「まさか、イグムッドが我等の騎士団にまで悪事を働いていたとは……」


「この世の正義とは、真実とは、一体」


「俺達はこれからどうすれば」


 そんな中、ジャンヌはリガルにとある事を名案する。


「リガちゃん。一つ、試したい事があるのだけれど」


「試す?」


「そう。この、人間に埋め込まれた魔石を転生させる事が出来るか──否か」

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