過失・後編
読んでいただきたいありがとうございます。いよいよ、中央領土戦は最終追い込みです!!
「感謝するわ。私の名前はジャンヌ。信頼──」
「俺の名前は、ビーズ。いいや。貴殿達を信頼しきったのではない。今はただ、現状を変える為、話にのっただけの事」
ビーズは、こちらにも意地があり、立場がある事もあるのだとアピールをする。彼らの下につくのではなく、対等である事を知らしめるために。
「そう。まあ、私はこれより、長い詠唱にはいるわ。三時間程かけて魔力を高める私の第四異魔法なのだけれど──」
「第四?」
ビーズが問うと、ジャンヌは平野の地に杖を刺し、言った。
「ええ。嘗ての私。つまり、生前のジャンヌが扱っていた魔法よ」
「生前?まるで、前世があったような言い方だな」
「ふふふ」
「何がおかしい?」
「いいえ。世界とは不思議ね」
表情は一切崩さず(骸骨の為)。だが、声が踊るジャンヌの姿を見て不思議な感覚を覚えるビーズが、脳裏に引っかかったのはジャンヌと言う名前だった。
「まさかな」と、小声と共に憶測を振り払い。改めて、問い直す。
「貴殿達の話は追追聞くとして……我々は何をすればいいんだ?」
「簡単よ。私達の仲間が、彼女を引き付ける。その間に負傷者の救出をしてちょうだい」
「……なんだって?」
耳を疑った。宣戦布告してきた筈の敵が、自ら危険を犯そうとしているのだ。その言葉を聞いて、未だ拭えぬ貴族としての意地が恥ずかしく、ビーズは口の端を噛み締めた。
「彼女の猛威を跳ね除け、猛攻を凌ぐ程の力は貴方達にはないわ。いいかしら、ビーちゃん」
「びーちゃ?」
聞き慣れない言葉を繰返すと、イザクが申し訳なさそうな様子で口を開いた。
「気にしないでくれ、彼女なりの親しみなんだ」
「そうな、のか? えっと、それでジャンヌ殿。話を続けて欲しい」
「ええ。彼女は、貴方達より遥かに強いわ」
「何故言いき──いいや、そうだろうな」と、目の前の戦況をみて、ビーズはそっと腑に落ちる。死んだ事が幻覚だったとしても、少数精鋭により圧倒的な実力差を見せつけられたのには間違いがない。
浅い笑いを浮かべ──
そして、背後にてビーズの命令を待つ騎士達(偽兵糧にいた全てではない)を振り返り視界に入れて続けて声を放つ。
「だが、我々とて街を国を守る騎士だ。守られっぱなしって訳にはいかない」
「あら、身を案じてくれるの? 優しい騎士様ね。大丈夫よ、安心して頂戴」
その直後、ジャンヌから唯ならぬオーラを感じ見てみれば背に丸く黒い球体が浮かび上がっていた。宙に浮かび、ゆっくり上下するそれは、光すらも呑み込む深い深い闇だ。
「適材適所よ、適材適所っ」
「しかし……」
短く頷くビーズの心境は、複雑なものであった。と言うのも、後ろから聞こえる台風に翻弄される木々の如くざわめきが、騒がしさを増し始めているからだ。
当然だろう。全員が全員、目の前に立つジャンヌを信用している筈がない。寧ろ大半以上は疑心の念を浮かべているだろう。ビーズ本人ですら、未だに不安を拭えずにいた。
「安心して頂戴な。なにも、隙を見て殺そうだとか、事を終えた瞬間に、襲うとかしないわ」
「なぜ言いきれる?」
「それを我が主が望まないからよ。さて──彼女の引き付け役は誰がいいかしら。私達は所詮、魔族。可能性に満ちた人の子よりも限界は低い場所にあるのだから」
「安心してくれ。その任は、このディグが引き受けよう」
後方から、力強くも凛とし泊のある声が轟いた。その声は、漂う不穏や不安を切り裂く。英雄的資質を本能的に悟り、ビーズの心には緊張感が走る。
──いや、先程までざわめいていた騎士達が凪いだのだ。彼らもまた、何かを感じたに違いない。
耳をピクリと動かしたビーズが、ゆっくりとミネルバから目を逸らし後ろを振り向いた。目を細め、騎士達が左右に分かれ作る道を見てみれば、身長が二メートルはあるであろうナイトリッチが毅然な態度で歩んでいる。
精錬された、一切の隙も無駄もない動き。足音一つで場をヒリつかせる覇気。ビーズは、ただただ生唾を飲み込み、彼の歩みを目で追い続けた。




