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英雄の一端

読んでいただき、ありがとうございます!

「戦うってお前──ッ。教会は?」


「見つけた、です! それより今は!!」


 アルルが前屈みになったと思えば、ナニカが立ち上がり特攻。アルルは、両手を軸に細い足で蹴り上げた。顎へクリーンヒットしたナニカは、再び弧を描き後方へ吹き飛ぶ。


 ──なぜ予測出来るのか。判断が先に出来るのか。


 訊ねようと肩を叩こうとするが、振り返ったアルルを見て少し納得をした。


獣の王(バシレウス)を発動したのか?」


「はい、です」


 アルルの顔には、黒い模様が浮かび上がり。牙や目にいつもの優しさはない。鋭い刃の如く尖り、爪もまた切れ味が良さそうだ。


 ──獣の王(バシレウス)


 これは、リガルが剣術に磨きをかけている時に、アルルが習得した力である。限界突破レボルシオンをし、力等が鍛え上げられたからこそ可能になったとも言えるのかもしれない。


 よって、最高潮に研ぎ澄まされた第六感はもはや、悟りの境地といっても過言ではない。この時に限っては、数キロ先の微かな音すら、アルルの大きくフサフサな耳は捉える。


 能力で言うならば、スピードは音を置き去りにし、打撃は岩を粉砕し咆哮は雲を割く程だ。


 ただ一つ、デメリットがあるとするならば消費する体力も多大。持って、数分程度しかない。


 頷くアルルの頭を撫で、額から垂れる血を拭う。


「なら早くケリをつけなくちゃならねぇな」


 砂煙まう先を睨み、剣を斜に構える。


「はい、です。ジャンヌネェやラウニィ達の場所もどうやら……」


「そりゃ、そうなるか。だが、アイツらなら大丈夫だ。俺よりも強いんだから」


 自分に言い聞かせ、目を細め気合いを入れる。


 これは一対一ではない。ならば、戦い方もガラッと変えることが可能だ。リガルは、脳内でなん通りもの策を練り、有力候補を導き出す。


「ジャンヌやイザクの様にはいかないが……」


 “アルル”と、名を呼んだ後に作戦の概要を説明する。内容は至ってシンプルだ。


 相手をアルルのスピードを以て撹乱し、地上ではなく空で決着を付ける。アルルの役割は初手のみ。


 理解をし、頷いた小さき獣の少女は──


「じゃあ、行ってくる、です」と、言葉を残し特攻を仕掛ける。


「グリュィア! リュア! ガガガ!!」


 ナニカの絶叫が空気をふるわせる中で、アルルのスピードは加速魔法アクセレレイションも合わさり、目にも止まらないものとなっていた。


 当然リガルの瞳になんか収まるはずもない。ただ──人影などはない状況下で、瓦礫が踏まれる音がし、数秒後に吹き付ける強い風で、アルルが作戦中だと言うのが理解出来た。


 ──そして、その時は訪れる。


「りがにぃ!! 今、です!」


 砂煙が止み、目の前にいるのはアルルのみ。生唾を呑み、リガルは精一杯の気合いを乗せた声をあげる。


「おう!」


 座り込むアルルを見て頷き、足に力を込めて一気に飛翔した。


「アルルがくれた、このチャンスを俺が活かす!」


 斜に構えた剣は、再び極光を纏った。

 高まった魔力が次元を屈折させ、当たりが歪む。


 ──だが。


 リガルが合技を放とうとした数秒前。射程に入ったナニカの体に異変が起こったのだ。


「オマエタチギョロズズ!!」


 背に生えた触手がナニカを包み、赤き月、もしくは繭の形を成した。唯ならぬ感じを覚えたリガルは、更に加速する。


「そうはさせるか!!」


 刃から放たれる魔力は、形を留めず燃ゆる炎が如く揺らめき踊る。リガルは、言葉に意を乗せ大声で言い放つ。


「ゼロ距離から、穿つ!! 英雄の一端(サルウァトル)!!」


 同時に斜に構えた剣を一気に振り上げた。極光は刃の如く、物体を両断する鋭さを以て、繭をゆうに呑み込み天高らかに光線を描き伸び続ける。


 これは、ディグの技・英雄の一振(アルゴノーツ)を真似た技であり、オリジナルの合技。地上では損害が大きいため使えないが、空ならば問題は無い(以前、海に向かって放った事があり、その際、海は二つに裂けた)。


 光は粒子となり、さながら雪のように。もしくは鱗粉のような煌めきをもって、地上に舞い散る。幻想的な空間が包む中で、それでもリガルの表情には余裕が一切なかった。


 ──何故なら。


「触手が消えただけ……だと?」


 膝を抱え、ゆっくりと下へ落ちるナニカはダメージが全く通ってないのか見るからに無傷だ。


 これは至急、第二撃を行う必要がある。けれど、腕力的に劣るリガルにとって今の一撃は負荷が相当なものだった。


 英雄の一端(サルウァトル)は、魔力に形を持たせる事から始まる。つまり握っている剣を魔力によって巨大化させるイメージだろうか。それを振り上げ放出するのは、肉体的に相当なもの。


 痺れる腕がピクリと動き、リガルが歯を食いしばった時、口から零れたのは虚を衝かれ出た間抜けな声だった。


「──は?」


「すまんな。美味しい所をとってしまったようだ」


 集合思念体がナニカの首を抉り飛ばし、鮮血が家の屋根を激しく叩く。


「いや……助かったよ」


 ほんとうに助かった。多分ではあるが、ナニカは進化をしようとしていたのだろう。だが、リガルが放った合技により不十分に終わった。


 もし間に合わず、形態を変えていたとしたら──


 想像するだけで身の毛もよだつ。


「なら良かった。急ぎましょう? 教会には避難民達がいるのだろ。気配を探っていたが、ここら辺にヤツと同じ気配はないわ」


「そうか。それなら良かったが……アイツらは上手くやっているのだろうか」


「大丈夫にきまっておる。あヤツらは強い。あ、そうだ。貴方、これを一応持っていきさない。御首みしるしみたいなものだぜ」と、言うと集合思念体は鋭利な爪で触手を切り飛ばしリガルへ渡す。


「これで何を?」


「多分だが──これがジャンヌの望んでいた本当の策略なんじゃないかね?」


「策略──?」


「うむ」


 鋭い牙を薄ら覗かし、会話を続ける。


「そこら辺は、教会にいけばわかるはずだよん」


「そう、だよな。まずは教会へ急ごう!!」




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