力の差
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「──人、ではないのか?」
両手をダラけさせ、脱力した人型のナニカの容姿は、リガルが見た事のない異形を成していた。
背中からは、さながら天使の羽が如く花びらの様な赤い触手が二対(左二枚、右二枚)生えている。
左右不対称のそれは、彼とは別の意思を持っているのか、一向に動かない彼とは反し蠢いていた。
リガルは、剣の柄をしっかりと握り直し、全神経を研ぎ澄ます。
全身血だらけの彼は小柄だ。人間で例えるなら、一〇歳に満たないだろう。体つきだって逞しくはない。どちらかと言えば、肋骨や膝の皿が浮き出していて、貧弱だと言うイメージだ。
強風が吹けば、進む事すら困難を強いられるような体型。
だが、だが──なんだろうか。
「嫌な感じが拭えねぇ」
息をのむ。鼓動が鼓膜を満たし、肩が上下にゆっくり数十回動いた頃──
だらけた腕から伸びる細い指が、ピクリと動いたのをリガルは見逃さなかった。
──来る。
リガルはもう一度、剣に魔力を集中させた。それは、剣身が可視化された魔力により見えなくなる程に強大だ。
服や髪が荒れ踊り、瓦礫は宙へ浮く。
そして、リガルの目と白目が一切ない真っ黒い瞳の視線が交わった刹那──
「グルァァァァァァ!!」
獣の咆哮と例えるならば、あまりにも甲高く。天使の歌声と例えるならば、あまりにも鈍く穢らしい。
恐ろしく禍々しくドス黒い鳴き声のような絶叫は、リガルの鼓膜に耳鳴りを残す。
絶叫一つで、辺り一体の瓦礫が爆風に見舞われたかのように吹き飛び、容赦なくリガルの体にも襲いかかった。
堪らず目を眇め、それでも彼を見逃しはしないと凝らし直したが──
「居なっ?!」
既に目の前に彼の姿はなく──
「ガバッ……!!」
硬い鈍器で殴られるような衝撃が背中を襲った。吹き飛びながら、体を回転させ剣を地面に突き刺し速度を軽減させる。
ガリガリと地面が切れる音が砂煙と共に響き、止まったと思えば──
「ガルァァァァァァ!!」
眼前に迫る恐ろしい形相。彼は体を反転させ、遠心力を活かし背中の触手でリガルに追い討ちをかける。
「ちぃ!!」と、剣を盾にし防ぐが意味をなさず、リガルは壁に再び叩きつけられた。
この時、リガルは悟る。近接戦において、彼は自分以上である、と。いくら剣術を磨き、魔法と掛け合わせた所で──例え力で勝っていたとしても、スピードや直感の働き方に差があり過ぎるのだ。
だが、負ける訳にはいかない。
「閃光の一閃」
砂煙を裂き、極光の剣戟がナニカを襲う。遅れて聞こえた崩壊音は、家屋が両断され崩れ落ちたものだ。
「こんなんで死ぬはずねぇよな」
絶叫は途切れたが、手応えがまるっきりない。
気がつけば額から血が頬を伝っていた。
間違いなく今まで戦ってきた中で最強であり、これが何体も存在し囲まれたら、等と考えれば、背中から嫌な汗が滲む。
「グルァァァ!」
「やっぱ、生きていたかッ」
左の触手が一枚斬られていたが、彼は健全だ。紙一重で交わしたのだろう。
「んな、何回も殴られてられっかよ! 光の壁」
リガルは目の前に防御壁を展開。これは物理攻撃に対して有効な妨害魔法だ。白魔道士が居るならば、付与魔法解除を用いて消し去れるだろう。
だが、彼にそれは見込めない。つまり、少しの時間稼ぎにはなる。この間にリガルは、的確な作戦を練れば良いだけだ。
そんな事とは梅雨知らず、猛獣の如く特攻するナニカに向けて笑みを零した時──リガルの顔は無意識に天を仰いだ。
「おいおい……」
ナニカは、空転し触手をバネとし天高らかに跳躍をしたのだ。光の壁は無限に伸びる壁ではない。高さにだって限界がある。彼がもし、その高さを超えたとしたのなら──
リガルはディグに教わったように、剣を天の構えにし迎え撃つ姿勢をとる。
しかし、次にリガルが視界や耳にに収めたものは、地面に叩きつけられたナニカだった。
──そして。
「アルも、戦える、です! リガにぃと一緒なら、負けない、です!」
空から降りて来たのは、決意に満ちた声音を宿したアルルだった。




