混乱
話を差し込みました。少しでも緊張感を演出出来ていれば幸いです
季節外れの雪にしては、冷たさもなく。火山灰にしては、美しすぎる。そんな不可解で奇妙な粉を見て、騎士たちは顔を仰いだ。
──否。
空を覆う魔族を一同は顔を仰ぎ見た。
一〇〇を超えているであろう昆虫種が、陽を遮り大地に影を伸ばす。広大な平野には、ひんやりとした空気が流れ込んでいた。それは陽を遮られている為か、恐れ血の気が引いている為か──
最中、上空で爆発音が轟く。
「駄目だ! 何故、有効なはずの火属性の魔法が効かない!?」
「もう一度だ! もう一度放て!!」
「おらあああ!!」
重盾歩兵に護られた魔道部隊が、赤いエフェクトを纏い、昆虫種目掛けて火玉や火炎渦を放つが、一体も大地に落ちる事はなかった。
「こいつら、一体なんなんだよ!!」
次第に騎士達は、強大な敵を目の前に声を震わせ始める。
──刹那。
重盾歩兵に囲まれていた魔道部隊の一人が絶叫を上げた。
「グァァア!!」
苦痛に満ちた声は、命の終わりを連想させるに至り、皆がその聞くに耐えない絶叫に反応を示した。
「なんだ!?」
「お前ら、敵……だ」
背後から胸を剣で貫かれた魔道部隊の一人。彼は、口の端から血を滴らせつつも、振り返り虚ろな目で犯人を写した。
「な……ぜ、お前は……仲……」
「何やってんだお前!! コイツを取り押さえろ!」
魔道部隊を殺した騎士を取り押さえたと思えば、真隣の騎士が声を荒らげる。
「バカ! 余所見するな! 上から来るぞ!」
「──え?」
空気が抜けたような声が短く漏れ──
「クガガキカカキキ!!」
一瞬の出来事だった。まるで狙いを定めていたかのような。あるいは、こうなる事を予想していたかのような、昆虫種の迅速で的確な行動に騎士達の反応は遅れをみせる。
「くっ! 攫われた!! 何がどーなってやがんなだよ!!」
声だけが反射的に喉から放たれるが、騎士の手は攫われた騎士を追うことなく、盾を構えたままだ。
遥か上空から赤い雨が降り注ぐ。
──バコン。
その音は、雨が降り止み数秒後に鳴った陥没音だった。砂煙が舞い上がった先にあるものは、見るも無残な攫われた騎士の屍。
陣形が崩れるのに時間はかからなかった。
兵糧庫全体に響き渡る卒倒の悲鳴。
「うあああ!!」
「くそが! 俺は死んでたまるか!」
「火玉! 火玉!!ファイヤーぎゃぁあ!」
「また仲間討ちが!? 俺達には魔法反射が施されているはずだぞ?! 幻覚魔法などかかるはずは。手当が間に合う者は回復薬を!」
仲間が仲間を殺し、昆虫種が強靭な顎や脚を使いころし仲間を喰らう。
「おいおい、こりゃあまずいぞ」
「グヒュッ……」
騎士は襲ってきた仲間の首を切り裂き、血糊を払いながら辺りを見渡す。
「あれは」
岩陰で身をうずめる一人の魔道部隊に気が付き、走り駆け寄る。
「お前、確か伝令役だな?」
「ひぃ!!」
騎士の顔はもはや、凛々しさも逞しさもない。全てに絶望し、奪われた死者の顔だ。だが、同情している暇もない。
「気をしっかりもて!!」
肩を揺すり、辺りで響く喧騒に負けない程に声を荒らげた。
「よし、大丈夫だな」
虚ろな瞳に光が宿った事を確認し、騎士は伝令役に伝える。
「ガラック卿に、作戦は成功した事。あと、団長に至急救援の要請を」
「は、はい!」
浮遊魔法で飛び去ったのを見送った騎士は、立ち上がる。
「貴様は何者だ!」
「なんだ?」
声の方角を向けば、三人の騎士が一人の男性と対峙していた。




