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賽は投げられた

読んでいただきありがとうございます

「だが、貴様達はなぜ無傷なんだ?」


 間合いを取り、いつでも回避や攻撃ができる位置を陣取り且つ動きながら保つ。


 ──大丈夫だ。恐れる事は何もない。


 接近戦に持ち込めば、前衛職が優勢。加えて。ミネルバには、魔道部隊から付与された強化魔法がある。つまり今は隙を作り出すことに徹するが吉の筈だ。


 無闇に接近し付与魔法解除デスペルを受けてしまえば、素早さ等が軒並み低下してしてしまう。


「簡単な事よ。水や氷の魔法には、高熱の魔法をぶつけただけに過ぎない」と、ジャンヌは、ミネルバの思考を悟ってか悟らずか、警戒する素振り一つ見せず明るい声で応えた。


「相殺ではなく、自ら爆発を起こしたって事か?」


「そうね。お陰で、十分な目くらましになったでしょ?さあ、それよりも敗北を認めてくれないかしら」


 両手を仰ぎ、余裕なさまを魅せるジャンヌを目の前に瞳だけを動かせば、嗅覚や聴覚視覚。ありとあらゆる感覚が多大な情報量を脳内に送り込む。


 そのどれもこれもが優勢と言うなの希望的なものではなく、劣勢を伝えた。


「何故、仲間同士が互いに刃を──それに、あのナイトリッチ達はなんなんだ……」


「くそが! なんで俺の攻撃が受け流される!? 加速魔法アクセレレイションでスピードの乗った技だぞ!」


「ぐぁぁあ!!」


「気持ちで負けるな! 量では圧倒的に我らが有……りぃぎゃっ──」


 鎧を纏えば結構な重さになる騎士を軽々投げ飛ばし、的確に喉を切り裂く。無駄な動きを見せないそれは、洗礼され磨かれた剣技そのものだ。


 まるで、剣が意志を持っているかのような滑らかな動きは、ミネルバが知るナイトリッチが繰り出せるようなものではない。


「何故……なぜだ。何故、肉体強化をしている仲間達が」


「簡単な事よ。一が二になる事は出来ても一が二に勝ることはないだけのこと」


 杖を中に浮かせ、ジャンヌは感情一つ篭っていない平坦な声で言い放つ。


「何を言うかと思えば──つまり、私達が一で貴様達が二だと言いたいのか?」


 魔族に馬鹿にされるとは思ってもいなかった。確かに今は混乱をしており、隊列に乱れが生じている。だが、それもミネルバ自身の武功で全てが変わるのだ。


 そう、目の前に佇む不気味な魔族であるジャンヌを打ち果たせば。


 ミネルバは軸足の踵を持ち上げ、刃を天に向ける。息を大きく吸い込み、ゆっくり吐き出し、柄を握る手には確固たる正義の意志を乗せて強く握った。


 蒸気が吹き出すような音が口の端から零れ、いつしか周りの絶叫も馬の悲鳴も消え去る。


 研ぎ澄まされた集中力に、統一された精神。今まさにミネルバは、無我の境地に至ったのだ。


「我が絶刀ぜっとうを以て、眼前聳える邪を切り伏せる」


 鍛錬された武力が覇気となりうちから外へと吐き出される。むぞうさに揺らめく髪に、ミネルバの周りは激しく荒ぶ。


残光連撃ざんこうれんげき──壱の型……」


 鋭くとがった双眸にジャンヌを写し、ミネルバは口ずさむ。


時雨しぐれ


 激しい陥没音と共にミネルバは、ジャンヌに向かって飛びかかる。この絶刀は、一呼吸の内に四回の突きを繰り出す絶技だ。鍛え抜かれた肉体と、研鑽を積んだ剣技があってこそ可能とした、ミネルバ独自の固有技。これだけをとって考えるのではあれば、ワールド・トリガーに一歩及ばずも、間違いなく最強クラスには入り込む型だ。


「やれやれ。威勢が良いのは好きだけれど……死を早める必要はないのよ?悠久を忘れた時間(ロスト・クロノス)




 ジャンヌにとっては、この女騎士が誰だとかは関係がなかった。ただ単に、我が主君であるリガルの邪魔になりうる可能性があったので立ちはだかったに過ぎない。


「確かに、接近戦では私が不利ね」


 ジャンヌは、踏み込んだ状態のまま制止する女に近づいては嗜むように見つめる。


「しかし、私は魔道士よ。動きを止める事なんか造作もないの」


 剣を手から離し投げ捨てる。


 悠久を忘れた時間(ロスト・クロノス)は、対象者の動きを止める魔法。止めておける時間は、個々の魔力量に依存するのだがジャンヌぐらいになれば人一人程度であるなら、二日は時間を止めておける。


 魔法の妨害をされないためにも、先に魔法部隊を排除したのだ。ここまではジャンヌ達の目論見通りにことが進んでいる。


「まあ、貴女が騎士団長であるのは間違いがないのだろうから──私には貴女を殺せないわ。暫く、時を忘れてさ迷っていて頂戴な。その間に、私はここ一帯の戦力をそぐとしましょう。──来る時がくるまでね?」と、ジャンヌが両手を仰ぎ魔力を高めている数分前──


 敵を撹乱するために用意した偽兵糧場上空では、隊列を組んだ昆虫種が羽音を立てて飛び回っていた。


「な、なんだ? この異様な光景は……」


「弓兵! 奴らを撃ち落とせ!」


「この雪みたいな粉は……昆虫種からか?」


 目の前にいる騎士が、雪を受け止めるように両手で器をつくると、そこには少し煌めきを帯びた粉が募っていた。

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