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決戦前夜

 ──決戦前夜。

 リガルを含めた代表格は、地図が広げられた机を囲うように立っていた。この半年間、長いようで短かった六ヶ月と言う期間の中。ジャンヌを筆頭に、様々な策が練られ各々が周到な準備を行っていた。


 この間、何故この島──グローリーが敵に見つからなかったかと言えば、少し違う。ただ単に、敵が落とし終えた島。つまり、ワールドトリガーが獣人を殲滅し、大量の魔石を放った悪魔の巣窟が故に疑われなかったのだ、とジャンヌはリガルに告げていた。


 誰もが、リガルに魔を従える力があるとは思ってもいない。分かるはずもない。何故なら、リガルは人間だからだ。


「各々、自分の持ち場は把握しているわね?」


 ジャンヌの別段緊張もしていない落ち着いた声が、ひりついた空間を切裂く。


「オレは昆虫種を使っての錯乱、陽動だね?」


 イザクが答えるとジャンヌもまた、頷いて応えた。


「ええそうよ。彼等はダミーの兵糧場をいくつも設けているわ。そしてそこには注意を引く為に騎士が密集している」


「そこに上空から昆虫種の幻惑を呼び起こす鱗粉(昆虫種が限界突破レボルシオンにて取得した固有スキル)を巻くわけだね?」


「ええ。つまり、貴方が一番私達の部隊で目立つ立ち位置。その分危険は付き物よ」


 イザクはジャンヌの憂いを胸を叩き弾き飛ばす。


「任せてよ。なんの為に飛行訓練したと思ってるのさ」


 敵側に魔術師が居ることを把握出来た為、リガル達が攻めるにあたって不可視化魔法レグルド等の付与はいっさいない。ここで必要となるのは、徹底された高度なチームワークである。


 イザクの場合は、昆虫種と共に空を舞い各兵糧場(偽)を潰し、密集している騎士達を魔法を使わずに錯乱させる。


 数少ない人数で大群を叩くには援軍が必須。もしくは、謀反をおかしてくれる敵なのだが、まず有り得ないだろう。よって、無理やりに敵同士で戦わせる必要があるのだ。


「そうね。彼等は森から私達が姿を見せると思っている。乗り込むのに苦労はしないはず。だからこそ、迅速な行動が必須よ」


 みなが頷く。


「俺は兵糧を叩くのだな?」


 ラウンズの厳しい声に耳がピクリと動いた。揺蕩う覇気を全身に纏う彼をリガルは見つめる。


「ええ、そうよ。西の国境にある森林がラウちゃんが目的とするべき場所ね。彼等は開拓し、兵糧場を設けたわ。そして、魔法を用いてカモフラージュしている」


「小癪な真似をしよるではないか」


「だが、よく練られた戦略ではあるよね」


 イザクの賞賛にリガルも納得した。と言うのも、地図に並べられた小石(軍隊)は、全くの隙がないのだ。素人であるリガルでも分かるそれは正に難攻不落。

 大軍、つまり数にものを言わせた物流戦ではないのが何となくだが理解ができるのだ。流石は騎士と認めざるを得ない。


「そうね。ただ一つの欠点。そして最大且つ最重の盲点を上げるのならば、私たちの存在を全く知らないという事」


「──で、あるな」


「私の担当は、空戦部隊の親を撃滅──及び空戦部隊の壊滅ね」


 空戦部隊は主に魔法を主軸とした部隊で構成されている事が分かっている。彼らが伝令等を担っている事もだ。つまり、彼等を倒せば、誤情報が流れ始め巨体は瞬く間に倒れ落ちる。


「俺は──エーテラにて領主であるイグムットの首を取る事」


「そうよ。本来ならば、ディちゃんを護衛に任せたかったのだけれど」


「申し訳ありません、リガル様」


 ディグの謝罪を聞いたリガルは、首を左右に振るった。


「謝る事ない。ディグにはディグの成すべきがあるのだから」


 ディグは、東の境に陣取る部隊を相手にしなければならない。

 よって、エーテラに乗り込むのはリガルとアルル。そして、アルルを守るファイヤースライムと集合思念体のみ。その為にも、ジャンヌの素早い空戦部隊壊滅が鍵となってくるのだ。


 エーテラに侵入したと知られれば、大軍が間違いなくリガルを取り囲む。ただでさえ、街の中にも騎士は蠢いているのだ。これ以上の負担は作戦の失敗を引き起こしかねない。


「アルが……りがにぃ、守るです!」


 両手で握り拳をつくり、アルルは声を震わせる事無く恥じることなく堂々と言ってのけた。

 しかし、それが強がりであり、演技だと言うのをリガルは瞳に写して分かってしまう。


 膝は笑い、手は硬直していた。


 それでも、リガルに迷惑をかけまいと。そばにいて守りたいと。そんなアルルの優しさが今のアルルを演出してしまっているのだろう。


 リガルは、隣に立つアルルの頭に優しく手を載せて数回撫でた。


「なら俺はアルルを守るから。信頼しているぞ」


「はい、です!」


「リガル様。安心してください。今の貴方は、間違いなく前衛職相手にも負けず劣らない技術を有しています」


「ええ。ディグの言う通りですよ、我が主よ。貴方様は今、白魔道士でもなく剣士でもない。魔法剣士として、新たな希望を、奇跡を起こしたのですから」


 ラウンズの言葉を聞いたリガルは、腰にぶら下げた剣の柄を強く握り頷いた。


「ありがとう。これもみんなのおかげだ」


「ふふ。素直な主君ね。さあ、本番は明日。──勝つわよ」


「当然だ」


「だね」


「任せて頂こう」


「頑張る、です」


「俺は留守番だもんなあ」


「みな、必ず生きて再会しよう」


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