開幕
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時は移ろい、半年が過ぎた。今この場には幾万の騎士達が集っている。そして、今日がリガル=アルフレッドが領地を攻めると声明した日にちだ。
「とうとう始まるのか」
「ああ。今正に団結の力を見せる時だ」
騎士達が各々の心情を吐露する中で、先頭で一本にゆった髪を靡かせ「聞け! 我が同胞達よ!!」
ミネルバの決意に満ちた、毅然たる声が澄み渡った大空に轟く。
その声は人を臆させるには優しすぎ、だが人を奮い立たせるには、十分過ぎるほどの英傑さを持っていた。
「「おお!!」」
鎧を軋ませ、皆が己が命の分身である武器を天高らかに掲げる。眩い太陽の日差しを照り返す鋭き刃は、さながら鋼の絨毯だ。
騎士達の咆哮は空気を震わせ、足踏みは大地を揺らす。それに驚いた馬達もまた甲高い鳴き声で応えた。
大軍を背に騎乗しているミネルバは、彼らの声を聞き届けるなり鞘から剣を走らせ切っ先を天に掲げる。
「騎士とは! 己が決意を刃に宿し、背を振り返らず未知なる道を切り開く先駆けとなる者である!!」
「「おお!!」」
「王が歩むべき道の前に立ち! 民が道に迷わぬように光を灯す。我らの役目はこの世に正しき日輪が如く篝火を宿すことだ!」
「「おお!!」」
「そして今日、この国に暗澹を齎さんとする害悪──リガル=アルフレッドを討ち果たす! 我らの強さを、奴に叩き込んでやるんだ!」
「「おお!!」」
「死を恐れるな! お前らは永遠に死にはしない! ここに居る誰かがお前達を忘れぬ限り永久に生き続けるのだ! さあ!我らが背にいる民を守る為、いざや行こう! 最果ての楽園へ!」
ミネルバが陣取っているのは、中央都市・エーテラ近辺である。領主であるイグムットや民達(ファルル等の街からも避難に来ている)がいる故に、騎士は三〇〇〇〇人。責任重大な立ち位置である。
アディル・ガラック・ナターシャ達も、隊長角として各隊のまとめに務めているはずだ。
「──やれやれ。儂らもいっちょ気合いを入れるかねぇ」
西の領地の境に陣取るガラックは耳をほじり、表面上では落ち着きをみせていた。だが、内面にて燻るのは、灼熱にも勝る滾り。
「ガラック卿は、その──」と、馬に跨る騎兵隊の一人が、不安げな様子を全面に押し出して口にした。
「なんじゃ~?」
凡そ、彼が何を問いたいのかは察しが付いていた。きっと安心と自信を求めているのだろう。容姿を見るからにまだまだ若い。騎士は死を誉れだと教わってはいるが、実際恐れぬものは数少ないだろう。
凪いだ風が馬の鬣や、服を優しく撫でる中、騎士は目を合わせ口を開いた。
「不安ではないのですか? 我々が今相手にしようとしているのは、魔族ではなく“人”です。それに、正体も結局知られていないんですよ? 」
騎士の問に、長槍を肩に載せたガラックは気さくな笑みで応える。
「シャッハッハ。相手の事を考えて何になるんじゃ? お前さんは、今まで魔族に何を抱いて戦っていたんじゃよ?」
「それは──」
「容姿か? 特性か? 生きる為の手段か?」
「違います。自分の果たすべき使命の事のみを考えていました」
はっきりと力強く答える騎士を、方目を瞑ったガラックは見つめる。
「それでいいじゃろ。今も昔もなんら変わらんて。お前さんは、お前さんの成すべきを考えておればよい。あとは、鍛え上げた体が応えてくれるじゃろ」と、ガラックは長槍を騎士の顔目掛けて振り回した。
「な、何をするんですか!?」
すると騎士は咄嗟に鞘走らせた剣で受け止める。防御を見届けたガラックは、口角を吊り上げ言った。
「のう?なにも臆する事はない。お前さんらは、間違いなく猛者であり強者であり勇者じゃ。故に儂らは、見せつけねばならんのじゃよ。瞬雷が如く鉄槌を」
ガラックの声に鼓舞されたであろう騎士達は声を張り上げる。ひりついた空間が熱量により凌駕され、立ち込めるは信念の篭った強者による鬨の声。
「儂らの任務は、西の領地から運搬される兵糧の護衛じゃ」
「「はっ!! 必ず任務を遂行いたします!!」」
「皆凄いわね。空にまで轟いているわよ」
上空にて、男達の力強さに賞賛を称えていたのは、魔道部隊隊長のナターシャだ。
「ナターシャ卿」と、空隊へと選ばれた重装歩兵の騎士(伝令役)は、真正面に浮遊するなり口走る。
「なにかしらん?」
「未だ敵影は見当たりません」
「本当にそうかしら?」
笑みを浮かべたナターシャの身を赤いエフェクトが包む。魔力が高まるのを感じ、素早く魔法名を唱えた。
「全てを燃やせ。ファイヤーボール!」
上空へファイヤーボールを放つ。これは信号弾の役割を担っており、刹那各隊に配置されている魔道部隊は、重装歩兵・騎馬隊・重盾歩兵・弓兵へとバフを付与した。瞬く間に、至る所で色彩豊かなエフェクトが光を放つ。
「さあ、もう一度見渡してご覧なさい」
そう言うと、不可視化魔法等を看破する魔法・フィジットを付与された騎士は辺りをもう一度見渡した。
「いや、何も変化は」
「そのようね。だけれど、これで準備万端。さあ、何処からでもいらっしゃい」
ナターシャが、全ての段取りを終え万全を期してから数時間後──
日が傾き始めた頃だった。
「リガルって……人、なのよね?」
目を疑う光景に、ナターシャは疑念の言葉を他の誰でもない。自分自身に向けて告げた。
海上に姿を現したのは、さながら雨雲の如く纏まった魔物達。
「今は焦っても仕方がないわ。さあ、仕事よ!」
「了解しました!」
「直ちに我々が各隊へ伝令を!」
すぐさま、空戦部隊伝令役が各隊隊長の元へと飛び散った。
「──にしても、何かしら……あの異様なまでの統率力は……」




