自分達に出来ること
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「なんてこった。まさか、溶解液をだしやがるなんて」
街頭が照らす闇夜の下。騎士の瞳には、昆虫種によって溶かされた剣が映っていた。イグムットは騎士を見つめたまま、軽い舌うちをして口を開く。
「まったく。昆虫種一匹も殺せんのか」
「申し訳ございません」
他にも何かを言いたげに口を動かすものだから、イグムットは言わせまいと畳み掛けるように毒を吐き捨てた。
「無能の騎士が。いいか? お前達の権利を剥奪するぐらい容易なのだぞ?」
腕を組み、俯く騎士を睨みつける。
「はい……」
「まあ、連れていかれたのはガキ一人なんだろ? そんな餌ぐらいいくらでもくれてやる。ただ勘違いするなよ?お前達が守るのはこの俺だ」
騎士曰く、奴隷の男と子供を戦わせていたらしい。互いに初めは遠慮していたが、自分の命がかかってると知った瞬間、男は加減することなく殴りかかったとの事だ。
そんな時に上空からの甲殻類の昆虫種が飛来してきて、子供を攫って飛び去った。だが、イグムットはそんな事どうでもいい。
騎士が死のうが、奴隷が死のうがイグムットと本人とは違い替えがいくらでもきく。なによりも困るのは、ミネルバ達に屋敷内の秘密がバレる事だ。
故に、騎士を見下して冷めた視線で穿つ。
「申し訳ございません」
「分かればいい。俺は明後日、東の領主と会う事になった。お前達は、ミネルバ達を絶対にこの場に入れるでないぞ」
冷淡に言葉を吐き捨ててみれば、プライドを捨てた騎士達は「はっ」と、高らかに応えた。
──本当に扱いやすい人間だと思う。
「それと出立するまでに、奴隷商から大人二人、子供二人を用意しておけ」
「それは──」
「ん? 簡単な事だろ」と、イグムットは笑みを浮かべる。
「アイツの実験体だよ」と、屋敷内でイグムットと騎士達が話している中、ミネルバ達は現在進行形で作戦会議をしていた。
「まず、リガル達が何処から攻めてくるか──だが」と、壁に張りつけた地図を細い棒でミネルバがなぞる。
「うんむ」と、ガラックは相槌を打ち、間髪入れずに口を開いた。
「そ奴は一体どれぐらいの兵力なんじゃ?」
「確かに、規模が多ければ身動きが取れる場所も限られる」
アディルもガラックの話に乗っかる。ミネルバは、皆の視線を浴びながら横に首を振るう。
「それが、全く分からないんだ」
「分からない? ギルドから抜けた連中から逆算とかは出来ないのかの?」
「ああ。何せ、行方不明者が多すぎる。金等級の冒険者だって、死因がハッキリしていない者が数多といるんだ。それら全員と考えた時」
「なるほど。万は行かずも千はいくかもしれないって事じゃな。──と、なれば」
ガラックは立ち上がり、ミネルバから棒を受け取ると地図をなぞる。
「まず、奴らが身を隠せるのは大森林とかに限られるの」
「やはり、ファルル付近にある森の中か」
「じゃな。しかし、あそこはエインフェで一番広い森じゃからな。探すよりは、戦力を固めておくべきじゃろう」
確かにガラックの発言は、芯をついている。と、ミネルバは相槌を打って反応を示す。いくら、万を超える騎士が居たとしても。
彼等を偵察に向かわせれば、その分演習にほころびがでる。
「偵察に向かわせるのは、一個小隊規模(一〇〜五〇人程度)が妥当か」
「じゃの。必ずしもそこにいるとは限らぬ。故に、儂らがやらなくてはならないのは対冒険者に対する迎撃陣形じゃ」
「ガラック卿に賛成だな」
「む? アディル卿もか」
腕を組むアディルをミネルバは見つめて問うた。
「ああ。正義とは悪に対して、常に遅れをとってしまう。しかし、その分準備もできるだろ?」
「確かにな」
「ちょっといいかしらん?」
周りが頑丈な鎧や腰から鞘を滑らせている場で、淫靡であり力の抜けた様な声の持ち主は、白装束に身を包んでいた。
ミネルバはキセルを口に咥えた彼女・ナターシャ=サリウスを瞳に写し口を開く。
「どうした? ナターシャ卿」
「相手は白魔道士なのよね?」
「ああそうか。ナターシャ卿は、魔道隊隊長だったか。ならば、何か思い当たる節があると?」
魔道隊──
その名の通り、魔法を用いて回復や攻撃を担当する隊である。
ミネルバの問に白い煙を吐き出し、ナターシャは言う。
「そうねぇ〜地略だけでは意味をなさないわん」
「と、言うと?」
「白魔道士の得意とするものは支援。それは不可視化魔法や浮遊魔法等がいい例ね。つまり、彼等は空から襲撃してきてもおかしくはない。森に偵察を送ったとして不可視化魔法を看破できなきゃ、襲われておしまいよ」
「話が見えてこぬな。何がいいたい?」と、地図の前に立つガラックが問う。
「私達を貴方達の隊に組み込みなさい」
「組み込む?」
「そうよん。今まで私達は後方にての攻撃だった。けれど、今回に限っては対魔道士戦と考えるべき。リガルと言う人物が、自分の仲間にバフをかけないとは到底思えない」
「なるほど。つまり、私達は冒険者同様の戦法をも組み込む必要があると」
「流石ミネルバ卿ね。話が早いわ。魔族相手には特攻等でも通用したかもしれない。けれど──白魔道士は厄介よ」
「ほう。回復等しか使えない職に危機を覚えるなんてナターシャ卿は、珍しい」と、アディルは言葉を漏らす。
「当たり前じゃない。回復も出来れば、味方の能力向上を促すことだって出来る。だからこその、対白魔道士よ」
「そうだな。ならば、我々も新しい試みをしなくてはならないって事か。ナターシャ卿が率いる魔道隊を組み込んだ陣形か」
「そうね。例えばアディル卿の重盾歩兵隊に、私達は加速魔法や魔防御等を付与するだとかね〜あとは、対空戦も考えておくべき」
「分かった。明日はそれらを踏まえた陣形を考えよう。各々、しっかりと自分の隊に滞りなく連絡を行き届かせれるようにしておけ。では、今日の会議を終わる」




