使命と決意
最新章突入です。初めのうちは、リガルサイドではなくミネルバサイドの話になります
「ご苦労だったな」
無愛想な態度でイグムットが、馬車から降りるなり冷たく言い放つ。皆はその対応に嫌な顔一つせず頭を下げていた。
「それでは、イグムット公爵殿。長旅の疲れをとってください」
「うむ」と、重厚な鉄扉が、鈍く大きい音と共に開くなり単調に返事をし、イグムットは屋敷内へと入っていった。
ミネルバ達は、予定より一日遅れで領地に辿り着き、領主であるイグムットの屋敷がある中央都市エーテラへ到着する。
エーテラは、エインフェで一番大規模な都市だ。人口は市民が孤児院など合わせ凡そニ〇万。騎士は約七万(各街への配属も合わせて)。
その他に此処には東西から、様々なもの達がやって来るのだ。人口密度はかなり高い。因みにアヴァロンは、その倍以上である。
別名・眠らない都市エーテラ。
その名の通り、この都市は昼夜問わずに活気があり賑わっている。治安も正直良くはない。奴隷商がある事等から、拉致や誘拐、喧嘩に詐欺。様々な事件が日常茶飯事おきている。
故に騎士も休まる暇がない。しかし、ミネルバが団長になり、高台を至る所に建造したのが功を奏する事となる。騎士達の負担は限りなく減少、犯罪などにも迅速に対応が可能となったのだ。
「では、私達も詰所に戻るとしよう」
豪勢な屋敷に背を向け、ミネルバは再び馬を跨ぎ轡を引いた。
「ですね」
「それと、各隊には連絡しているのだろ?」
馬を上手く扱いながら、ミネルバが問い掛けると、夕焼けを照り返す白銀の鎧を装備した騎士は頷く。
「はい。各隊の代表は、詰所にくるようにと」
「ありがとう。助かるよ」
「いえ。これも自分の与えられた職務なので」
「そうか。私は良い部下に恵まれたな」
「あー! ミネルバ様だ!!」
「本当だ! ミネルバ様だ!」
ミネルバが騎士と話していると、歩道から子供の呼び声がした。咄嗟に視線を動かすと小さい男女が、手を振っている。
「すまない、先に行っててくれ」
「畏まりました」
先を行く騎士達に背を向け、ゆっくり馬を歩かせてミネルバは子供達に近寄った。
「僕達は、お父さんかお母さん、どうしたんだい?」と、馬から降りるなりしゃがんで目線に合わせて、優しい声音で言った。
「んとね! お父さんの仕事が遅くなるから、此処で待ってるの!」
男の子が元気よく口にすると、女の子は笑顔で相槌を打った。
「ねー!」
とは言え、時間も遅し、犯罪に巻き込まれないとも言い難い。小さい子供、それに身なりを見る限り不自由はない生活をしてそうだ。誘拐されて、身代金を要求される可能性も大いにありうる。
「そうか。僕達は、良い子だな。しかし、もう遅い。家に帰った方がいい」
「僕達の家は、エーテラじゃないから……」
しゅんと俯く男の子の頭に手を載せ、ミネルバは笑顔を作る。
「そうか、ならば──」
一度立ち上がり辺りを見渡す。すると、反対側に見回りの騎士が二人歩いていた。ミネルバが片手を上げて振ると、気がついた騎士達が駆け寄る。
「団長、よくご無事で」
「うむ。ありがとう」
「で、どうなされたのですか?」
「お前達は、この子の親が仕事を終えるまで護衛の任を与える」
「それでは、見回りの者が」
「大丈夫。私が詰所に付いたら手配をしよう」
「団長が仰るなら従いますが……」
騎士の返答に頷いて「所属部隊は何処だ?」と、問う。
「自分たちは、ガラック卿の者です」
「あの老いぼれか。全く、早く引退すればいいものの、本当、正義心が強い男だよ彼は。よし、ならば私からガラックには言っておく。──それと」
徐に腰にぶら下げた革巾着からキュース金貨を五枚取り出し、騎士に手渡す。
「これは?」と、唖然とした様子を浮かべる騎士に対し、ミネルバは肩を叩いた。
「まず初めに、この子達と入れる食事をする場所を決める。次に、この子達の父親が働いている場所に行き、理由を話て何処で預かっているかを知らせる」
「仕事──でしたら、いつになるか分からないのですよね? そこまでサボっていいのでしょうか?」
申し訳ない様子を浮かべる騎士に、ミネルバは首を横に振る。
「サボりじゃないさ。確かに巡回し大勢を護るのも立派だ。だが、それ以上に個人に対し親身に接する方が立派なんだよ」
諭すように言うと、騎士は姿勢を正して敬礼をした。
「分かりました。ならば、この子達の面倒は責任持って致します」
決意を込めた言葉に頷くと、ミネルバは隣に居る子供二人の頭に手を載せた。
「分かったね? このお兄さん達と美味しいご飯を食べておいで」
「いいの?」
「ああ、良いとも。代わりにひとつ約束してくれるかな?」
「うん!!」
二人が元気よく頷いたのを見て、ミネルバは数回頭を撫でる。
「よし、良い子だ。今後、お父さんの仕事が遅くなる場合は、お父さんに騎士団の詰所に僕達を預けるようにと、伝えておくれ。良いね?」
穏やかに優しく述べると、二人はまたしっかりと頷く。とても明るく元気が良く素直だ。本来ならば、今日も詰所で預かるのが良いのだがそれはできない。
「分かったっ! 約束する!!」
「絶対守るっ!」
この子達が、このまま笑顔で過ごせる国を守らなくてはならないと、ミネルバは再度胸に強く誓った。かならずリガルの野望を防いでやると。
国に戦火を齎さんとする悪逆非道の行為を絶対に許す訳にはいかないのだ。一人の騎士として。
いや、この国の民を愛している一人の人間として──
「よし、では後任せたぞ」
立ち上がり、騎士に告げてミネルバは馬に跨る。鎧が軋む音を掻き消す、凛々とした子供達の声が鼓膜を優しく叩いた。
「ありがとう! ミネルバ様!」
「ミネルバ様だぁぁいすき!!」
子供が進み始めたミネルバに手を振り、ミネルバは左手を真上に伸ばして答えている一方その頃──
イグムットの屋敷にある地下では牛の雄叫びにも似た呻き声が響いていた。




