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ブラックキューブ

読んでいただきありがとうございます。と言うか、ここまで、読んでくれてる人いるのかな……w

いなかったらどうしよwただの独り言みたいなるw

 リガル達がグローリーにて各々、目的に向かって事を進める中──


 そんな事を知る由もないミネルバ達は、アヴァロンから出航し、港町ヤクズ(王都アヴァロンへ海路用いて行ける唯一の場所)に到着していた。此処は、アヴァロンの港と大差ない程に活気付いており、毎日のように人々が至る所から往来している。


「では。イグムット公爵様、道中御気おつけて」と、渋めの声音と共にエメラルド色の鎧を軋ませ、腰を曲げる一人の男性。


 彼こそは、港町ヤクズを含む東の領地ナハブの見回り等を担当している騎士団ユピテリカの団長ウィジット=ルージだ。


「うむ。お前は、右目すらも左目同様、薄気味悪い色にならないように気をつけるがいい」


 馬車の窓から顔を覗かせて、蔑視をウィジットに向けたイグムットは、揶揄う様に貶し気味に言った。それを彼の隣で聞いていたミネルバは、ウィジットの肩に手を添え、イグムットを見て口を開く。


「イグムット公爵殿。彼の左目は領主を──貴方様の血族を護った際に負った名誉の負傷。そのような言い方は止めて頂きたい」


 真剣な眼差しを向けるミネルバに対し、イグムットは面白くないのか、一瞬眉を顰めて舌打ちをした。


「──何が名誉だ。くだらん」


 毒を吐いたイグムットは、窓にかかったカーテンを勢い良く閉ざしミネルバの視界から消えた。

 ヤレヤレと溜息を吐くミネルバの横で、体制を戻したウィジットは、緑色をした短めの髪を掻きながら言う。


「ミネルバきょう、気を遣わせてしまってすまない」


 ミネルバはウィジットに体を向け、首を左右に振るった。


「いやいや、ウィジット卿。貴方の左眼は誉れ高き負傷であり、英雄譚にて語られるべきものだ。なにも謙遜する事はない」


「何を仰るか。あの場に居たのがミネルバ卿ならば、負傷する事すらなかったろうさ」


「その辺でやめておけ、ウィジット卿。己が力に疑問を持つ事はいい事だが、否定をする事はない。もっと誇りを持っていいものだ。それに──」


 ウィジットがミネルバを見つめる中で、顔を逸らして横を見る。


「民に慕われて居るのが何よりもの証拠だろう」


 地元民であろう人々は、時々歩みを止めては軽い会釈をしていた。民があってこその領地であり国だと、ミネルバは思っているし確信もしている。だからこそ、民の信用を得ているウィジットは、国の宝である筈だ。


「帰りを待ってくれている民が居るとはいいものだ」


 数回肩を叩いた後にミネルバは、白馬に跨った。


「行くのか?」


「ああ。私達にも帰りを待つ者達がいるからな」


「そうか。それもそうだな。だが、俺は──」


「俺は? なんだ?」


 ミネルバの問いかけに、視線を伏せたウィジットは暫しの沈黙を作ったのち「あ、いや。なんでもない」と、話を終わらせた。


 些か腑に落ちない部分もあるが、無理に掘り起こす必要も無いだろうと「そうか」と頷く。


「まぁ、なんでもないのなら良いが。もし、何があったなら相談に乗るからな?」


「感謝する。では、ミネルバ卿、長旅、どうかご無事で」


「ありがとう。ではまた」


 轡を引くなり、馬の鳴き声が轟く。ミネルバは、慣れた手つきで馬を操り馬車の前で止まった。


 ここからイグムットの領地であるダースには二日はかかる。気を引き締め、息をのみ確固たる意志を鋭き双眸に宿し、ミネルバは口を開いた。


「では、行くぞ!!」


 凛とした声が喧騒を凌駕し高らかに轟き、総勢二五名で構成された隊は、馬車を囲うように陣を組み進み始める。


 ミネルバは、馬に歩調に合わせ体を上下に動かしながらも、忙しなく瞳を左右に動かし警戒心を強めていた。


 リガル=アルフレッド。


 彼がもし本当に国家の敵ならば、領主であるイグムットを襲うに決まっているからだ。だが、そんな叛逆者に仲間が居るとは思えない。


 つまり、襲うとしてたった一人だ。流石にこれだけの人数を相手に出来るはずがない。ましてや白魔道士だ。前衛特化の我々が負けるはずもないと自負している。


 だが、だが、何故だか胸がざわめいて仕方がない。


 安寧とは言わずも、それでも皆が苦労しながらでも生きていける世の中に於いて、態々争いを齎さんとする意味が分からないのだ。仮に彼の両親が元ワールドトリガーならば尚のことだろう。


 何故わざわざ、家族の顔に泥を塗るような事を──


 いいや、とミネルバは雑念を払う。


 結果としてリガルは、アヴァロンの結界を解いて囚人を一人逃がした。それに留まらず、元ワールドトリガーを殺し、自らも抜けたのだ。それだけで重大な謀反になり得る。


 だが、もし自分が謀反をするとしたなら──


「どうしましたか? ミネルバ団長」


 隣を共に進む親衛隊の一人が問いかけにミネルバは、澄ました表情で答える。


「いや、なんでもない。ああそうだ。一ついいか?」


「はい、何でしょうか」


 真正面を向いたままミネルバは言った。


「この世界は本当に素晴らしいと思うか?」


「それはどう言う……ですが、自分個人の見解で言わせてもらえば、例え今の世の中が素晴らしくなかったとしても、これ以上のモノは望めないし挑めないとおもいますね」


「ふむ。なぜ、そう思う?」


「嘗ては、同じ人間同士の争い、他種族との争いがあったじゃないですか。ですが、今はそれがない。無理さえしなければ命を喪うこともないですよね」


「そうだな」と、相槌をうつ。


「確かに貧困など多々目立つ気はしますが、それは自業自得だと思うわけです。研鑽けんさんを積めば、アヴァロンで勤める一人の騎士の様に市民でも」


「だがそれには運がいるだろ。誰しもがなれる訳じゃない」


「確かに市民が騎士になるのは、無理に等しいですよね。しかし……なにも騎士とは言わずも、仕事はあるじゃないですか。それに──」


「それに?」


「イグムット公爵様の計らいで、孤児院の子供達は貴族に引き取られたりもします。それはつまり可能性があり、這い上がる事が出来るものだと思うのです。未来がない訳じゃない」


 彼の言っている事は分かる。分かるが、それは詭弁きべんだとミネルバは思っていた。


 孤児院の子供達は、貴族に引き取られる事が多い。引き取られなければ、ある程度大人になった時、奴隷商に売られる宿命をおってはいるが。


 だが、実際孤児院の子供達が貴族になったと言う話を未だ嘗て聞いたことがない。つまり、順風満帆とは言わずも、なに不自由なく過ごしてきた騎士の綺麗事なのだろう。


 彼等貧困層は、もはや這い上がれない場所まで来ているのだ。アヴァロンで見た排他的な雰囲気を漂わせるロストの住民達の様に。


 ミネルバは、ふと虐められていたロストの子供を思い出す。石を投げられ、酒をかけられ、大の大人に蹴り飛ばされていた小さき少年を。


 今の世の中は不平等であり、平等なモノは一切ない。未来はあるが、それで言うならば決していい未来でもない。


「それがお前の意見か」


「はい。逆にミネルバ団長はどう考えているのですか?」


 騎士の視線を感じ、ミネルバは顔を仰ぐ。


「私は──民が笑顔になれる世界こそが本物だと思うんだ」


「つまり、この平和は偽りだと?」


「いいや」と、首を横に振る。


「そこまでは言わないさ。ただ、本来、家系で優劣があってはいけないのだと思うんだ。国を動かすのは、民であり、その言葉を聞きどけるのが王たる役目。数多くいる民は石垣や城になれても、王にその真似は出来ない」


「失礼ですが、ミネルバ団長」


「ん? どうした」


 真正面に目線を戻し訊ねると、冷静な声が鼓膜に届く。


「その思想は危険かと思います。ガリウス王や、ワールドトリガーの連中が聞いたのなら」


「はは、すまないな。気をつけるとしよう。と言うか、あそこにあるのはブラックキューブか?」


 指をさす先には、土にめり込んだブラックキューブが数個落ちていた。


「みたいですね。ですが、なぜこんな所に、しかも何個も」


 気になったミネルバは、轡を上下に動かし馬を走らせてブラックキューブがある場所に向かった。


 そして辿り着くなり、馬から降りてブラックキューブを手に取る。


「何が録音されているんだ?」


 もしかすると、魔族に攫われた商人が助かる手段として残した物かもしれない。ミネルバは赤いボタンを親指で触れた。


『俺の名前はリガル。リガル=アルフレッド──』

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