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実力差

読んでいただきありがとうございます!

「リガル様、本当に構わないのですね?」


 ディグの声が朝日もまだのぼりきらないグローリーにて、リガルの鼓膜を叩いた。夜、ミューレと話した場所に二人はいる。


 この場は、他に比べ足元もしっかりしているし、海の近くってこともあり木々も生えていない。


 つまり、鍛錬にはもってこいだ。


「ああ、早くやろう。寒くてかなわないよ」


 昨晩のうちに、リガルはディグに剣術の指南を乞うていた。ディグは驚いた様子を浮かべつつ『リガル様に比べたら』等と謙遜していたが、無理やりにリガルは説得させ、今に至る。


「では、構えてください」


 冷静沈着な声が鋭さを兼ね備え、一切の澱みなくリガルに届く。

 生唾を飲み込み、目を瞑り一度深呼吸をした後──


 肌寒い風が衣服の隙間を縫って肌に突き刺さる中、リガルは身震いをしながら頷いた。


「分かった」


 リガルは、白銀の鎧を脱ぎ(体の動きや、軸の重要性を知って欲しい為らしい)骨だけとなったディグを眼前に木刀を構える。木刀を使う理由として、純粋に剣術を学ぶため、魔力を使わない為の手段だ。


「いつでも来てください」


 両手で掴んだ木刀の切っ先を天に向け、刃にあたる部分をディグに向ける縦に構えるリガル。方やディグは、脱力し片手で掴んだ木刀を斜に構え、ただ(・・)立っているだけだ。


 嘗められている──と、本来なら第一に、そんな自己陶酔地味た、自分勝手な怒りが込み上げるだろう。しかし。今のリガルには、それ等が一切なかった。抱く事も感じる事も出来る筈がなかった。


 ディグが本気を出すまでもない相手である事を、必然的に納得せざるを得ない。理性ではなく、本能がリガルに告げている。


 ディグに比べ、リガルは弱者であり刃を交えれば敗者になりうる者だと。


 それに、“嘗められている”などと言った感情を持つ事自体が恥だと、ディグの存在感が知らしめているのだ。


 ──付け入る隙もない。


 ただ立っているだけだ。なのに想像ができない。勝てる方法どころか、ディグに一打与える事すら、だ。横から斬り掛かる、あるいは回り込み背後から──ありとあらゆる戦法せんぽうを彼は、内から滲み出る覇気を以て打ち砕く。


 重く伸し掛る威圧感を、本能が危機感とし与え続けた。


「どうしたのです? リガル様」


 ディグの単調な問いかけにすら、後退りを余儀なくされる状況下。ただそれでも、戦意だけはどうにか持ち堪えていた。しかし。想いだけでは、意思になり得ても意志にはなり得ない。


 ──このままでは意味がないだろう。


 リガルが右足を半歩前に出し、左足の踵を地から離し、爪先つまさきに力を込め、ダメ元だとしても試みを決意した時だった。


「ですが──まあ」と、微風のような穏やかさを持った声音がリガルの耳を掠め──


 服や髪を後に靡かせる程の突風が全身を襲った。堪らず腕で顔を塞ぎ、目を眇めたのと同時にリガルは驚愕する。


「──ッ!?」


 目で追う事ができなかったのだ。ただ結果として、数メートル離れていたディグが一瞬のうちに距離を詰め目と鼻の先にいる事だけが理解出来た。


「まずは構えから、ですね」


 塞いだ腕でで掴んでいる木刀をディグは握り、圧倒的な実力差を見せつけて告げた。


 腰が抜けそうになる脱力感をどうにか踏ん張り、持ち堪える。深呼吸をし気持ちを宥めてリガルは頷いた。


「そうなのか?」


 型なんか当然知るはずがない。ただ当てればいいとすら思っていた。この間に押し切ろうと力を込めてみたものの、微動だにすらしなかったのも事実である。


「ええ」


 木刀から手を離し、ディグは再び定位置に戻るなり、木刀の切っ先をリガルの目線ほどに向け斜めに構えた。


「剣術には型があります。その基盤となるものが“五行ごぎょうの構え”です」


「五行?」


 ディグに習うように、リガルも真似て構える。


「そうです。今、リガル様が構えているモノは“中段の構え”と言い、様々な型への移行が滑らかに行える攻防に優れたモノです。私は、正眼の構えと呼んでいますが」


「正眼の構え、か」


 だが、言われてみればこの構えは相手との距離も測れるし、なにより木刀が振りやすい気がする。リガルは体に叩き込むように、柄を強く握って頷いた。


「続いては──」


 こうしてディグは、リガルに五つの構えというものを教えた。


 正眼の構え・天の構えに続き地の構え。

 リガルが無意識にしていた型は八双の構え。そして、ディグが先程していた構えと似ている、陽の構えだ。


 それぞれに特性があり、天の構えで言えば木刀をおおきく振りあげた状態を言う。この場合、切っ先は背後を指し刃全体は天を向いている。


 速さや威力は他の型に比べても一目瞭然だが、欠点として防御には向いていない。等と、様々な意味合いがあり応用し連鎖を繋げるのが経験であるとディグは言った。


 ただ、それらを踏まえたとしても──


「ぬぁっ!?」


 陽の構えをしたまま距離を詰め、横一閃に斬り掛かる刹那、ディグは地の構え(切っ先をなるべく水平になるように、下ろし構える型。防御に適した構え)からの突きで防ぐ。


 間一髪、横へと体をクルリと回転させ避けたが、ディグの突きは空を切る音と共に間違いなくリガルの鳩尾みぞおちを捉えていた。


「いい判断ですね」


「はは、そりゃどーも!」


 容赦ない一撃を実感したリガルを襲ったのは、身震いすら禁じ得ない高揚感。


 ──楽しい。


 ただ、一つ気に食わない事があるとするならば、鍛錬を再び始めて小一時間程度だろうか。


 その間、ディグは一切型を変えず。それどころか間合いを詰めたりもしない。

 リガルは、上がる息を汗を拭うのと同時に呑み込み切っ先をディグに向けた。


「これじゃあ、練習にもならねぇ。ディグ! お前も攻めてきてくれ」


「練習……には、なってると思いますが」


 図星だ。攻めてる筈なのに結果的に防戦一方になっている。


「私的には“じゅうよくごうを制す”などといったものも、体で覚えて欲しかったのですが……まあ、体で覚えると言う点に於いては間違えではないですし」


「だろ?」


 リガルは、正眼の構えをし、浅く笑う。


「ええ。では、参ります」


 ディグもまた正眼の構えて距離を詰める。洗礼された立ち居振る舞いは、美麗でありながらも恐ろしさを感じざるを得ない。

 緊迫感した空間で、リガルの律動が風のざわめき等を押し殺し、鼓膜を叩く。


 それは、逆に静かであり、余白すらない精神の研ぎ澄まされた空間だ。


 辺りの視界が歪み、目の前でゆっくり距離を詰めるディグだけが鮮明に写っている。


 リガルは「ふぅー」と、口を少し開き歯の隙間から息を漏らした。


 全ての息を出し切った所で呼吸を止め、剣呑けんのんな瞳でディグを穿つ。間合いに入った所で、木刀の刃は唸りを上げるのと同時に天を向いた。リガル自身も痛手を負う覚悟の元、ディグにどうしても一撃を与えたかったのだ。天の構えに切り替え縦に斬り掛かる。


「っらぁあ!!」


 軸足で土を蹴り飛ばせば、ふくらはぎには電流が走ったかの様な痺れが伴う。間違いなく全力であり、今まで出したこともない気合いの籠った猛攻だ。


 ──だが。リガルの目が鼓膜が捉えたのは、木刀と木刀が激しくぶつかり合う音よりも軽い音と、前のめりに体制を崩している自分。


 そして、地にめり込んだ切っ先を踏みつけるディグの足だった。


「え?」


 間の抜けた声がリガルの口から漏れる。


 状況把握が出来ないまま見上げれば、ディグの刃が鼻に触れた。


「経験ですよ、リガル様」


「経験って、いやいや……」


 そんな言葉で片付けられるものでもない。間違いなくリガルの間合いにディグはいたし、木刀と木刀がぶつかり鍔迫り合うのがイメージ出来ていた。なのに、ぶつかり合った感覚なんか微塵とない。不可思議な現象は、圧巻と言った感覚をリガルに植え付けた。


「魔法とか使ってないだろ?」


「はい、使ってませんよ」


「だよなあ……凄すぎだろ」


 力は一気に脱力し、その場に尻をついて座り込む。


「何をしたのかだけ教えてくれないか?」


「私は、流れに身を任せただけ──です」


 ディグは木刀を鞘に滑らせるような仕草をした後に「隣に座っても?」と、問うてきたので、リガルは短く頷いた。


「流れにとは?」


 隣に座ったのを確認し、リガルは再度問い直す。


「先程も言いましたが。柔よく剛を制すや激流を制するは静水といった教えがあるのです」


「ふむ」


「私は、リガル様が天の構えから振りかざした一閃を後ろへ跳躍し回避。そして、同時に勢いの乗った切っ先を軽く叩いたのです。あとは、次なる手を防ぐ為に足で踏みつけた。コレが一連の流れですね」


 淡々と説明をするが、それがどれだけ難しい事か。ど素人であるリガルにすら理解が出来ることだった。


「ディグ、これからも俺を鍛えてくれ」


 尊敬を込め、空を見上げながらリガルは言った。


「ええ、私でよければリガル様。貴方の決意と意志を受け止めさせてください」

そうえば、夢でアストルフォきゅん2枚抜きしてるのを見ました。良くよく考えたら十連できる聖晶石もなかった。くそう!!


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