白魔道士と剣士
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リガルが自分を見つめ直すと決めてから、数時間が過ぎていた。移ろい訪れた暗夜は、来た当初に比べてとても暖かい。季節的な意味ではなく、体感的とも少し違う。気持ち的に、暖かい。
火の光が灯り、芳ばしい香りが煙と共に空へと上る。火を囲うように皆が座り、個性豊かな表情が闇夜に花を咲かせた。活気が彩る命の歌が、嘗ては静まり返っていたグローリーに響く。
皆が笑い楽しんでいる中、リガルは一人、歩いて一五分程度で着く崖へと来ていた。
慌ただしく岩肌に波が打ち付け、時折みずしぶきがリガルの顔にまで届く。付着した海水を拭うと、満月を見て深呼吸をした。
「考え事ッスか?」
その声は自然と心に入ってくるような、あるいは見透かされているかのような、憂いも気遣いも感じられない、単調な声音だった。
リガルは、首を捻り後ろに視線を送る。
「考え事っつーか、まあ、そうですね」
「ふうん? 私が見てる前で飛び降りるのだけは勘弁ッスよ?」
倒木に座り、帽子を深く被ったミューレは言った。その言葉にリガルは、自分がそこまで追い詰められていた雰囲気を醸し出していた事を知る。
「申し訳ないです。そんなつもりはないですよ」
もしかしたら、周りも気が付いていたかもしれない。気を遣わせるだなんて、男として情けない事だ。
「まあ、保険金すら手続きしてくれたら、世はこともなしなんッスけどね〜」
揶揄うように、軽い声音で言うミューレに対して、リガルは愛想笑いで答えた。
「はは、殺されるのはゴメンですよ」
振り返ると、ミューレの元に歩み寄り隣に座った。
「はい、コレ。暖かいうちに飲んで下さいッス」と、コップをリガルに差し出す。
「ありがとうございます。じゃあ頂きますね」
両手で受け取り、口へ運びゆっくりと喉を鳴らした。五臓六腑に染み渡るのを感じ、白い息を吐き出したリガルは「苦いなっ。でも美味しい」と、言葉を漏らす。
「それは、良かったッす。──で、どうしたんスか?」
ミューレは、燦然たる星々や月が見下ろす中で言葉を紡いだ。耳をピクリと動かしたリガルは、口を開く。
「俺が出来る事ってなんだろうかって」
「出来る事……ッスか?」
「ええ」
相槌を打つと、ミューレは飲み物を一口飲んでから言った。
「もうやってるじゃないッスか。リスクさんにしか出来ない事を」
「……あ、いや。違うんです」
「何が違うんスか?」
視線を感じたリガルは、赤い髪を掻き上げた後に言う。
「俺にしか出来ない事を探してるんじゃないんです。俺にでも出来る事をしたいな、と。皆の役に立てるようなそんな──」
「なるほどッスねぇ〜。事それに関して、元受付嬢から言えるのは一つッスよ」
「一つ?」
「そうッス」
カタン──と、コップを木の上に置くなり、ミューレはリガルの目の前に立つ。そして、横に立てかけてある杖を取るなり先端を向けた。
「体験──いや、経験を活かすんスよ」
「経験……か」
「そうッス」と、ミューレは頷く。
「カナリさんは、経験を他の冒険者より積んでるはずッスよ。それを摘み取るか、詰んでしまう……それこそ、自分と向き合う事が大事ッスね」
先端でクルクルと円を描き、ミューレは言うが。いや、ちょっと待って欲しい。
「ミューレさん、貴女さっきから人の名前に意味合いを込めるの止めてください!」
「ありゃ、バレちゃったッスか?」
「寧ろバレない方が怖いですよ。ミューレさんに対してではなく、自分に対してですが。──だけれど」
一呼吸置いて、リガルは口を開く。
「確かに、ミューレさんの言っている事は正しい」
「そんな物分りのいいリガルさんに、一つヒントを上げるッスよ」
「ヒント?」
「そ〜ッス。この中では、私とリガルさんしか知らない秘密ッス」
「俺とミューレさんだけ」
自分に言い聞かせるように口ずさむ。
「あとは、リュカっちッスかね」
衝撃を受けた。上手く言葉で表現する事のできない感覚は、それでも間違いなく──リガルの重たく塞がった扉を光が射し込む程度には開いたのだ。
「能力値……か」
白魔道士同士の戦いで、リガルは本能的に魔法ではなく武力を行使していた事を思い出す。
加えてリュカの発言。
『腕力は三〇〇。耐久力は六〇〇』
ミューレが言っていた言葉。
『白魔道士が生涯で得る腕力は、いっても百とか言われてるんスよ。金等級でも。加えて魔力が測定不能ッて……それが、どれだけ凄いか分かるっスか?』
『だからッスね? 【白魔道士】なら、間違いなくリガルさんは、金等級でトップの力ッて事ッすよ』
そして──杖ではなく剣を使っていたシャナクに、魔石を体内に埋め込み武器を必要としなかったマルカ。
身震いを禁じ得ない状況に、リガルはコップを両手で強く掴み思わず笑を零した。
「なあ、ミューレさん。一ついいですか?」
「なんスか?」
「白魔道士と剣士──その両方を取得するのは可能ですか?」
リガルの問い掛けに、ミューレは地面に杖を突き刺すと両手を載せ、顎を手の甲につけて答えた。
「能力があれば可能ッスよ。ただ、どちらかが高ければどちらかが低いのが現実ッスからね〜」
リガルはミューレの目を見つめたまま「他の人なら、ですよね?」
「そうなるッスかね?」
「わかりました。俺は今日より、剣術を学びます」
ここには英雄と呼ばれた者達がいる。彼等に学べば、リガル自身も後衛ではなく前衛で戦える。
「剣術も大変ッスよ?それでも」
「やりますよ。俺は白魔道士ではなく──白魔剣士を目指す」




