竜と種族
読んで頂きありがとうございます。ただいま、最新作を考え中です。連載した際には、報告するので良ければ読んでみてください。
王都アヴァロンにて様々な動きがある中、イザク達はグローリーに辿り着いていた。
「いや、しかし、本当にすげーな」
そんなヒュンズの第一声から始まり、ナイトリッチ達を恐れる事なく話しかけまくる子供達に続き、アビス達を肩車するナイトリッチや、体を抱えて空を飛ぶ昆虫種達。まるでそれは、子をあやすよう親のようだとリガル自身も感動を覚えていた。
「こんな所へ呼び出して、どうしたんだ?」と、話をエヴァに投げかけたのは、それから暫くしての事である。
今、リガルはエヴァの呼び出しに応え、一人で集まりから抜け出していた。
「オヌシには、話しておく必要があると思っての」
思い詰めた様子なのか、とても雰囲気は重々しい。
「話? なんだ?」
歩くのを止めたのは、人気もない原生林の中だ。リガルは丁度いい岩を見つけると、ゆっくり座った。同時に、対面した場所にある岩へ降り立ったエヴァを見つめる。
「うむ。オヌシには、儂等の話をしておかねばなるまいと思っての」
鋭利な双眸が瞬き少なく、リガルを捉える。
「今そんな話をしなきゃいけないのか?俺にはまだやる事があるんだが」
「分かっておる。だからこそじゃ」
「だからこそ?」
「うむ」
エヴァの声は、何故だか心に伸し掛るような重々しいものだとリガルは感じた。
「分かった。じゃあ、話してくれ」
「儂らには、役割というものがある」
「役割?」と、問い直すと短くエヴァは頷いた。
「大陸ロンの事は知っておるよな?」
「ああ、魔王がいる迷宮区がある所だろ?」
「そうじゃ。確かに遥か昔から人には恐れなどを込められ、魔王よばれておるが──」
「なんだよ。持ったえぶらずに言ってくれ」
「そこにおるのは、赤き竜──アイオニオンなんじゃよ」
エヴァの言葉にリガルの耳はピクリと動く。赤き竜には聞き覚えがあったのだ。ワールドトリガーやガリウスが契約しただとか、そんな噂を。
「いや、だが、まってくれ」
そうなると、ワールドトリガー達が竜と契約している事すら確信してしまう。
「儂らはオヌシ等、生き物達に使命を与えてきたのじゃよ」
「使命?」
「うむ。ロンの大陸には魂を循環させる木がなっておる」
「木?」
「世界樹ユグドラシルじゃ」
「世界樹……?」
「うむ──」
風も少なく、静まり返った薄暗い空間には緊張感が立ち込める。
リガルは至って神妙な様子を浮かべるエヴァを見つめたまま息を呑んだ。
「世界とは時を重ねる事に様変わりするもんじゃ。つまり、生きとし生けるものも、じゃ」
「嘗ては違ったってのか?」
「そうじゃよ。オヌシ等は、理性を持つが故に欲深い。それが人間であり、獣人でありエルフじゃ。時には同じ種族同士で。またある時は、他種族で、争いは行われてきた」
「…………」
「ユグドラシルは限界を迎えようとしていたんじゃ」
「限界を迎えたらどうなるんだ?」
リガルの問いにエヴァは、間を数秒開けた後に口を開く。
「輪廻転生の手段が喪われる。つまり、世界は死へと収束してしまう」
「そりゃ……そうなるよな」
「そこで、儂らが産まれたんじゃよ。世界に近き意志を持つ生物として」
「と、言うと?」
「アイオニオンは、悪しき感情と善き感情を選別する」
これには納得せざるを得ない。アルルが言っていた通りなのだろう。魔族の産まれの理由が、怒りや悲しみ恨み妬みと言った浄化しきれない負の感情だとして──
毎日のように人が誰かの手により、死んで行ったのなら、負の感情は当たり前のように溢れ出すだろう。
「選別されたのが魔族って事か」
「じゃな。でなければ、生き物は穢れたままゆえ。突如として現れた敵意と殺意を持つ化物に他種族同士、手を取り合っておった」
「過去形なの、か?」
まあだが、過去形でいいのか。リガルが知っている限り、他種族が手を取り合ってる様を見た事はない。
「うむ。そこに使命が関係しておる」
エヴァから語られたのは、種族の王と竜が深く関与しているとの事だ。人で言うならば、ロンを守る事が昔から王族に与えられていた(それでも、その知識を求めて何度も内戦はあったとかないとか)。溢れ出た魔族を倒す為の武器や鎧の作り方を知識として教える代わりに。
「って事は、つまり」
「うむ。そうなるの。我が友、アルルは獣人の王族じゃろうな。もしくは──」
「もしくは?」
「いいや、これは憶測の範疇を出ぬ。だが、オヌシは獣人が守るべき力を授かっておる事は確かじゃ」
「だが、なら何を思ってガリウスは、獣人の島やリバーバルを」
わざわざ敵を増やす様なことをする意味がリガルには理解が出来なかった。
「分からぬよ、人の考えなど」
「そりゃそーか」と、長めの溜息を吐いた。
「故に、儂から言えるのは、オヌシの存在価値と言うのは、オヌシ自身が思っておる以上のものだと言うことだ。軽率な行動が世界の破滅にすら繋がる事を忘れるでないぞ」
言い放つと、翼を広げてエヴァは宙に浮かぶ。
「まあ、オヌシには護ってくれる者も数多い。大丈夫じゃろ」
「ああ、イザク達か」
「それだけではないと思うがな。では戻るとしよう」
意味深な終わり方は、心の奥に引っかかる嫌な感じだけをリガルに残した。
「ああ、そうだな」と、重い腰を持ち上げ一歩踏み出しても尚、その違和感は取れる事がない。一体、エヴァは何を伝えたかったのか。
彼の真意とは何かを考えてみるが、やはり、納得するような内容は思い浮かばない。だからこそ、今はリガルが出来ることをするだけだと、思い込む事にした。無理やり、思い込む事にした。