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燻る火

これより新章が始まります。

 波が激しく打付ける崖の上にて──


「いよいよ、始まるんだな」


 長いようで短かった二ヶ月を思い出し、リガルはゆっくり口にした。


 ここに来るまで、毎日欠かさずとは言わずも魔石の浄化、転生を行ってきた。


 倒れた事も、血を吐いた事もあったし、悪夢に魘されることだって。それでも、人の心を覗き見るような事だ。当然の対価だとして、リガルは逃げることなく受け止めた。その集大成が──


 ナイトリッチ、一〇〇名。


 マジックリッチ、三〇名。


 昆虫種、一二ニ名(昆虫種とは言え、元は人。リガルは人として見ると決めていた)。


 総勢、ニ五二名の魔族の転生に成功した。


 一人では困難を極めたであろう、魔族を倒す行為も、ナイトリッチのラウンズ、ディグ。マジックリッチのカルマ、ジャンヌ。彼等のお陰で順調に進んだ。


 これに関しては感謝しかない。もう一つは、種族別の特異性も少しだが、理解ができた。


 マジックリッチが策略を練るのに特化している事や。ナイトリッチは統率力があり、武術に長けている事。


 昆虫種は、偵察力や擬態力があったりと、だ。


「我があるじよ、歓迎する支度が整いました」


 思い返していると、後ろから呼び声がかかりリガルはゆっくりと振り向いた。


「そうか。ありがとう」と、立膝をつき、頭を下げるラウンズを見てリガルは、お礼を告げる。


 ──にしても、ラウンズの身につけている物を見て、リガルは良かったなと思っていた。流石に見た目の特徴が分からなすぎたので(実際はあるのかもしれないが)、食料として捕まえた色鮮やかな鳥の羽を、首飾りとしてプレゼントしたのだ。


 ナイトリッチでなら──

 赤色はラウンズ、緑はディグ、青はアズール。


 マジックリッチは──

 紫色がカルマ、白が、ジャンヌ。


 簡易過ぎではあるが、声で判断するよりは失礼がなくて便利だ。


「じゃあ、行こうか」


「ハッ!」


 二人が村に向かう数時間前。そして、ファルルにてミューレ達が必要な物を買い揃え、浮遊魔法ヴィチロークのスクロールを使い出立の準備をしている頃──


 王都アヴァロンにある王宮では、円卓会議が行われていた。


「ええ。間違いがないさね」と、艶やかな女性の声が広間に響く。


 白を基調とした大広間には、大理石でできた円卓が設けられ。高い天井からは、ガラスが細かく装飾されたシャングリラが吊るされ、淡い光で広い空間を灯していた。


 そんな中で、ガリウスを筆頭にワールドトリガー・イグムット公爵達・各領地を護る騎士団団長達が、平等な立場の元で話をしている。


「もーさー、殺しちゃえば良かったじゃん?」と、円卓を囲うように用意された、質のいい椅子に深く腰掛け、おちゃらけた様子で男性は言う。


「お前はただ殺したいだけだろ」


「んな事言ったってさあ? シーカーだってリガルの事を放っておけないだろ?」


「放っておくつもりはないよ、ミロク」


「んじゃあ、こんなつまらない会議やめよーぜ。意味ねーもん」


 ミロク──


 ワールドトリガーにて、遠距離攻撃を担当している弓使い。身のこなしを軽くする為や自然に溶け込むため、迷彩柄をした軽装を身にまとっている。


 ミロクが興味なさげな態度をとると、対面した位置で机が叩かれ、鈍く激しい音が鳴った。皆がその音に視線を手繰り寄せられると、一人の団長。


 白銀の鎧に、赤いマントを羽織った女性が眉をしかめ、鋭く双眸を尖らせてミロクを睨みつけていた。


「うひょー怖っ」と、尚もおちゃらけた余裕を見せるミロク。対して、女性は正義心に充ちた力強い声を震わせた。


「貴様……いい加減にしろよ」


 円卓に両掌をついて、前のめりに威嚇する女性は、領主・イグムット=ヒュースや領地ダース付近の警備。及び治安維持に務める騎士団・ビヨンドの団長、ミネルバ=アイルだ。


「そんな怒るなってー、ミネルバちゃん。綺麗なお顔が台無しだよー」


 頭の後ろに手を回し、大して興味もない様子でミネルバを褒めそやす。


 だが確かに、彼女は数少ない女騎士だ。見た目は、豪傑ごうけつとはかけ離れた美しさを持っている。金色の髪は後ろで一本に結き、使命感に満ちた瞳は琥珀色に輝いている。顔立ちも良く、背丈も平均した女性の身長より高めで目を惹くものがある。


 白馬に跨り、魔族を討滅する姿は、芸術的だとさえ言われていた。

 別名──戦場を駆ける戦姫(オーラクルム)


「顔などどうでもいい。私が言いたいのは、不謹慎にも程があるという事だ。貴様、仮にも国王を護るワールドトリガーなのだろ?もっと真剣に考えろと言いたい」


「へぇへぇー」


 つまらなさそうにそっぽを向いて投げやりに答えるミロクに、ミネルバは舌打ちをし柄に手を添えた。


 流石にこれ以上はマズいと思ったシーカーは「ミロク」と、冷ややかな声を送る。


「あーわかったよ。ごめんね。これでいいかな」


「私は別に謝って欲しい訳じゃない。場を弁えればそれで構わない。で、シーカー殿。先程の話は本当に間違いがないのだな?」と、席に座るなりミネルバはシーカーに視線を移す。


「ああ、間違いがない。俺達はリガルに対し、偵察専門の仲間に頼んでいた。余りにも力をつけるのが早かったからな」


 ミネルバは「ふむ」と、純金でできたコップに注がれた葡萄酒を口に含んだ後に相槌を打つ。


「その仲間とやらが、タナスという者か。私達は一度も見た事がないのだが……本当に信用に足る人物なのか?」


「ああ、大丈夫だ。そしてタナスが行方をくらましたリガルを見つけた時、同時に居たのがマルカだ」


「なるほど。そしてマルカは殺された、と?」


「ああ」


「なぜタナスとやらは助けなかったんだ? 影でリガルと言う奴と繋がっているとかはないのか?」


 ミネルバは、シーカーの発言に対し訝しむ様子を浮かべる。疑念の眼差しを送る中で、それでもシーカーは確固たる趣で頷いた。


「有り得ない」


 たった一言の言葉だったが、だからこその強さがあった。確かにミネルバは、勘が鋭いし、観察眼に長けている。しかし、それは外に向けられる時のみ真価を発揮するとシーカーは知っていた。


 故に──


「そうか……ならば、信じる他あるまい」


 ミネルバは、無理矢理納得をした様子で口を閉ざす。


 確かにマルカは見殺しにした。どちらかと言えば、こちら側で始末するつもりだったのが事実である。


 力の在処を在り方を知ったマルカを生かしておけば、国が乱れかねないからだ。


 察したからこそ、マルカは行方を晦ましたのだろうが、タナスの言葉にまんまと唆されたのである。


 リガルが大切にしていた獣人の生き残りを知っていたシーカーは、利用することを決めた。タナスをマルカに接触させ『ワールドトリガーに戻れる方法がある』と、条件を提示したのだ。


 それが、ファルルにてリガルと過ごしていた獣人を拉致し、リガルをワールドトリガーから脱退させること。


 まんまとマルカは、タナスの言葉を信じ込み実行しシーカーの思惑通りにリガルが始末をしてくれた。

 ただ一つ、例外があるとするなら自ら見つけ出してしまったという事だ。つまり、タナスの存在を知られてしまった。


 だが、まあ。とりあえず、シーカー達は疑われる事なく危険因子を取り除く事ができたのだ。


 加えて──


「故に、リガル=アルフレッドは国家を脅かす者になる可能性がある」


「だな」


「間違えないですな」


 各騎士団、団長が頷き賛同する。


 ただ一人、ミネルバだけは目を閉ざしているだけだが。


「んだけどさぁ? 今は何処にいるか分かんないんしょー?」


 足を組みかえたミロクは、軽い口調で質問をする。


「確かに今は分からないが、いずれ姿を現すはずだ」


「人一人が、国を脅かすとは思えんがな」と、横槍を入れるミネルバにシーカーは単調に答えた。


「彼はたった一人で金等級に上がった男。予期せぬ事態は想定する必要がある。だろ? それに、リガルは牢獄から犯罪者を脱獄させている。あいつ一人ではなし得ないとしても、塵も積もれば山となる、だよ」


「そうそう~。反感を持ってる奴なんか一杯いるんだからさ? 冒険者や──君達騎士の中にもね?」


 揶揄うように、ミロクは薄ら笑いを浮かべ話を続けた。


「冒険者が肉弾戦のプロだとしたら、騎士達は統率、戦術のプロ。彼らがもし、リガルと言う人間のカリスマ性に見惚れて国を捨てたなら──これは間違いなく大戦になるよね~」


「それは間違いがないが」


「それに、彼はアヴァロン上空に張っていた魔法を解除までした。国家を危険に晒したのだ」


「それに関しちゃ、今一人の騎士に事情を聞いてるさね」


「なんか進展はあったのか? リザ」


 シーカーの問いに、黒いとんがり帽を深く被ったリザは、首を振るう。


「いんや。『何も見てない』の一点張りさね」


「そうか。なら引き続き事情聴取をたのむ。──丁重にな」


 シーカーの言葉にリザの口角は怪しく吊り上がっていた。


「丁重に……ね」


 リザの返答に頷いたシーカーは、ぐっすり眠っているガリウスを横目に立ち上がる。


「これより、リガル=アルフレッドを国家に対する大罪として指名手配をする。情報は随時、報告するように」


「分かった」


「あいあいさ~」


「よかろう」


「分かったさね」


 皆がシーカーの話を受諾し立ち上がった。


「俺達ワールドトリガーは、この国を護る事を重きとする。つまり、ミネルバを含めた君達にも責任がある事を肝に免じて欲しい──リザ」


 シーカーの呼び声に頷いたリザは、小さな箱を取り出した。


「君達には、俺達が発明した霊薬を渡しておく」


「これは?」


 ミネルバが問いかけると、間髪入れずにシーカーは答える。


「一時的ではあるが、潜在能力を引き出してくれるものだ。白魔道士とはいえ、金等級。何があるかは分からないからな」


「そーゆことさね。各騎士団に一〇〇個づつ配るさね」


 豆粒程の赤い玉をリザは配る。


 ミネルバを含めた団長達は、なんの疑いもなく受け取り、背後にいる騎士に手渡した。見届けた後にシーカーは、再び口を開く。


「では、健闘を祈る」


読んで頂きありがとうございます。


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