アルゴノーツ
投稿二日出来ずにすいませんでした。
モチベが上がらず、中々書けなかったです。今日出来たら、もう一話投稿致します。
村を離れ、暫くしての事だ。辺りは再び原生林が自然の逞しさを知らしめている、そんな中──
「リガル様」と、先頭を歩くディグが冷静な声音で名前を呼ぶ。
「どうした?」
そう答えてみれば、剣を鞘からゆっくりと抜いて切っ先を進行方向へと向けた。目を凝らしてみれば、先の方から微かに岩肌が見える。
その姿を見てリガルが抱いたモノは、緊張感ではなく、安心感だった。以前のパーティとは比べ物にならない程の。
「偵察隊からの報告です」
務めを果たすディグをみて、リガルは穏やかに応える。
「この先にいるのか?」
「はい。魔法使いが複数体確認されております」
魔族は、認識したものと念話が出来るらしい。一度死んで、天に干渉した故に得た力かは分からないがとても便利だ。
いやしかし、魔石を用いた連絡手段がある御時世、ディグやラウンズが念話出来ても不思議ではない。
「よし、魔石は破壊せずに倒すぞ」
「畏まりました! では、先駆けはこのディグがいかせてもらいます!」
切っ先を向けたまま水平に剣を構え、ディグは重々しい足音を鳴らしつつ駆けた。
物凄い足の速さだ。ナイトリッチ達を転生させて以来、討伐は彼等にほぼ任しっきり。流石に申し訳ないと思い、今日は自ら討伐に出た訳だが。
ディグの勇ましさは、正に勇猛。
恐れる事なく、敵の群れへ突っ込んで行った。そんなディグを見て、生前の彼を気になるのは自然な事だろう。
リガルは勝手な想像をしつつ、駆け足でディグの後をおった。
──しかし、彼等の戦闘を目の前にしリガルの足は止まる。
「さあ、どうした?! 魔法使い! お前等の力はその程度か?」
付け入る隙もなければ、物凄い緊張も漂っている。
剣を構えるディグと対峙してるのは、四体のマジックリッチだ。真っ赤なローブを頭から羽織り、隙間からどす黒い眼窩を覗かせている。
マジックリッチは、手のひらをディグに向けて浮遊していた。
魔力が錬られているのを、リガルが感じ取っているとディグはゆっくりと回り込むように歩き始める。
いつしかマジックリッチは、リガルに背を向けた体制となった。つまり、ディグがリガルに気が付き、上手く誘導してくれたのだろう。ラウンズの命通り、守る為。
硬き忠誠心と、心強い使命感を目の当たりにし、リガルの胸には、熱く滾るモノを感じた。
マジックリッチに杖を向けた時、自然とディグと目線が交わり、気がついた戦士はゆっくりと首を横に振るう。
だがそれに気が付いたマジックリッチは
「ケクケケケ」と、不気味な笑いと共に、首を捻りリガルを視界に捉える。
やはり、戦いに参加すべきだと解に至る一歩手前でディグの声が轟いた。
「余所見をするな! デーフェンシオ!!」
いつかスケルトンで見た白い靄が、ディグの体から蒸気のように溢れ出し、やがて目を細める程の光を放った。
「なんだ? なにが」
リガルは、杖を持った手で光を遮り、目を眇め、原因であるディグを見てスグに異変に気がついた。
リガルに気がついた筈のマジックリッチが、リガルではなくディグを見ているのだ。
知能がけして低い訳ではない。己が危機状況ぐらいは判断できるし、だから負けそうになると逃げたりもする。
状況判断ができるマジックリッチが、リガルに背を向け直す。目を逸らし見逃すこと自体が有り得ない。そんな事態を作ったのが──
デーフェンシオと言うディグが放った、技によるものなのだろう。
限界突破を付与した事により、取得したモノと考えていいはずだ。
「さあ、どうした魔法使い!」
「ケ? ケカカカカ」
マジックリッチの重なった怪しい声と同時に、ディグがいる場所の背景が赤に染った。
「四体、同時に火属性の魔法か!」
流石は、知能がある。魔力を集合させて使うつもりなのだろう。ここは、やはり
魔法反射を唱えたり支援に入るべきでは。
リガルの言葉は、声にならずにいた。
今此処で間に入れば、ディグの想いを無下にする事になるのではないか。
だが、見殺しにしていいはずも。
「いいやそうじゃない。ディグを信用するんだ。ディグが俺に魅せようとしている忠義を」
深呼吸をし、ディグに熱い視線を送る。
「リガル様が見ている前で、恥はかけないからな! 一撃で終わらせてもらう」
「ケクケカカカカ!!」
奇声にも似た甲高い声が、ディグの声を凌駕した矢先に放たれたファイヤーボール。四体分の魔力が重なり、より強い力を伴った火の玉は人一人をゆうに呑み込む大きさとなっていた。
白等級の冒険者なら即死は免れない魔力を感じ、リガルが最悪に備える中──
「英雄の一振」
その声は、穏やかに冷静に轟音を立て燃え盛る炎の玉諸共、マジックリッチ四体を横一閃に斬り裂いた。
剣を鞘に滑らせ、中腰から姿勢を正して立つディグを見てリガルは声を漏らす。
「アルゴノーツ??」
全く聞いたことがない技だ。魔法剣の上位には破邪剣等が上げられるのだが、アルゴノーツと言うのは聞いたことがない。
ナイトリッチが限界突破した事によって取得したものなのか。あるいは、ディグ特有の技なのかは分からない。だが、マジックリッチを切裂く刹那に感じた覇気は鳥肌が立つ程に物凄かった。
リガルの気持ちを知らないであろうディグは、辺りを見渡し魔石を手に取ると頷いた。どうやら、安全は手に入れたらしい。
「ありがとう、ディグ」
傍により、お礼を言うと声を踊らせてディグは答えた。
「いえいえ。リガル様を守るのが、このディグの役目。それに、魔法使い如き、リガル様の手を煩わせる事もありません」
「えっと、でも、無理はするなよ?」
「お気づかい、ありがとうございます!」
「それと、ディグ。ちょっといいかな?」
「何ですか?」
「ディグは一体、いつの人──だったんだ? マジックリッチを魔法使いとか言っているし」
リガルの問にディグは「ふむ」と、首を少し傾げてから暫し黙考した。
「私は──よく思い出せないのですが……」
ディグの口から少量の声が漏れ、リガルは相槌を打つ。反応を見たディグはゆっくりではあるが、何かを手繰り寄せるように話し始めた。
「燃え盛る炎の中に居ました。磔にされた私を見ていたのは、悪の信徒ではなく、神へ忠誠を誓った民達でした」
「悪の信徒?」
リガルが杖を地面に突き立て、両手を載せて口にすると、ディグは頷いた。
「ええ。あの魔法使い達を含めた者達。私は嘗て、彼等と戦っていました。来る日も来る日も国の為に」
「って事は冒険者か騎士団?」
「確かに騎士団はありました。しかし、冒険者と呼ばれるモノはなかったと記憶しています」
「じゃあ、騎士だったの?」
ディグは横に首を振るう。
「いいえ違います。確かに騎士団と悪の信徒達の戦いは昼夜問わず行われていました。しかし、私は騎士団ではなく──他の……」
頭を抱えて、辛そうな声を出し始めたディグの肩にリガルはそっと手を添えた。
「ゴメン。もう大丈夫だよ、ありがとう」
「ご期待に添えず申し訳ございません」
「いやいや! 何言ってるのさ! もう十分だよ」
多分だが──
ディグの居た時代は今よりも遥か昔なのだろう。確かに今も女神と呼ばれたりするモノがあるが、天啓や神託を求める者は数少ない。
今時代は、神よりもガリウスを人々は求めている。
「ただ一つ、今の私に分かるのは、先程使った剣技。英雄の一振──アルゴノーツ。これがきっと、私が居た証明なのでしょう」と、骨の手を広げては、ゆっくりと確かめるようにディグは握った。
「英雄の一振か。凄い剣技だったと褒めたいところだけれど、正直何も見えなかったよ。ははは」
「リガル様に見せるほどの技でもありませんよっ。それに、ラウンズさんの方が、私よりも……。ともあれ、魔石である内に、そろそろ」
もう片方の手で握っていた魔石をリガルの前に差し出した。
「そうだな。始めるとしようか」




