グローリー
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湖を出発し、地図と睨めっこを繰り返しながらグローリーを目指した。この間にエヴァからは、様々な話を聞く事となる。中でもビックリした事は、リガルがイザクから手渡された地図が世界地図ではないとの事だ。
世界にはまだいくつもの国が存在しているらしい。
アルルもその話を楽しそうに聞いていて。リガルにとっては、それが一番嬉しい事だった。
「此処がグローリーか」
上空で止まり、漏らしたリガルの言葉にアルルは頷いた。
「ですです」
「うむ。原生林が豊かで良い場所じゃのぉ」
エヴァが感動するのも分かる。
上空から見下ろした緑豊かな島は、緑豊かなとは言え、見慣れたエインフェとは全く異なるものだったからだ。そしてそれは、地上に降り立った時、殊更に感じるものだった。
「すっげぇ……」と、少し開いた口から零れた素直な感慨。
延々と連なる木々には、苔が生え、上部で生い茂る葉が殆どの直射日光を拒む。隙間を縫って射し込む陽が、さながら天使の梯子のようで美しい。
嗅覚も聴覚も、この大自然で満たされてゆく。
無意識に、立ち止まり眺めてしまっていたリガルの裾が、ちょいちょいと引っ張られた。
「あ、ああ。ごめん。どうした?」
すぐ脇に立つアルルを見ると、スっと腕を水平に持ち上げ、リガルとは違う感想を述べた。
「何か、居る、です」
「え?」
アルルの指先を伝い、眉をひそめ目を凝らす。が、瞳に写るのは、木──ばっかりだ。
「魔族か?」
単調に返すと、裾をギュッと握って首を横に振る。アルルの反応に変な緊張感を覚え、杖を強く握った。
「違う、です」
「ふむ。なるほどの。オヌシよ? ちと、あヤツらの元に行こうぞ」
厳しい雰囲気を漂わせる、小さい竜はリガルの返答を待つ事なく先へと翼を翻し進む。リガルにとっても、此処を国にする為、避けては通れない道だ。
否定する理由もないので、歩みを始めた。原生林の中は、ひんやりとしていて、地面も柔らかい。川のせせらぎが何処からか聞こえ、後で探さなくちゃなと考えていると、それは視界に写った。明確に写り明白に分かったそれは──
黒いナニカだ。奴らが、アルル達が暮らしていたであろう、村の中で蠢いていた。
「ここにもコイツらが」
木の影に隠れながら、リバーバルでの事を思い出した。倒す事に大しては苦でない。
──だが、様子がおかしい。
黒いナニカやリガルではなく、エヴァの様子がだ。リガルの頭に止まり、言い出しっぺであるエヴァが、沈黙を選んでしまった。
「なんだよ、見覚えあんじゃねーのかよ」
倒していいのか、まだ模索したいのか。それだけでも言って欲しいし、見つかって囲まれては厄介だ。リガルとエヴァだけならまだしも、アルルが居る。故に、リガルは一応──
不可視化魔法
物理防御魔法
魔防御
を、付与した。
アルルが頭を下げて、お礼を言ってから数秒後、頭の上でお腹が膨らむのをリガルは感じる。
「あヤツらは……」
やっと聞こえた声は、重々しく辛そうな様子だった。
「なんだよ」
「者の強い想い。つまり、思念体じゃ」
「思念体?」
「うむ。生まれ変わりを拒み、死を受け入れられずにいる者。悪意と憎悪の塊であり、喜びと愛を探し彷徨い続ける者。──それが思念体じゃよ」
「なぜそんなことがわかるんだ?」
出来るだけ小声で問う(アルルの小さい手をにぎりながら)。
「言ったであろう。儂は、儂らは世界と共にあると。これぐらいは分かって当然じゃよ」
「そうか……だったな。って事は」
「うむ。こやつらは我が友の同胞じゃろうな。つまり、オヌシが言っていた襲撃は間違いがないのじゃろう」
エヴァの言葉には、納得せざるを得ない。リバーバルで出現した事や、王都アヴァロンでも出現する事(これは、間違いなく理不尽な処刑によるものだろう)。
そして、リガルが初めて出会った場所──あそこでも、ユミル達は仲間を騙し殺してきた。
「なら、思念体が合体するだとかは?」
「有り得ない話ではないの。生き物が同じ思想に惹き付けられるように、ヤツらもまた惹き付け合うかもしれぬ。思念体は一つの集合体となり、無意識にやり遂げたかった事を成すため、動くやもしれぬな」
──なるほど。ならばやはり、リガルに宿る黒いナニカは集合体の可能性があり、それが一番正解に近い。
固有付与魔法──限界突破。色々な者の想いを掻き集めたからこそ、実現した能力なのかもしれない。あくまでも憶測だが。
リガルは、アルルに杖の先端を向けて「付与魔法解除」と、唱えた。
「え? りが、にぃ?」
付与を解除され、困惑を浮かべる横で、リガルが言う。
「エヴァ、お前の言っている事を信じる」
「当然じゃ」
エヴァの言葉に頷いて、リガルは膝をおりまげる。
「エヴァが言った通りなら、あそこに居るのはアルルの仲間達なんだ」
「…………」
アルルは短く頷いて、リガルは優しく髪を撫でる。
「俺は今から、彼等を浄化する。だけど、その前に──アルルが伝えたい想いを彼等にぶつけよう。帰ってきたと、私は無事だったよと」
涙目で、不安そうに見つめているのか。それとも悲しくて涙目になっているのかは分からない。だから、リガルがアルルに持ちかけれる言葉は限られていた。
「大丈夫だ。アルルの傍には俺達が居るし、彼等にも痛い思いはさせない」
「分かった、です」
「うん。じゃあ、行こうか」
「はい、です」
リガルは、アルルの手を握ると木から姿をさらけ出し村へと向かった。
跳ね上がる動悸と共に、息は浅くなり早くなる。宥めるように、杖を握った左手で胸を押え深呼吸をした。
「大丈夫です?」
見上げるアルルに笑顔で「大丈夫だよ」と答え、手を握り直す。
確かに木々に隠れて、浄化魔法を唱えればなんのリスクもない。安全だし、彼等が集合体になる可能性も限りなく少ないはずだ。
しかし、リガルにはそれが出来ない。出来るはずもなかった。
当然だ。リガルは今まで数多くの、無慈悲に殺されてきた人を見てきた。
磔にされたもの、王に目をつけられ牢獄に追いやられるもの。仲間に騙され、金品全てを奪われ魔族の餌にされたもの。
何もしていないのに、島を襲われ全てを取られた者──
それらの、どうすることも出来なかった思いが、思念体として現れている以上は、まだ彼らは獣人なのだ。
つまり、アルルの仲間──
奇襲をかけていいはずがなかった。それが許されるのは、隣でとことこ歩くアルルだけだろう。
村の中へと入ると、生活感もない寂れた家屋が建ち並んでいる。
「ここら辺でいいか」
リガルは徐に、杖で家を思い切り叩いた。乾いた木と木がぶつかり、鳴らす軽い音が静かな村に数回、響く。
次第に思念体は、リガル達を取り囲むように集まりだした。蠢くそれは、まるでリガル達を中心に燃え盛っている黒い炎。
「カエセ……カエセ」
「コロシタイ……ウバイタイ」
「オイデオイデ」
思念体の声が辺り一帯を包む中で、リガルは優しくアルルの背に手を添えた。
「言いたい事を言うんだ。彼らは化物じゃあない。アルルの仲間達なんだから」
リガルの言葉にアルルは、頷いて数歩前に出た。
「アルは──」
「タスケテ、タスケテ!」
小さい声が、思念体の声に押し潰され、アルルの狭い肩は竦み上がる。それでも、リガルに出来ることは、警戒する事のみだ。
アルルはゆっくり、肩を上下させ深呼吸をする仕草を見せる。
「アルは……私は……アルル=ルルベット、です!」
今まで聞いた中で一番芯のある声が、思念体の声を切り裂き響く。
「皆……帰ってきた、です。本当に、ごめんなさいです……。連れ去られた他の皆ももう」
奴隷商か、何かに売られた獣人達だろう。
「多分、生き残ったのはアルだけ……大切な大切な、フーちゃんすら」と、ポケットから翡翠色の魔石を取り出し、両手で掬うようにして見せている。
「こんな弱いアルを──力ない、アルをリガルさんは救ってくれた、です」
声は徐々に震え始める。
「人は怖いばかりじゃないと知った、です」
「だから、アルはこの島を守りたい。皆が居た島を、リガルさんと一緒に、皆が私を守ってくれていたように──」
魔石を持ったまま、胸に手を翳しアルルは深呼吸をした。
「今度はアルが、大切な島を、皆との思い出が詰まった島を取り戻したい、です。人である、リガルさんと一緒に。だからか……だから──」
情緒が不安定なのだろう。声には安定性がなく、脆く弱々しい。
「皆には、見守っていて欲しい、です。大好きだった……大切だった皆には傍に……うグッ……傍……居たかったッ!!」
その場にしゃがみこみ、啜り泣き始めたアルル。もはや、ここまでだろう。と、リガルが片脚を上げた刹那──
思念体は、リガルを通り越しアルルを中心に群がり始める。ビスケ達の死に際が脳裏に過ぎり、リガルの声は上擦った。
「ヤバっ!」
杖を構え、思念体に向けるとエヴァが杖へと降り立つ。
「焦るでない。大丈夫じゃ。奴らには、今悪意よりも忘れていたモノで埋め尽くされておる」
──そんな事を言われて、納得できるはずがない。リガルは、エヴァが乗ったまま杖の先端を思念体に向け息を呑む。
「なんだよ、これ」
リガルの警戒は、功を奏する事はなかった。思念体は浄化魔法を使わずして、色を消してゆく。
一人、また一人、とアルルに一番近い位置に居るものから。それが何故か幻想的で、美しいと感じてしまった。
そして気がつけば、思念体がリガルの前に二人立っている。
「アリ……ガ……」
「ムス……ヨロ……ク」
思念体から発せられた声は、リバーバルで聞いたモノのような敵意に満ちたものではなかった。もっと穏やかで、慈愛に満ちた優しきもの。そして、リガルは直ぐに理解し、構えた杖を戻して頭を下げた。
「必ず、俺が守ってみせます」
数秒頭を下げ、次に持ち上げた時、思念体の姿は一人もいなかった。
少し離れた場所で座り、涙を流すアルルに近づいてリガルは頭に手を添えた。
「愛されてたんだな。違うか、アルルは今でも愛されてるんだ。ここのみんなに、そして俺達に──」
アルルは、暖かい両手をリガルの手に添えて「はい、です。嬉しいです」と、鼻声で言った。
「始めよう。世界平和を願った叛逆を」
とは言え、ユニーク÷ブクマが100越しそうなんすよね。
何がダメなんだろうか、悩みます。書き方に問題があるんすかね〜




